BY RANDY KENNEDY, PHOTOGRAPHS BY PIETER HUGO, TRANSLATED BY MIHO NAGANO
現在88歳の彼は、圧倒的な存在感を示してきたポップアートの創始者の最後の生き残りのひとりだ。彼らは1960年代初頭に美術史に殴り込みをかけた。彼と同時代の芸術家にはアンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインがいるが、彼らはほとんど全員、すでにこの世を去ってしまった。オルデンバーグとポップアートの関係性は、大雑把にいえば、エル・グレコがルネサンスに対峙したときのそれと同じだ。つまりその時代の影響を受けながらも、一匹狼で個人主義が強く、こだわりが強烈すぎる変わり者なのだ。だから、美術史家たちも彼をどう位置づければいいかわからず、常に答えを探しつづけている。
エル・グレコの作品は、似たような思想をもつ、ロマン主義やモダニズムに傾倒した仲間たちの台頭を待たねばならなかったが、オルデンバーグの作品は、同時代のアーティストたちの作品とともに、最初から大反響を呼んだ。彼の作品は、現代生活の中の不要なもの、粗雑なもの、がらくたや捨て去られたものから着想を得ており、それがヒットにつながったのだ。彼の最初の大きな展覧会は『The Street』と題され、1960年にウェスト・ビレッジのジャドソン記念教会で数週間にわたって開催された。そこで発表されたのは、破れた段ボールがぶらんと吊り上げられたインスタレーションだった。それ以来、彼はほとんど常に注目されてきた。いちばん最近の展覧会は、ニューヨーク近代美術館で2013年に開催。その前は、ホイットニー美術館で2009年に回顧展が、グッゲンハイム美術館とナショナル・ギャラリー・オブ・アートでは1995年に開催されている。
だが、ウォーホルのシルクスクリーンが放つ氷のような冷徹な皮肉や、ジェームス・ローゼンクイスト、トム・ウェッセルマン、ロザリン・ドレクスラーらの絵画の色鮮やかさや興奮に満ちたエネルギーと比較すると、オルデンバーグの作品はとんでもなく異端に見えたし、今もそう見られている。特に彼が長年にわたって刷新してきたもの、つまり、彫刻をソフトな布で制作し、アイスクリームコーンや、タイプライター、便器などの日用品を作品として再現して壁から吊り下げたり、床に置いたりする手法は、あくまで異端と捉えられてきた。どの美術館のポップアートの展示室でも、彼の作品はにやにやと笑いながら背中を丸めて、芸術品のふりをするのをとことん楽しんでいる。まるで道化師とうつ病患者を合わせたみたいに見える。美術界への違和感が次第に強くなり、漫画のようなパブリック彫刻を作ることに移行した彼のキャリアの後半では、二番目の妻で、美術史家のコーシャ・ヴァン・ブリュッゲン(2009年に死去)と共同製作をしたが、それによって、彼の過激なスピリットは陰に隠れ、目立たなくなった。その理由にはまた、笑えるおもちゃのような野外作品の多くが、人々からこよなく愛されたからということもあるだろう。