7月からフランスで開催され、大きな反響を呼んでいる『ジャポニスム2018』。パリ在住のライター浦田 薫が、1万点を超える日本美術コレクションを展示するパリ「装飾美術館」のもようをレポート

BY KAORU URATA

 TAKT PROJECTの代表者・吉泉聡に、日仏が今後協力していくべき課題について尋ねてみた。「現在の日仏は、どちらもテクノロジーの面で世界的にも高い水準だと思います。特にフランスでは国の政策もあって新規事業開拓に勢いがあるので、文化の側面からいかに新たなテクノロジーに影響を与え、相互にクロスしていくかがとても重要だと思います。効率化や合理化を超えて、より精神的に豊かな社会づくりにテクノロジーが用いられれば、文化としてのデザインやクリエイションの貢献度は非常に高いはずです」

 日本人の美意識が、“わびさび”や、民藝運動のように大衆から湧き上がる美、削ぎ落とされた禅なる美に象徴されるとするなら、王政が牽引することで生まれたフランスの建築や造形には巨大な労力や物質の持つ力が感じられ、まさに両者は対照的である。しかし、日本とフランスは絶えず惹かれ合ってきた。「効率化や合理化を超えた先を考えるべき今だからこそ、フランスの文化である“物のもつ力”に歴史的なインスピレーションを感じます」と吉泉氏は言う。

画像: 日本のモダンデザインに影響をもたらしたシャルロット・ペリアンの長椅子(1940年) Charlotte Perriand, chaise longue basculante, Japon, 1940 MUSÉÉ DES ARTS DÉCORATIFS © MAD PARIS / JEAN THOLANCE ADAGP, 2018

日本のモダンデザインに影響をもたらしたシャルロット・ペリアンの長椅子(1940年)
Charlotte Perriand, chaise longue basculante, Japon, 1940
MUSÉÉ DES ARTS DÉCORATIFS © MAD PARIS / JEAN THOLANCE ADAGP, 2018

 展示の最後となる「革新」をテーマとしたデザインプロジェクトのフロアは、フランスの建築家ジャン・ヌーヴェルが数年前にリニューアルした。ここでは、三宅一生と田中一光の対話「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」のインスタレーションが実現。また、むき出しの壁の広がる最後の空間には、京都の若手たちがパナソニック社と開発した照明器具「月灯」が展示されている。手漉き和紙職人・川原隆邦の月の満ち欠けを表現した作品が天井から吊るされ、美術館の外のパリの風景や、刻々と変化する空の表情や光に反応する。

画像: 「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」のインスタレーション風景 PHOTOGRAPH BY LASZLO HORVATH

「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」のインスタレーション風景
PHOTOGRAPH BY LASZLO HORVATH

 これら3フロア、総面積2,000㎡におよぶ展示空間の演出を手がけたのは、建築家の藤本壮介だ。「展示品の総数が膨大なので、その中を通り抜けていく際に一貫性と変化のストーリーを体感してもらえるようにとの意図から、素材に和紙を選びました。とてもシンプルで軽やかで“素”の素材でありながら、多様な表情を見せてくれます。幾何学的なシャープさを見せたかと思えば、わずかに丸みを帯びた軽やかさ、また空気の流れのような帯にもなる。あえてくしゃくしゃにすることで動きも生まれます。和紙のもつシンプルさと多様さの同居が、日本文化がさまざまに理解され、互いに影響を与えあって豊かな文化として花開いたという今回のコンセプトと共鳴すると考えました」

画像: 和紙の“素”が生かされた、一貫性と変化ある藤本壮介氏による空間演出 PHOTOGRAPH BY LASZLO HORVATH

和紙の“素”が生かされた、一貫性と変化ある藤本壮介氏による空間演出
PHOTOGRAPH BY LASZLO HORVATH

 パリにも事務所を構える藤本氏に、日仏が相互的に惹かれあい、文化を深めてきた点について体験的実感を問うと、「多くのプロジェクトに関わるようになって改めて、フランスと日本は、繊細さや新しいものへのリスペクトと好奇心、歴史を重んじる気風など多くを共有していることに感銘を受けます。また、パリにいると、日本文化に対する圧倒的な敬意を肌で感じます。それに応えるように、僕たちもフランスの歴史と文化に最大限の敬意を払いながら建築を提案しています。それはとても心地の良いことです」と語ってくれた。「歴史と文化への理解とリスペクトこそが、未来の豊かな社会を作り出す――今回の展覧会を通じて、そんなヴィジョンを日本とフランスがともに発信できたらすばらしいと思います」

 感化し合える文化力。それは、フランスと日本の絆の拠り所であり、これからも、そこから発する共通性や固有性がともに尊重されることで、また新たな可能性が育まれていくだろう。

ジャポニスム2018「ジャポニスムの150年」展
Japon-Japonismes. Objets inspirés, 1867-2018

会期:~2019年3月3日(日)
会場:装飾美術館 Musée des Arts Décoratifs
住所:107 Rue de Rivoli, 75001 Paris, France
電話:+33 (0)1 44 55 57 50
開館時間:11:00~18:00(木曜のみ21:00まで)
休館日:月曜、12月25日(火)・2019年1月1日(火)
公式サイト

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