10代で初めて真剣に写真を撮り始めて以来、キャリー・メイ・ウィームスは、黒人女性のアイデンティティをハイアートの世界に持ち込むことで、ビジュアル創作のルールを書き換えてきた

BY MEGAN O’GRADY, PHOTOGRAPHS BY MICKALENE THOMAS, STYLED BY SHIONA TURINI, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 彼女の父が浮気三昧だったため、長い間、ウィームスは深い関係を持つことを慎重に避けてきた。「『男性とシリアスな仲になんてなりたくない』って思った。父がやっていることを見ていたし、父が大好きだった。だから父には長い間、本当に頭にきていた。『お父さん、私の人生にどんなに影響があったかわかってる?いいことばかりじゃなかったんだから』って言ってやりたい。父の行動を分析しすぎて、あるときついに、父の存在が私の中で灰になってしまったと思うほどだった。それはすごく怖かった。だからある日、彼は人間で、神ではないのだということを受け入れないとダメだという結論に達した」。

 彼女が40代のとき、父とふたりで徹夜で語り明かそうと決意した。彼女はオレゴンに飛行機で行き、彼を海岸に連れていき、お揃いのパジャマを買い、ギャンブルをして、その間ずっとふたりでしゃべり続けた。「ふたりの間にたまったわだかまりを解いていった。こればかりは電話で5分話してできるわけじゃないから。お父さん、新しく関係をつくり直すときでしょ、という感じ」。彼女は父をレコーディング・スタジオに連れていき、インタビューまでした。父は南部で過ごした子ども時代や、彼女の母親への愛を語った。「人生の中で、いちばん素敵な会話のひとつだった」と彼女は言う。2003年の父の葬儀では、ウィームスはこのときのインタビュー映像の一部を流した。

 父を埋葬するとき、彼女は母に対して新たな感謝を感じたという。「このダイナミックで力強い女性に」。今日、#Me Too運動によって、彼女はジェンダーと権力、人種と権力について再び考えさせられるようになった。時に微妙なニュアンスで、また時にはダイレクトに、親しい関係の中にも権力構造の不平等が見て取れる。ウィームスは友人で作家のタニヤ・セルバラトナムの勇気について語った。彼女は以前恋人だったニューヨーク州の前司法長官エリック・シュナイダーマンに暴力をふるわれたことを最近公表した。

ウィームスは主要なアート関連団体の役員会での自身の経験も話した。この団体では、話し合いの場でほかの女性たちの支持があったのにもかかわらず、ウィームスの案が通ることはなかった。だが、その後、ひとりの男性役員が支持を表明すると、団体はやっと彼女の案を検討することにしたのだという。そしてこの種の偏見から自由な者は誰ひとりとしていないのだ。最近、女性アシスタントのひとりがウィームスに、男性アシスタントのほうが高い給料をもらっていることを報告してきた。「いったいどういうこと、キャリー?」とウィームスは自己嫌悪を露わにしてそう言った。

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キャリー・メイ・ウィームス
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 これまで、女性アーティストの作品につけられた史上最高値はジョージ・オキーフ作の『Jimson Weed/ White Flower No.1』の売値だ。2014年に4,440万ドル(約50億円)で取引された。一方、何十人もの男性アーティストたちはすでに何億ドルという高値で作品を売っている。私たちはそういう世界にいまだに生きているのだ。自作品について彼女はこう言う。「市場ではあまり人気がない。そしてこれはアート界全体において継続的な問題でもある。女性の作品と男性の作品の評価のされ方が違うというのは、本当に深刻な問題だと思う。そして有色人種の女性の作品に対する評価がさらに低いのは確かね。私は満足な収入を得てはいるけれど」。

最近、彼女の作品が、アーティストのケリー・ジェームス・マーシャルの作品と同時期にオークションにかけられた。「それは素晴らしかった。私の作品は6万7,000ドル(752万円)で売れ、彼の作品には2,100万ドル(23億5,000万円)の値がついた。ケリー・マーシャルと私はともに同時期にアーティストになり、私たちは友人で、恋人だったときもあった。この業界での活躍も一緒だった。社会的な価値基準でいえば、私たちは平等。でも市場ではそうじゃない」と彼女は言う。数字の違いは明白でショッキングだが、ウィームスの真の価値は、彼女の幅広い影響力に反映されている。ディアナ・ローソンの親密な写真や、ヘンリー・テイラーの時代を超越したポートレート、そしてカラ・ウォーカーの影絵の内省的な希求に彼女の影響力の片鱗を見ることができる。

 個人や人々の価値というものは、常にウィームスの作品のテーマになってきた。そして黒人男性を標的とした数えきれないほどの警察の蛮行から始まって、黒人コミュニティ内部の暴力に至るまで、現代の暴力は、とりわけ彼女の関心を深く呼び起こした。ウィームスは暴力化を加速させる状況と、暴力を可能にする腐敗した権力構造に興味を抱き、その両方を2017年に撮影したショートフィルムの題材にした。『People of a Darker Hue(濃い色の人々)』と『Imagine if This Were You』の2本だ。カメラと黒人の身体は長年の間、ストレスにさらされた緊張関係にあった。だが、文化としての私たちが、組織化した暴力の残虐さにさらされると、それによって失うものも変容してきた。黒人男性が殺害される現場を撮影したビデオが、インターネットで定期的に拡散されるという映像文化の中で、アーティストはどうやって仕事をするのかと私はウィームスに尋ねた。ある意味、これらのビデオは私たち自身のために、不正義をいやでも目撃させる力がある。その一方で、黒人の死を、悲惨で、かつ、何度も見るうちに感覚が麻痺してしまうほどさりげなく提示してくるのだ。

 ウィームスはフィランド・カスティールの名をすぐさま挙げた。彼は2016年にミネソタ州の警察官から、よくある交通取り締まりを受けている最中に射殺された。彼のガールフレンドであるダイヤモンド・レイノルズは、助手席からその光景をビデオ撮影した。「いったいどうやって彼女が撮影できたのか、私には到底理解できない」とウィームスは言う。「私なら、鹿が撃たれるのを見るだけで、本当にもう顔を上げているだけで精いっぱいで、何もできなくなってしまう。でもこれは非常に重要なテーマ。私はいつもこう考えている。『どうやってこれを見せる? 何を見せる? これをどうやって文脈に落とし込む?』って」。

カメラは単にジャーナリズムや芸術の道具というだけではなく、ある意味、それ自体が武器となった―真実を見せてくれる武器に。2年前、彼女は3人の若い黒人男性が白人警官に道の真ん中で止められたのを見た。彼女がカメラを取り出すと、別の白人男性が運転する車が、彼女を妨害するように間に止まった。「私が少し下がると、男も少し下がった。そして私が前進すると、彼も前進した。ひとりの一般市民が、何があろうとお前はこれを撮影しないし、俺が撮影させない、と決意した瞬間だった」

 ある夕方、太陽が沈みかけると、ウィームスはシラキュースを車で案内してくれた。工業化社会が終焉を迎えたことで、さびれてしまった多くの街と同じように、この街は貧困と暴力に深く沈み込んでいた。2002年にウィームスは、クリエイティブ関係の職に就いている地元の若者たちを指導し助言するグループ、ソーシャル・スタディーズ101を立ち上げた。2011年に、ラシャードという名の生後20カ月の幼児がふたりのギャングたちの抗争に巻き込まれて射殺されたあと、このグループは反暴力キャンペーンの「オペレーション・アクティベイト」を企画した。「男はほかの男を殺すことで男になるのではない」や「社会の通説には反するが、あなたの命には価値がある」というスローガンを市内の道路掲示板やプラカードに印刷して掲げ、さらにバーや雑貨店で、同じスローガンを印刷したマッチを配った。

ウィームスは最近、地域の活動家からある若い男性のことを聞いた。彼は2年間、そのマッチを彼のベッド脇の棚の上にお守りのようにして置いていたのだという。「とりわけ、編集作業に追われていたり、ごったがえしているスタジオからやっと出られるようなときはそうなんだけど、誰かが銃で撃たれる映像を見るには精神的に疲れすぎているような日もある」と彼女は言う。「でも、暴力と向き合えば向き合うほど、事態を変えることはできるし、そうすべきなんだと思えるし、かつてないほど希望が湧いてくる。いつかそれを達成できると思える。そう強く信じているし、そういう信念で行動することは私には大事なこと。善意や希望、そして人には権利があり、私たちには、私たち自身でいる権利があるのだという意識を持つことが大事」

 その中には他者を運動に巻き込んでいくことも含まれる。今年、ウィームスにジェシカから突然電話がかかってきた。かつてウィームスの『May Flowers』の撮影モデルになったあの幼い少女だ。今はもう成人女性となった彼女には娘がいて、さらに子持ちの同性のパートナーがいるという。彼女たちは生計を立てるのに苦労していた。「そこで決めたの。『このプロジェクトの被写体はあなたでいく。あなたしかいない』って」とウィームスは言う。「彼女の年齢で、学校を中退したけれど、野心のある黒人女性に何が起こるのか。正しいことをしようとして、子どもを育てて、自分が同性愛者だと決めた女性にいったい何が起こるのか」。そのプロジェクトのために、ジェシカも自らドキュメンタリーを撮り、彼女自身の物語を伝える。ウィームスは贈り物を渡すようなしぐさをして何でもないことのように言った。「『ほら、カメラはここにある』って言ったの」

黒人女性のアイデンティティを撮り続ける写真家キャリー・メイ・ウィームス<前編>

 

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