BY MASANOBU MATSUMOTO
『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2019』
|京都市内・各所
2013年より開催され、いまや京都のカルチャーシーンにおける春の風物詩となった『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』。4月13日より始まった今回も、京都市内の15つの会場で国内外の気鋭の写真家の個展やグループ展、トークショーやワークショップなどが開かれている。
芸術表現としての写真の面白さを伝えることを目的に始まったこのフォト・フェスティバルだが、京都という場所の特性を反映した企ても来場者を楽しませる。展示会場となるのは二条城や寺院、伝統的な町家をリノベーションしたギャラリーなど、京都の歴史的、文化的価値のある建物。なかには通常は一般公開されていない場所もある。
今年のプログラムは、“初モノ”が多い。ひとつは、国の重要文化財「京都文化博物館 別館」で開かれているアルバート・ワトソンの日本初個展『Wild』。アルバートは、映画監督アルフレッド・ヒッチコックやデヴィッド・ボウイ、ミック・ジャガーなど著名人のポートレイトで知られる大御所カメラマンで、本展ではその代名詞たる肖像写真に加え、風景写真、未公開の新作を見せる。
ダンサーとして世界的に活躍し、2013年にパリ・オペラ座の芸術監督に史上最年少で抜擢されたベンジャミン・ミルピエは、今回、自身初となる写真展を開いている。妻ナタリー・ポートマンの主演映画『ブラック・スワン』『ヴォックス・ルクス』の振り付けも担当したことで一般にも認知度を高めたベンジャミンだが、近年は映画監督としての活動にも注力。会場に並ぶダンサーや街の歩行者を被写体にした作品は、こうしたベンジャミンの身体表現と映像表現への探求が結実した、ひとつの実験作とも言える。
もうひとつの注目すべき“初”は、「建仁寺 両足院」を会場にしたアルフレッド・エールの作品展である。アルフレッドは、デザインやアートシーンに多大な影響を残したドイツの教育機関「バウハウス」の教員でもあったドイツの前衛写真家。彼にとって日本初となるこの個展では、水晶や波模様の干潟など、自然が作るかたちや模様をテーマにした写真や映像作品が、庭園を望む大書院や茶室に並ぶ。
また、“被写体の美しさ”だけでなく、写真という表現メディアの可能性を問う良作も集まった。たとえば、ヴェロニカ・ゲンシツカ。他人が撮影したアメリカの古き良き時代の家族写真を元に、デジタル加工を施し、ユーモアに富んだイメージに書き換えた作品を披露している。彫刻家の金氏徹平は、写真を素材のひとつとして使ったインスタレーション作品を発表。こういった「写真」本来のジャンルを超えたファイン・アート的な作品に出会えるのも、“芸術表現としての写真”を伝えるこの写真祭の醍醐味だ。