日本の美術館に続々と女性館長が誕生している。社会における美術館の役割が問われるなか、彼女たちが模索するこれからの美術館像とは? 国立新美術館、横浜美術館、森美術館の新館長が語る

BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY MIE MORIMOTO, INTERIOR STYLED BY MASATO KAWAI

ポスト・コロナに求められる新しい美術館像

―― これから求められる美術館の姿とはどういうものだと考えますか?

片岡 昨年、京都で開催されたICOM(国際博物館会議)で、新しいミュージアムの定義について議論しました。そこでは合意に至らず協議中ですが、今、ミュージアムにどんな本質的な必然性があるのかが問われています。これまでこうだったから、は続かない。急速に変化する時代や社会を反映した、新しいモデルが求められています。

蔵屋 新型コロナウイルスの影響で前の職場(東京国立近代美術館)を臨時休館した際に、休止になった展覧会の動画配信を行いました。再開したら来てくださいね、というトーンで好評だったのですが、もはやいつ再開できるのかわからない段階になると、ネット上だけで見せられてもフラストレーションがたまるばかりとなりました。美術館にも、現物(作品)がなくてもバーチャルなデータでよいのではという議論はありますが、今回の出来事で、逆にそれだけでは人間は満たされないということが立証されました。作品の実際の厚みを見たい。大きさにびっくりしたい。隣で知らない人が感心しているのを見て自分も心を打たれる。現実の体験に人間は飢えているんです。

画像: 蔵屋美香 横浜美術館館長。1966年千葉県生まれ。’93年より東京国立近代美術館に勤務。2008年より、同館美術課長、’16年より同館企画課長を務める。担当した企画展に、『没後40年熊谷守一 生きるよろこび』(2017)、『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』(2019-2020、五十嵐太郎との共同キュレーション)など。第55回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館(アーティスト:田中功起)キュレーターも務め、特別表彰に選ばれる。’20年4月横浜美術館館長就任

蔵屋美香
横浜美術館館長。1966年千葉県生まれ。’93年より東京国立近代美術館に勤務。2008年より、同館美術課長、’16年より同館企画課長を務める。担当した企画展に、『没後40年熊谷守一 生きるよろこび』(2017)、『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』(2019-2020、五十嵐太郎との共同キュレーション)など。第55回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館(アーティスト:田中功起)キュレーターも務め、特別表彰に選ばれる。’20年4月横浜美術館館長就任

逢坂 自分の目、耳、触覚も駆使して、モノに向き合う体験は重要で、AI時代になってもそれができるのが美術館。美術館は、時空を超えて作品を保存し、未来につなぐ場です。

―― 海外の美術館では新型コロナウイルスにより休館するなか、オンライン配信に積極的に取り組んでいます。

逢坂 組織的な観点から言うと、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のように大ぜいの人が働いているところには太刀打ちできないのが現状です。よく海外の大きな美術館と比較され、日本ではなぜできないのか?と問われますが、まず美術館が果たすべき役割を達成するためには、どういう人材、人数を配置し、組織を運営すべきかという議論がない。そもそも日本では、美術館という言葉がいろいろなところで使われています。絵や彫刻が飾ってあれば美術館とされ、美術館の理念や機能、役割、組織を理解している人はいまだに少数です。長期的な視点に立って、美術館とは何かを地道に、さまざまな角度から伝えてゆく必要があります。

片岡 これまで著作権の鎖で縛られ、美術館の中に閉じこめられていたものをオンラインで公開する動きが出てきています。リアルな体験とバーチャルが、それぞれの役割分担を果たしながら、どうバランスをとるかが問われるのではないでしょうか。現代の美術館は、日常から少し離れてグローバルなスケールで物事を見る、大きな歴史を考える、哲学的なことを考える場として重要です。

蔵屋 リアルとバーチャルの両方が必要です。バーチャルなもので多くの人に情報が開かれてゆく一方、そこに行かないとわからないものもある。わかりやすく伝えるのは必要ですが、その先に深く難しい世界があることを知らせるのも大事です。例えば印象派は美しいだけでなく、背景には写真の発明や色彩学の発展など、人間の大きな知覚転換の歴史があります。

逢坂 美術館で密度の濃い体験を一度でもすれば、作品や空間が大切なものになる。美術館はすべての人に開かれているけれど、最後は一人一人に届けられるかどうか。与えられるのを待っているのではなく、つかもうと思ってくれるところまで持っていけるかですね。

―― 館長に就任し、目指す美術館のあり方は?

片岡 森美術館の展覧会は、世界に出合える場であり、 取り上げるアーティストの作品を通して、背景にある歴史や文化、経済、社会も知ることができます。世界の構造を「科目」に分類して学ぶのではなく、現代美術はあらゆる教科が総合的につながっている場所であり、それを実感できる美術館に今後もしてゆきたい。

逢坂 国立新美術館は、コレクションを持たないため国際的な意味での美術館とはいえず、英語では“アートセンター”です。国内でも最大級のギャラリー面積があるという特長をいかし、多様な表現活動と人々が出合う機会を充実させてゆきたい。美術館は、学校教育とは別の観点から自分や世界について知る場です。人間性回復の架け橋になればよいと思います。

蔵屋 私は前職でコレクションを長く扱ってきました。横浜美術館にも12,500点ほど作品があります。日本では特別展が中心になりがちですが、コレクションは美術館の根幹です。いつでもそこにあるというのが重要で、100年前の人が描いた絵を、今の私が見て、それをまた100年後に見る人がいる、ということまで想像できる。今、目の前にない地域や時代に生きる人のことを考えるきっかけをつくるのが美術であり、コレクションはその役目を果たします。コレクションの面白さを伝えていきたいですね。また横浜美術館は、横浜市というローカルな場所に根ざしつつ、世界に開かれた大規模な館でもあります。今は、ローカルな問題がグローバルに直結する時代。横浜美術館はそうしたテーマを取り上げるのにぴったりな場なので、地域の人とともに育ててゆきたいと思います。

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