BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY MIE MORIMOTO, INTERIOR STYLED BY MASATO KAWAI
存在感を増す美術業界の女性たち
―― 皆さんは以前に職場が一緒であったり、引き継いだりという関係性ですよね?
片岡真実(以下:片岡) 私と逢坂さんが出会ったのは1990年代半ばです。当時、逢坂さんは水戸芸術館、私はニッセイ基礎研究所でした。その後、逢坂さんが森美術館のアーティスティック・ディレクターに就任されたときには、私も森美術館に在籍していて重なっていますが、(ロンドンの)ヘイワード・ギャラリーとの兼務だったのであまりお会いしなかったですね。
逢坂恵理子(以下:逢坂) 片岡さんが東京オペラシティ(アートギャラリー)にいたとき、それまでにない企画をいろいろ打ち出しているなと、展覧会をよく観に行っていましたよ。
―― 蔵屋さんは、逢坂さんから横浜美術館の館長をバトンタッチされました。
蔵屋美香(以下:蔵屋) 前職の東京国立近代美術館には26年間在籍しました。そこから他の美術館に移るのは初めてですが、美術館勤務以前はパッケージ・デザイナーの時代もありました。
逢坂 この3人は皆、一般企業で働いた経験があるんです。私が大学を卒業した時点では、美術館自体が今ほどなくて、女性が学芸員になれる可能性も低かった。私はOLを3年ぐらいやりましたね。片岡さんの学生時代は、学芸員という職業は念頭にありましたか?
片岡 ないですね。友人が学芸員資格を取ったので、何それ?と思い、私も取りました。逢坂さんが大学を卒業されたのは何年ですか?
逢坂 1973年です。
片岡 美術館ブームの少し前ですね。
蔵屋 バブルの頃に美術館が増えましたから。この25年で美術館業界で働く女性も増え、今や女性だらけです。正職員は半分以上、非常勤はほぼ女性。でもそれはいいことばかりではなくて、特に非常勤の場合、給料が安くても、実家暮らしで腰かけならいいだろうと見なされて女性が多くなっている。
―― 海外の状況はいかがですか?
片岡 女性のディレクターはたくさんいますが、ロンドンのテート・モダンの館長にフランシス・モリスが就任したとき、「美術館業界はボーイズクラブ。それは変えてゆかなければならない」と発言しました。内部の組織だけでなく、所蔵しているコレクション、展覧会を行うアーティストも含め、基本は白人男性中心です。フランシスは着任すると、急速に是正し始めました。美術館改装後に行った最初の大きな展覧会はコレクション(所蔵作品)の展示で、女性のプレゼンスを半分にまで引き上げると公言しました。それは数ではなくて、ルイーズ・ブルジョワに注目した大きなパートを作るなど、女性の存在感という意味においてです。女性だけでなく、ラテン・アメリカやアジアのアーティストも積極的に取り上げ、トランスリージョナルな展示を行いました。世界をリードする美術館が姿勢を変えることにより、世界全体の風向きが急速に変わってきていると思います。女性の問題は、大きなダイバーシティの一部。マイノリティのアイデンティティに着目し、世界の均衡をどう見せるか。それが世界の美術館が今取り組んでいることです。
逢坂 日本では、美術館運営や館長職は軽く考えられている節があります。本来、美術は、社会や世界の状況、人間についていろいろな示唆を与えるものであり、それに関わる仕事は、考える機会を与える豊かなものだと思っています。でも現状は、組織としてのバランスを図るのが難しい。美術館としてどう運営し、いかに社会に貢献しているか。非営利的活動なので、物を作って儲けようというのとは異なります。高度にプロフェッショナルであることが求められる職業です。
―― 日本において女性の館長が増えることは、美術館が変わる重要な一歩となるのでしょうか?
片岡 女性に限らず、現場をつくってきた学芸員が館長に登用されるようになったのは重要だと思います。
蔵屋 私はただ学芸員がなればいいとも思いません。美術の知識だけで組織運営の知識がないと、方向を間違えかねない。美術に対する敬意と知識、経営的視点、労働環境整備の意識の3つが揃わないとトップは務まらないと思います。今はそのどれか一つだけという人も多いので、自分たちはその3つを見てゆける人間になるべき。ディレクター像の刷新がまずあって、男性でも女性でも能力があればなればいい。