9丁目のタウンハウスで、グリニッチビレッジに今も息づくボヘミアンのスピリットを大切に守り続ける仲間がいる。―― 少なくとも今年の9月までは、その炎を絶やさぬようにと

BY MARY KAYE SCHILLING, PHOTOGRAPHS BY ANTHONY COTSIFAS, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 シュワルツは、ネットでこの建物の入居者募集告知を見つけた。「写真は載っていなかった」と彼は言う。「通りの名前だけ。告知にはこう書かれていた。『イカした素敵な部屋。バスルームは1.5個、らせん階段とアーティスト用のスタジオつき』。信じられないような好条件だと思ったよ」。ブローカーに案内されて建物を見に来たとき、外観とボロボロの廊下を見てシュワルツはショックを受けた。室内もたいしていい状態ではなかった。だが1階には、小さな窓枠で区切られた、ほぼ床から天井までの窓があった。2階には明かり取りの窓があり、さらに使用可能な暖炉も二つついていた。4月のその日、ニワウルシの木の枝はちょうど居間の広さと同じほど張り出していて、ツリーハウスのような効果を作り出していた。「それを見た瞬間に惚れ込んでしまったんだ」と彼は言う。

画像: 庭を見下ろす2階には、メイクアップ・アーティストのウォルター・オーバルのミニマリズムに徹した居間がある

庭を見下ろす2階には、メイクアップ・アーティストのウォルター・オーバルのミニマリズムに徹した居間がある

 シュワルツが入居した日、新居に向かう階段を上っていると、アパートメント3のドアが少し開いて「ジェリー・シュワルツ?」と男の声がした。「ここで何やってるんだ?」。シュワルツと一緒に働いたことがあるメイクアップ・アーティストのウォルター・オーバルだった。彼は、『AmericanElegy』という回顧録の著者、ジェフリー・シンプソンと2階をシェアしていた。シンプソンは、このアパートにもう12年も住んでいる。彼らがそれぞれ住む小さなワンベッドルームのアパートは、1枚の壁をはさんでつながっている。それぞれのユニットにミニキッチンと浴室がついているが、素敵な猫脚のバスタブがあるのはオーバルの浴室だ。

「グリニッチビレッジの面影を残すアパートメントに暮らして」後編 へ

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