ジョナサン・アンダーソンが発案した「ロエベ インターナショナル クラフトプライズ」。現代のクラフトの担い手をサポートする意欲的な取り組みだ。現在、本年度の大賞を含む、ファイナリスト29名の作品が一堂に会したエキシビションが開かれている

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 石塚源太《Surface Tactility #11》 2018年 漆、スチレンフォーム玉、2-wayトリコット、リネン生地 670×660×840cm

石塚源太《Surface Tactility #11》
2018年 漆、スチレンフォーム玉、2-wayトリコット、リネン生地 670×660×840cm

 アンダーソンいわく、大賞を受賞した石塚の作品は「漆(うるし)という何百年も続く伝統技術を使いながら、その形はタイムレス。千年前に作られたものと言われても納得できるし、こうした作品が千年後に生まれても不思議ではない」。

 スーパーマーケットで売られているネット入りのオレンジにインスピレーションを受けたというこのオブジェは、古くから仏像制作にも応用されてきた“乾漆(かんしつ)”という造形法がベースになっている。石塚は、その表面に磨きを加え、透明な膜を張ったような不思議な質感を生み出した。その艶やかな表面には、漆による模様とともに周辺の風景が映り込んで見える。モノが置かれた空間性を作品の一部とする現代彫刻のようなアプローチも、この漆作品の新しさだろう。

 特別賞を受賞したハリー・モーガンが関心を寄せるのは、素材だ。受賞作品はモダニムズ建築の象徴的素材、コンクリートとガラスをつなぎ合わせたオブジェ。一方は、重厚的で硬く、もう一方は透過性があり、壊れやすい。相反する素材を組み合わせた作品に思えるが、彼がここで目をむけたのは、じつは2つがともにケイ酸を主成分とする同類の素材である、ということだ。ハリーは、科学者もしくは錬金術師のような視点で、ミニマルなオブジェに素材の物語を込める。

画像: (左から) ハリー・モーガン《‘Untitled’ from Dichotomy Series》 2018年 ガラス、コンクリート 250×300×950cm 高樋一人《KADO(Angle)》 2018年 サンザシの小枝、ろうを施したリネンのより糸 290×1,370×860cm PHOTOGRAPHS: COURTESY OF LOEWE

(左から)
ハリー・モーガン《‘Untitled’ from Dichotomy Series》
2018年 ガラス、コンクリート 250×300×950cm
高樋一人《KADO(Angle)》
2018年 サンザシの小枝、ろうを施したリネンのより糸 290×1,370×860cm
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF LOEWE

 もうひとり特別賞を受賞した高樋一人にも注目したい。彼の作品は、天然素材による素朴な美しさとともに、手作業による“喜び”に満ちている。

 高樋は、英国ヴィズレー王立園芸協会と米国ロングウッドガーデンで園芸や植物学を、そののち英国のリーズ・メトロポリタン大学で、アートとガーデン・デザインを学んだ。自然界にあるモノを再構成して作品にする美術家アンディー・ゴールズワージーやデイビッド・ナッシュ(ランド・アートや環境芸術のパイオニア)に影響を受けたと本人は話すが、彼が特にユニークなのは、素材を自身で“育てる”ことから表現を始めていることだ。

 彼は、自身の畑を持ち、草木や花を育て、作品の主な素材にする。今回の立体作品を構成するのは、近隣の農家の畑で刈り取らせてもらったサンザシの枝(その農場の主人が好きなお酒と物々交換したと本人は言う)を、自身の自宅兼アトリエで一年間かけて自然乾燥させたもの。「枝を“読み”ながらかたちをつくっていく。ただ、枝には個性があるので、いつのまにか思い描いているものと違ったかたちになることも。それが楽しい」と高樋。自身のライフスタイルのなかで、技術や素材について深く再考し、学びを得る――。こうした姿勢は、なによりアンダーソン自身がコレクションを通じてわれわれに伝えてきた、大切なクラフトの精神でもあったはずだ。

『ロエベ インターナショナル クラフト プライズ』
会期:〜7月22日(月)
会場:草月会館
住所:東京都港区赤坂7-2-21
開館時間:10:00〜19:00(金曜は〜20:00)
入場料:無料
特設サイト

問い合わせ先
ロエベ ジャパン カスタマーサービス
TEL. 03(6212)6116

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