BY ELLIE PITHERS, PHOTOGRAPHS BY CLÉMENT VAYSSIERES, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO
パリ生まれのルブタンは、80年代に初めて、友人たちとバカンスを過ごすためにポルトガルを訪れた。その後、彼はまず、メリデスよりもリスボンに近いコンポルタという村に別荘を構えた(当時はひっそりと静かな村だったが、今は人でごった返すビーチタウンに変わってしまった)。彼がメリデスを見つけたのは偶然のことだ。2010年、紙で深い切り傷を負って病院に行き、その帰途で発見したのだ。
今春、メリデスにホテルをオープンする予定だというルブタンは、すでにあちこちに多くの不動産を所有している。ビジネスパートナーのブルーノ・シャンベランと共同所有するリスボンの16世紀築のタウンハウスに、パリのアパートメント。フランス・ヴァンデ地方に立つ13世紀築のシャトー、エジプト・ルクソールのナイル川西岸の家に、リオデジャネイロの隠れ家。ほかには2本マストのクラシックな帆船まで所持している。
ルブタンは、美しいオブジェを好きなだけ収集するために、あちこちに家を建てているのかもしれないという。新しい家を造れば、そこに置くものが必要になるからだ。また収集の指針はきわめてシンプルだ。「手に入らないものこそ、欲しくなるのが人間。だから後悔しないよう入手しておく」。
現在、彼の保管庫には、60年代にブラジルで造られた階段や、19世紀のオスマントルコ製の金メッキと彩色を施した室内装飾品をはじめ、さまざまな宝物が並んでいる。ルブタンの長年のアシスタントがすべてを整理して目録を作り、アプリまで作って管理しているそうだ。
保管されていた複数の収集品は、メリデスの〈ルブタン・ヴィレッジ〉に新たに加わったゲストヴィラに置かれている。設計したシャンマ自身が「ラ・サルヴァダ」と名づけたこの2 ベッドルームのヴィラは、広さ約260㎡。オプンティア(ウチワサボテン類)の古木を囲うように建てられたL 字型の構造で、壁は赤みがかったピンクで彩られている。このピンク色は、13世紀から採石場として知られてきた美しい町「ヴィラ・ヴィソーザ」(メリデスから車で東に2時間ほど行ったところにある)の大理石の色にヒントを得たそうだ。吹き抜けのリビングルームに並んでいるのが、ルブタンの宝庫に眠っていたオブジェだ。ファースト・ネーション(カナダの先住民族)のトーテムポール、フランスのインテリアデザイナー兼織物職人、エレーヌ・アンリによる1930年代の作品で、手織り生糸でできた2 対のパネル。またパキスタン人アーティスト、イムラン・クレシによる幅6 mの三部作の絵はルブタンが数年前に購入したものだが、作りつけソファの上の空間にぴったり収まったという。彼はこうしたうれしい偶然に、このうえない喜びを感じるらしい。
ルブタンの家ではアンティークとモダンデザイン、さらに田園風の素朴さが共存する。彼についてメリデスにやってきたという親友のテキスタイルデザイナー、キャロライナ・アーヴィングは、ソファの張地としてエジプトのテント用ファブリックをすすめた。エスパルト(イネ科の野生の草)を編んだ天井の装飾パネル、ストライプのテラコッタ・フロアタイルなど、伝統工芸もあちこちに見られ、バスルームには近くの採石場で採れた淡いピンクのリオス石灰岩が使われている。なかにはルブタンがアーティストに依頼して特別に制作してもらったオブジェもある。そのひとつがフランス人アーティスト、パトリス・ダンジェルによる、巨大な脊椎のようなフォルムが印象的な、石膏のペンダントライトだ。イタリア人彫刻家ジュゼッペ・デュクロにはサフラン色の壺の制作を頼んだ。これは、1 階から、約150㎡のコンクリートのルーフテラスへと続く階段に飾るそうだ。
ヴィラ「ラ・サルヴァダ」は、ルブタンの拠点であるコンパウンドから車でわずか10分の位置にある。そのため「ラ・サルヴァダ」のゲストたちは、カクテルタイムにルブタン邸に気軽に立ち寄ることができる。彼がよく作るのは「モスコ・ミュール」を独自にアレンジした「メリデス・ミュール」だ。ウォッカの代わりにポートワインを用い、ジンジャーエールだけでなく「ペドラス」という天然炭酸水も加える。ほかにはクラッシュアイスとザクロにウォッカを加えた「メリデス・グレナディンズ」というカクテルも得意だ。料理は、よくバカリャウ・ア・ブラス(干し鱈、ジャガイモの卵とじ)などポルトガルの定番メニューをふるまう。新型コロナウイルスのパンデミック期、ルブタンはメリデスに半年ほど滞在できた。だが今はまた驚異的なペースであちこちを飛び回っている。近々マイアミや中国、エジプトにも行く予定だ。だが彼はこの緑豊かでのどかな田園にまた必ず戻ってくる。「なぜメリデスが好きかって?鳥がさえずり、蒼い海があるだけの静かな村だから。もちろん、ときどきここで開く〈ルブタン・パーティ〉も魅力のひとつだよ」