誰にも真似できないユニークな作風で、韓国映画の存在を世界に知らしめたパク・チャヌク。その暴力描写の裏には深い人間性と、不合理さへの愛情が隠されている

BY ALEXANDER CHEE, PHOTOGRAPHS BY OH SUK KUHN, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 1963年公開の『山猫』は、ランペドゥーサの1958年の小説を映画化したものだ。1860年代のシチリアの貴族が主人公で、彼の階級や生き方そのものがイタリア統一戦争で脅かされている。パクは、この映画でバート・ランカスターが演じた伯爵と同じ立場にあるともいえるし、ないともいえる。伯爵は、クラウディア・カルディナーレとアラン・ドロンが演じる若い男女の恋を見守り、支配階級が中産階級の台頭を受け入れざるを得ないことを感じている。パクは素朴で貴族という柄ではないが、彼が生まれてから今までのあいだに、韓国が急激な変化を遂げてきたことも確かだ。それは、韓国の過去の歴史をすべて合わせた変化より大きく、イタリアが19世紀に遂げたのと同じような変化だ。

どうして『山猫』が好きなのかと聞くと、彼は言った。「老いること、急速に変化する時代についていけなくなること――そんな姿をつぶさに描いた、もっとも優雅な作品だから」。彼は時代に取り残されて弱っていくような人間には見えないが、会話が進むにつれ、パクは彼自身の作品における静謐な芯のような存在なのだという印象を受けた。伝統と実験、激しい暴力、セクシュアリティと高尚なロマンスのあいだをつなぐ核のような存在だと。

画像: 韓国人写真家のオ・ソックンは、2006年から撮影している巨大な人形の頭をかぶったふたりのモデルの写真シリーズで知られている。人気の子ども向け絵本シリーズのキャラクター、チョルスとヨンヒをモデルにしたものだ。彼らを撮影した写真は、韓国人が子ども時代に経験したトラウマを表現している。こちらのパクのポートレートは、ソウルから約1 時間ほどの江華島にある江華聖堂の前で撮影。チョルスとヨンヒに似た人形の頭をかぶったモデルを後ろに配した PRODUCTION: KKOTSBOM. BAT MADE BY KIM SOOHWAN,EXTRAS: BAEK SEUNGKEE, CHOI YOONJAE,LEE HAEIN,LEE JIHYANG, PARK SOJIN, SHIN YEJOO, PHOTO ASSISTANT: KIM HONGHEE

韓国人写真家のオ・ソックンは、2006年から撮影している巨大な人形の頭をかぶったふたりのモデルの写真シリーズで知られている。人気の子ども向け絵本シリーズのキャラクター、チョルスとヨンヒをモデルにしたものだ。彼らを撮影した写真は、韓国人が子ども時代に経験したトラウマを表現している。こちらのパクのポートレートは、ソウルから約1 時間ほどの江華島にある江華聖堂の前で撮影。チョルスとヨンヒに似た人形の頭をかぶったモデルを後ろに配した
PRODUCTION: KKOTSBOM. BAT MADE BY KIM SOOHWAN,EXTRAS: BAEK SEUNGKEE, CHOI YOONJAE,LEE HAEIN,LEE JIHYANG, PARK SOJIN, SHIN YEJOO, PHOTO ASSISTANT: KIM HONGHEE

 だが、彼がどんな人間かを理解するのにいちばん重要なヒントは、その日の最後に見つかった。私たちが近くのカフェまで歩いていき、話の続きをしようとすると、店の女主人が私たちをほかに人のいない個室のダイニングに案内し、アイスコーヒーを置いていった。私がレコーダーをセットするあいだ、パクはダイニングルームの後ろのほうに立って窓の外を眺めていた。とても愛情深い表情で、一生懸命何かを眺めている彼を見て、何を眺めているのか知りたくなった。デッキの上には9匹の猫が並んでいて、子猫たちに乳を飲ませている母猫の姿も見えた。

 インタビューが終わると、パクはまた窓のところまでぶらぶらと歩いていった。ああ、これだな、と私は思った。ミスター復讐は、猫が大好きなんだ。それが何を意味するかはわからない。たぶん、そのままの意味なのだろう。彼は猫たちの写真を撮るでもなく、やさしく見守る以外には何もしようとしなかった。どのぐらいの時間そこに立っていたのかはわからないが、私は彼を決して邪魔してはいけないと思った。やがて彼はついに、名残惜しそうに猫に背を向けた。そして私たちは一緒にその場所をあとにした。

復讐映画の巨匠、パク・チャヌク その知られざる素顔 <前編>

 

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