新たなコンサートホールの建設やジョン・ノイマイヤー率いるバレエ団で人気のドイツの都市、ハンブルク。世界の演劇に造詣の深いジャーナリスト、伊達なつめさんによる現地レポートの「後編」

BY NATSUME DATE

 ピカピカのモダン建築で目を引くエルベ川沿いのエルプ・フィルハーモニーから、街の中心に向かって北に歩くこと、約20分。石畳と、美しい釣鐘型の切妻のファサードが並ぶクラシックな街並みに出会うと、やはり少しホッとする。その瀟洒なたたずまいの一画に、「KQ」の看板と、ズラッと並んだ7名の音楽家の大きなポートレート。ハンブルクに縁ある作曲家の資料館が軒を連ねる、Komponisten Quartier(Composers’Quarter)=「作曲家街」と名付けられた小規模なミュージアム・エリアだ。

画像: 「KQ」の看板と、各時代の音楽家のポートレートが出迎えるコンポーザーズ・クウォーター。左からカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ、テレマン、ハッセ、ブラームス © COMPOISTEN QUARTIER

「KQ」の看板と、各時代の音楽家のポートレートが出迎えるコンポーザーズ・クウォーター。左からカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ、テレマン、ハッセ、ブラームス
© COMPOISTEN QUARTIER

 最も古くからあるのが、ブラームス博物館。ブラームス(1833─1897)はウィーンでの活躍が有名だが、生まれはハンブルクで、この近くに生家があったことから1971年にこの地に開館した。その後40年を経て2011年に、バッハと同時代のゲオルク・フィリップ・テレマン(1681―1767)博物館が誕生。リコーダー奏者としても名高いテレマンは、当時はバッハより世界的によく知られた音楽家だったそうで、40歳でハンブルクにやって来て以降、ハンブルク歌劇場や各教会の音楽監督などを歴任し、後半生をハンブルク音楽界に捧げた人物だ。

 2015年には、テレマン博物館に併設する形で、バッハの次男であり、テレマンがその名付け親だったというカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714─1788)と、ハンブルク郊外生まれで、テノール歌手としてハンブルクでデビューし、その後オペラの作曲家として活躍したヨハン・アドルフ・ハッセ(1699─1783)の博物館が同時オープン。この時から、一帯に「KQ」の名称が付されるようになった。

画像: 館内の展示はドイツ語が中心で、英語併記を徐々に進めているところ。ヘッドフォンで各音楽家の楽曲を聴くことができる コンポーザーズ・クウォーター Komponisten-Quartier Hamburg e.V. 住所:Peterstraße 28 20355 Hamburg 開館時間:10:00~17:00 入場料:9ユーロ(各種割引あり)、月曜休館 電話: +49 (0)40 636 078 82 公式サイト PHOTOGRAPH BY CHRISTINA CZYBIK

館内の展示はドイツ語が中心で、英語併記を徐々に進めているところ。ヘッドフォンで各音楽家の楽曲を聴くことができる
コンポーザーズ・クウォーター Komponisten-Quartier Hamburg e.V.
住所:Peterstraße 28 20355 Hamburg
開館時間:10:00~17:00
入場料:9ユーロ(各種割引あり)、月曜休館
電話: +49 (0)40 636 078 82
公式サイト
PHOTOGRAPH BY CHRISTINA CZYBIK

 そして2018年5月末、「KQ」にさらに2つのビッグネームが加わった。ハンブルク生まれの姉ファニー(1805─1847)と弟フェリックス(1809─1847)のメンデルスゾーン作曲家姉弟と、ハンブルク州立歌劇場の音楽監督としても大活躍した作曲家・指揮者のグスタフ・マーラー(1860~1911)の両ブースだ。メンデルスゾーンのブースは、ユダヤ系の銀行家を父にもつ姉弟が、豊かな芸術的環境の下で育ったハンブルクでの幼少期を中心とした展示。特に、女性であることで表舞台に出る機会を制限された姉ファニーを、高名な弟と同じボリュームで紹介している点が注目される。

画像: メンデルスゾーンの姉ファニーは女性作曲家の先駆けとして知られる。あまりに愛くるしい肖像画 PHOTOGRAPH BY NATSUME DATE

メンデルスゾーンの姉ファニーは女性作曲家の先駆けとして知られる。あまりに愛くるしい肖像画
PHOTOGRAPH BY NATSUME DATE

 マーラーについては、1891年から97年まで当地の歌劇場で音楽監督として辣腕をふるった時代の活躍ぶりを、当時のプログラムや書簡など具体的な資料によって展示するほか、マーラー自身による演奏を自動ピアノによる再現で聴くこともできる。サイクリストだったマーラーがハンブルクの街中を疾走する様子が目に浮かぶような、クラシカルな自転車まで置かれていて(ただし本人が乗っていたものではないそう)、つい一世紀前まではこの偉大な作曲家もわが街の住人だったのだという、親近感を抱かせるのにひと役買っている。

 ここから、ハンブルク屈指の観光名所のひとつで、毎日正午のオルガン演奏でも有名な聖ミヒャエル教会までは徒歩5分ほど。複数の巨大なパイプオルガンによる荘厳な教会音楽に圧倒された前後に、こうした高度な音楽的環境が育まれてきたこの街の背景と、そこに貢献してきた人物についてひとまとめに知る。そんな観光時の効率にも配慮した施設と言えそうだ。

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