庭には花々が咲き乱れ、家には楽しい集いの笑い声。好きなものに囲まれて暮らす。「断捨離はしない、無駄があるから文化がある」と言い切る。自らを、そして周囲を喜びで満たしながら今日を生きる。島田順子さんに日々の暮らしを彩る秘訣を尋ねた

BY AZUMI KUBOTA, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 パリを拠点に活躍を続けるファッションデザイナー、島田順子さん。78歳になる今も第一線でキャリアを築きながら、仕事場であるパリとブーロンマーロット村の田舎の家、東京、故郷である館山の別荘を行き来して、のびやかに人生を楽しむ。親しい人々を自宅でもてなすことを喜びとし、「人と食をともにすることは、人生をわかちあうこと」と語る彼女。まだ残暑厳しい頃、東京の自宅に戻っていた島田さんに、心豊かに暮らす秘訣を聞いた。

画像: 島田順子(JUNKO SHIMADA) 1941年千葉県館山生まれ。杉野学園ドレスメーカー女学院デザイナー科卒業。66年渡仏。70年デザイナー集団「マフィア」入社。75年「キャシャレル」に入社後、チーフデザイナーとして活躍。81年パリに「JUNKO SHIMADA DESIGN STUDIO」設立。初コレクション「JUNKO SHIMADA」をパリで発表。東京コレクションでは「49AV.JUNKO SHIMADA」を発表。86年東京に「JUNKO SHIMADA INTERNATIONAL」設立。96年日本ファッションエディターズクラブデザイナー賞(FEC賞)を受賞。2012年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ授与

島田順子(JUNKO SHIMADA)
1941年千葉県館山生まれ。杉野学園ドレスメーカー女学院デザイナー科卒業。66年渡仏。70年デザイナー集団「マフィア」入社。75年「キャシャレル」に入社後、チーフデザイナーとして活躍。81年パリに「JUNKO SHIMADA DESIGN STUDIO」設立。初コレクション「JUNKO SHIMADA」をパリで発表。東京コレクションでは「49AV.JUNKO SHIMADA」を発表。86年東京に「JUNKO SHIMADA INTERNATIONAL」設立。96年日本ファッションエディターズクラブデザイナー賞(FEC賞)を受賞。2012年フランス芸術文化勲章シュヴァリエ授与

「夏の初めに、ブーロンマーロットの家の庭に紫蘇の種を撒いてきたの。フランスに帰国する頃にはきっと収穫できるはず。そうしたら娘と孫、友人を呼んで、日本の素麺をふるまう“夏の終わりのパーティ”をしようと計画中です。素麺はざるにざっと盛って、大きな氷をいっぱい添えて、それだけでご馳走ね。庭には紫蘇のほかに山椒の大きな木もあるから、薬味もたっぷり。みんな、きっと大喜びするわ」と目を輝かせる。

 島田順子さんの頭の中には、人をもてなす楽しいアイデアが次々と浮かんでくるようだ。食卓に集う人々を喜ばせ、自分自身も心弾ませる。もてなしの極意について訊ねると、そんな大げさなものはないけれど、と笑う。「そうね、まずはお招きする人の好きな食べものを思い出します。そこでひとつメニューが決まると、次は連鎖反応で次々と。例えばあの人はお肉が好物ね、そうしたらお豆腐と湯葉をアントレに、枝豆をどっさり…… そんな感じ。簡単でしょう?」。無理して凝ったことはしない。誰かのことを考えて楽しみながら作る料理、設える空間、そのすべてに自分らしさが自ずとあらわれる、と語る。

画像: 東京の自宅にある、お気に入りのクリスタルのタンブラー。海の生物や昆虫たちなど、思わず目に留まるモチーフが彫られている。テーブルを囲む面々がそれぞれの絵柄を見せ合って、知らず知らずのうちに会話が始まる。そんな小道具にもなっている

東京の自宅にある、お気に入りのクリスタルのタンブラー。海の生物や昆虫たちなど、思わず目に留まるモチーフが彫られている。テーブルを囲む面々がそれぞれの絵柄を見せ合って、知らず知らずのうちに会話が始まる。そんな小道具にもなっている

 ゲストがたくさん集まる家だからテーブルウェアも充実しているが、ひとつひとつに愛着がある。「このタンブラーは小さなアンティークショップで見つけたもの。描かれたモチーフひとつで、ゲストとの会話が広がってゆくでしょう? それを想像したら、楽しくていいなあと思って。今ここで買わなきゃなくなってしまうからと、全部連れ帰りました。そんな出会いが嬉しいじゃない?」

 心ときめくとき、お気に入りについて語るとき、島田さんの唇から「嬉しいじゃない?」「楽しくて」——何度もその言葉がこぼれる。幸福なフレーズが響く空気も、彼女の部屋でゲストが受けるもてなしかもしれない。

画像: 『パリ−東京 とらわれず、しばられず 今日、今を生きる美しい人』より、モンマルトルの自宅でのパーティの様子。パリ、東京の家でのもてなしの様子もふんだんに PHOTOGRAPH BY IKUO YAMASHITA

『パリ−東京 とらわれず、しばられず 今日、今を生きる美しい人』より、モンマルトルの自宅でのパーティの様子。パリ、東京の家でのもてなしの様子もふんだんに
PHOTOGRAPH BY IKUO YAMASHITA

 9月に刊行した著書『パリー東京 とらわれず、しばられず 今日、今を生きる美しい人』(集英社インターナショナル刊)は、そんな島田さんの生き方、考え方を数々の写真とともに捉えた一冊だ。少女時代から、渡仏して現在にいたるまでを克明に語った半生記であり、暮らしのすみずみできらめくセンスを凝縮したライフスタイルブックでもある。自然体で人を招き、料理や空間を準備する島田さんの暮らしぶりは、真似したくなるアイデアの宝庫。器づかいを始め、身の回りのファッション、インテリアに、洗練されつつも、自由闊達な美意識がゆきわたる。

画像: 東京の自宅のキッチンに並ぶのは、お気に入りの銀器など。アンティークにブロカント、現代のデザイナーものやレディメイド……既成概念にとらわれず、直感で「好き」と感じたものが集まってくる

東京の自宅のキッチンに並ぶのは、お気に入りの銀器など。アンティークにブロカント、現代のデザイナーものやレディメイド……既成概念にとらわれず、直感で「好き」と感じたものが集まってくる

 本書の中で、「好きなものに囲まれて暮らしていたい」と語る島田さん。どうやって愛するものたちをコレクションしてきたのだろうか。「欲しかったものを見つけたときは一瞬でわかるものです。少し高価かなと思っても、数を計算して省いたりしないで、あるだけみんな買ってしまう。そういう無駄なことをしてしまうのが私の贅沢ね。自宅にあるものはそんな風にして集まったものばかりです」。好きなものはずっと好きだから、捨てずに直しながら、長いこと人生を共にする。「歳を重ねてこんなに物が増えてしまって、一体どうしましょう? でもね、持っていても無駄になるから買わない、なんて私は思いません。意味がないと言われるようなものこそ、目に映った時に楽しい気持ちになるでしょう? それは私にとってみんな必需品です。無駄をなくしたら窮屈よ。無駄があるから文化があるんです」ときっぱり。

画像: パリ郊外、ブーロンマーロット村にある自宅で週末を過ごす。広々とした庭には、季節ごとに花々が咲き乱れて。本書では庭の風景や花あしらいの写真もふんだんに。また、その美意識を育てた背景にも迫る PHOTOGRAPH BY IKUO YAMASHITA

パリ郊外、ブーロンマーロット村にある自宅で週末を過ごす。広々とした庭には、季節ごとに花々が咲き乱れて。本書では庭の風景や花あしらいの写真もふんだんに。また、その美意識を育てた背景にも迫る
PHOTOGRAPH BY IKUO YAMASHITA

画像: 『パリ−東京 とらわれず、しばられず 今日、今を生きる美しい人』より。 庭で集めた切り花を、クリスタルのどの花瓶に生けるのか、考えながら挿していくのも幸せな時間だ PHOTOGRAPH BY IKUO YAMASHITA

『パリ−東京 とらわれず、しばられず 今日、今を生きる美しい人』より。
庭で集めた切り花を、クリスタルのどの花瓶に生けるのか、考えながら挿していくのも幸せな時間だ
PHOTOGRAPH BY IKUO YAMASHITA

 花々はそんな島田さんの “素敵な無駄”のひとつであり、人生を彩る必需品。「野原に咲く花がいちばん好きで、いつも花鋏を持ち歩いています。もともと館山の山あいで育ちましたから、温室育ちの高価な花をわざわざ買うより、自然の中に咲いているものがいちばん綺麗だと思う。ちいさな一輪を可愛いと思い、その素朴な美しさを愛でる、それだけで幸せだと思わない?」

 少女のような素直な感性を持って、日々の暮らしを楽しむ。それがどれだけ豊かなことか。生活の中の幸せの感じ方、美しさの感じ方を、この女性は知っている。

画像: 『パリ−東京 今日、今を生きる美しい人 島田順子』/集英社インターナショナル 島田順子著 ¥1,800

『パリ−東京 今日、今を生きる美しい人 島田順子』/集英社インターナショナル
島田順子著 ¥1,800

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