西洋のポピュラー音楽のストーリーは、そのランキングに参加しようとするアジア系やアジア人を長い間認識せず、彼らを蚊帳の外に置いて書かれてきた。しかし新世代の女性たちは、誰の音楽が集団から頭ひとつ抜け出して上へ行けるのか、どんな人間なら――才能や経歴や顔や身体を含め――人々はスターとして喜んで認めようとするのかを今、問い直している

BY LIGAYA MISHAN, PHOTOGRAPHS BY COLLIER SCHORR, STYLED BY MATT HOLMES, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 まったく夢も希望もしぼんでしまうような役だ。しかもそんな役はとりわけ、現在のポップ音楽の世界で居場所を勝ち取った女性のセクシュアリティとパワーの輝きとは対極にある。性的な魅力や性の悦びや欲求を公に宣言し、それを堂々と賛美するのが今のポップだ。アジア人女性の身体は必ずしもそんな肉感的なイメージと合わない場合もある――または、性的マイノリティで、それを公表しているアーティストたちもいる。彼女たちは、ジェンダーとセクシュアリティの分野ではまだ保守的な傾向が強い業界において闘いを挑んでいる――。そんな場合は、ステレオタイプに屈せずともすむような自己の身体表現方法を探す必要がある。従順で性的に安易だという固定された女性性のイメージに直接異議申し立てをするのに、日本のアニメを誇張して使う表現方法もある。

 たとえば、ベラ・ポーチがポニーテールの長い髪を頭の高い位置からぶら下げて、ウエストの辺りまで垂らし、無垢な被害者のような眼で見つめるシーンがそうだ。

 または、レイ・アミは、それとはまったく違うアプローチだ。彼女の最新ビデオ『Ricky Bobby』の中で、彼女は、身体がほとんど見えているような露出度の高い光沢ある革の水着姿で、水しぶきを浴びながら、赤いカマロを洗車している。さらには、肉体のイメージを完全に拒絶してしまう、という方法もある。きわどい外見で即興でギターをかき鳴らし、ドラッグでハイになったような詞を歌い、ギークっぽい眼鏡をかけてアヴァンギャルドなストリートスタイルのサイズの大きな服を着て、身体の線を完全に隠すという手で。

 そんなアーティストたちの中には有名レコード会社のレーベルと契約を結んだ者もいる(そんなレコード会社の重役の中には1979年当時は「アジア人は歌わないし、踊らない」と豪語していた人もいたと語るのは、ヒロシマというバンドのフロントを務める日系アメリカ人のダン・クラモトだ)。彼らはニューヨークのタイムズ・スクエアにある18階建てのデジタル・ビルボード上のピクセルの中で輝いている。アジア系のミュージシャンを専門とする独立レーベルと契約を結ぶ者もいる。カリフォルニアで2009年に創設された「ビートロック・ミュージック」やニューヨークで2015年に創業した「88ライジング」などがそうだ。レコード会社との契約はなく、有名になることはないが、最も忠実なファンだけに向けてパフォーマンスを発信することで満足するというケースもある。この背景には、ポップ音楽の中央集権の解体がある。SoundCloud(音声ファイル共有サービス)、Bandcamp(音楽配信/販売サイト)やYouTube、TikTokなどの配信手段の普及により、誰もがスターになれる可能性を手にする時代だ(アルゴリズムを味方につけられればの話だが)。ラップトップと最低限のマイクとインターネットがあれば十分な場合もある。たとえば、2015年には、ニュージャージー州の16歳の高校生だったオードリー・ヌナが、自分のインスタグラムに好きな曲をカバーして歌ったビデオをアップすると、プロデューサーから彼女に連絡が入ったのだ。

 アジア系のミュージシャンが脚光を浴びたもうひとつの理由は、アジアのカルチャーが西洋で人気を得ていることだろう。ヨガ、抹茶、タピオカや、韓国美容の複雑なスキンケアの習慣などがそうだ。蜂の毒やカタツムリの粘液をつけて、ガラスのように滑らかな肌を目指す実例もある(さらに不気味なほど白い肌を手に入れようとする。これは、肌が白いことが最上級とされているためだ)。商品(しばしば原産地とは何の関係もないものだったりする)を消費しても、必ずしもその産地やその土地の人々と積極的に関わることにつながるわけではないが、K-POPの巨大勢力によって若いアジア人たちが西洋で多くのマニアたちの称賛の対象になっていることは確かだ。女性だけの4人組のBLACKPINKは、アメリカのヒットチャートを昨年席捲した。それは少女たちが同性に憧れるK-POPというマーケティングコンセプトの典型だ。東アジアと東南アジアのカルチャーのモチーフを支配する「カワイイ」をそれほど強調せずに、少し陰りのあるエッジの効いたゴージャスさと突き放したセクシーさを全肯定するというシナリオだ。このセクシーさは(少なくとも理論上は)男性を魅了するためというよりも、女性の自己実現に重点を置いている。

 BLACKPINKの完璧に計算し尽くされたヒット曲『Ice Cream』には、意味深な英語の歌詞(「好きになって、愛して、舐めて」)が出てくる。これはアジア人女性の見た目と実際が違う点を二重の意味に受け取れる言葉で弄(もてあそ)んでいる。つまり、一見清純そうだが、人知れずみだらな面もあると。これはまさにベラ・ポーチの『ビルド・ア・ビッチ』が完全にパロディ化した「処女でかつ雌狐」という男性にとって最も都合のよい理想だ。BLACKPINKの歌手たちがクールを気取っていても、彼女たちの声は確実に欲情をかきたてるように計算されているわけだ。

 1970年代に、キム・シスターズはアメリカ市民としてソウルに短い間里帰りしていた。祖国の人々は、彼女たちが『キムチ・カクトゥギ』(大根キムチの意)という曲をレコーディングし、どんなに故郷(と韓国料理)が恋しかったかを詞で表現するとやっと警戒心を解いた。また、BLACKPINKは、ソウルの潤沢な資金が投入され、工場のようなシステムで細部にわたって注意深く作られた製品であり、かつ、その構成要素は単一ではないことを説明しておくべきだろう。メンバーの中にはタイ人女性がひとり(彼女は韓国語を学ばなければならなかった)と、韓国系の外国人がふたりいる。そのふたりはニュージーランドとオーストラリアで育った。BLACKPINKは、世界的スターのセレーナ・ゴメスやレディー・ガガやカーディ・Bなどを自分たちのビデオに登場させ、スターたちがグループの一員として歌うという戦略を駆使することで、より多くの視聴者の目に留まる成功を収めた。今後はひょっとしたら、西洋出身のアジア系のアーティストと、韓国系アメリカ人の歌手兼DJ兼ハウスミュージックのプロデューサーでもあるイェジが一緒に宇宙と交信してライブをやるかもしれない。または、インド系英国人のラッパー、ナヤナ・アイズが自信たっぷりに歩いてきて、悪さをしているミュージシャンの名前を列挙するかもしれない。これは結局、世の中は狭いということの証明なのだろうか。それとも、分断に一時的に橋を架けるようなものだろうか?

 オードリー・ヌナは、自分はラッパーではないと言う。しかし、彼女のラップは素早く韻を踏んだかと思うと、言葉が一瞬勢いよくほとばしってまた閉じる。そして次に母音を引きずり出し、音がゆったりと漂ったかと思うと、喉の奥からマッチョなドスの効いた悪態を響かせる。そして突然、女神のような高音でまっすぐに歌い、クライマックスを苦痛とともに絞り出す。オードリー・チュとして生まれた彼女の芸名は、彼女の弟が彼女を呼んだ言葉「ヌナ」だ。韓国語で「お姉さん」を意味する。彼女は初の10曲入りのフルアルバム『a liquid breakfast』を5月に発売した。発売日は彼女の22歳の誕生日のあとで、ニュージャージー州で彼女の家族と一緒にパンデミックの間を過ごし、ちょうど1年がすぎた頃だった。彼女の技術はとてつもなく高度で、あらゆる種類の声を使って辛抱強く説得するように歌う。彼女の曲は、ひとりの人間がたまたますべてのパートを担当してしまったコラボレーションの形になることが多い。オードリー・ヌナがオードリー・ヌナを歌い、演じるのだ。

 レイ・アミの場合は、また別の手法だ。変態動物のようにがらっと雰囲気を変えることで、アイデンティティの分裂を表現する。彼女はソウルで生まれ、6歳のときにメリーランド州に移り住んだ。彼女の両親は信仰心があつく、彼女に教会でだけ歌ってほしかったため、一般の音楽に触れさせたくなかった。その点で彼女は両親と対立した。今では和解しているが。現在26歳の彼女は言う。「私はアメリカ人としては十分ではなく、かといって、韓国人らしいわけでもない」。彼女の芸名はこの二面性を表すように、日本のアニメの『美少女戦士セーラームーン』に出てくるふたつのキャラクターの名前を合体させたものだ。短気で、自分の気持ちをいつでもはっきり言うレイと、恥ずかしがり屋で内気なアミだ。彼女の音楽では、闘いと撤退という両極の形で、二面性がはっきり対比されている。『Snowcone(かき氷)』という曲は、不気味なビートとイラついた罵詈雑言で始まる。「あんたのパパ活相手に電話して、私にしつこく電話してくるのをやめさせろ/あいつの金なんかいらないんだよ、ビッチ。金なら自分で手に入れる」。そしていきなり物憂いウクレレのリズムに切り替わり、静かな告白が続く。「私はプロザック(抗うつ剤)に依存してる/弱ってるときに叩け/ひとりで自立しているとき、私はそれほど性悪なビッチじゃない」

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