装いやたたずまい、醸し出すムード。スタイルにはそのひとの生きてきた道、生き様が自ずとあらわれるもの。美しい空気をまとう先輩たちをたずね、その素敵が育まれた軌跡や物語を聞く。第2回目は、ファッションには“心”が表れると語る、染色家の二宮とみさん。とびきりの笑顔も彩りに添え、シンプルな洋服を纏う現在の心境を伺った

BY TAKAKO KABASAWA, PHOTOGRAPHS BY MASATOMO MORIYAMA

前編はこちら>

“美味しい暮らし”が育む優しい笑顔

画像: 季節ごとに彩りを見せる庭の植物はエコプリントの材料にもなれば、食卓や料理を彩るスパイスにも

季節ごとに彩りを見せる庭の植物はエコプリントの材料にもなれば、食卓や料理を彩るスパイスにも

 自宅にアトリエを構える二宮さんにとって、料理は心安らぐ息抜きの時間でもある。「作品に追われて朝方近くまで仕事をしなければならない時でも、ちゃんと料理をして食べることは、とっても大切。そして黙って食べるよりも、誰かと食べることも大切な時間」。ご主人との二人暮らしで互いにキッチンに立つため、料理は夫婦のコミュニケーションの場にもなっている。さらに、二宮家にはアーティストとして巣立った教え子も度々集い、食卓はいつでも賑やかな笑い声が満ちているとか。撮影時にも手料理が振る舞われ、サラダに数種類のナッツやドライフルーツをトッピング。「どうせなら、美味しいものが食べたいじゃない。複雑に混ざると味が深くなるの。お料理も染料を作るのとおんなじね。まだアトリエを構えていなかった頃は、シチューを煮込みながら隣のコンロで染料を煮ていたこともあるのよ」と笑いながら手際よく料理を盛り付ける。

画像: 藍の装飾が美しいロイヤルコペンハーゲンのオーバル皿にはグリルチキンのサラダ、福森道歩さんの伊賀焼の土鍋には熱々のラタトゥイユを。工藝社でお母様が求めたスペイン製のボウルにはクスクスを。器や料理が真っ白なリネンのクロスを表情豊かに彩って

藍の装飾が美しいロイヤルコペンハーゲンのオーバル皿にはグリルチキンのサラダ、福森道歩さんの伊賀焼の土鍋には熱々のラタトゥイユを。工藝社でお母様が求めたスペイン製のボウルにはクスクスを。器や料理が真っ白なリネンのクロスを表情豊かに彩って

画像: ソファの貼り地やクッションは二宮さんの作品。タペストリーとして単に飾るだけではなく、“用の美”としてインテリアに取り入れている

ソファの貼り地やクッションは二宮さんの作品。タペストリーとして単に飾るだけではなく、“用の美”としてインテリアに取り入れている

装いは心を映すものだからシンプルが一番

画像: シックな装いに、ご自身のエコプリントのストールがひと匙のアクセントに

シックな装いに、ご自身のエコプリントのストールがひと匙のアクセントに

 年齢とともに、様々なファッションを重ねてきた二宮さん。好みのスタイルを伺うと「80年代のバネッサ・ケネディの装いがとっても素敵で、毎日Instagramを眺めているのよ」と瞳を輝かせる。白シャツにデニムや黒いパンツ、ノーアクセサリーという、究極のモノトーンスタイルに惹かれるのだという。作品も、インテリアも、食卓も……鮮やかな彩りに満ちていただけに意外な答えだった。60代までは様々なファッションを楽しんできた二宮さんだが、70代の今、基本はモノトーン。一番好きなのはグレーのVネックのセーターだという。「徐々に体型が変わってきて、何を着たらいいかわからない時期もありました。今日は似合うけど明日は似合わないこともある、ファッションには、“心”が表れるのね。だから、どんな気分も受け止めて、おおらかで力の抜けたシンプルなものが一番なのよ」。この日は、肩にタックを寄せた「matohu」のセーターに、エプロンのようにバックスタイルを立体的に折り込んだ「mintdesignsミントデザインズ」のホワイトデニム。モノトーンの装いだからこそ、パターンの美しさが印象的だった。

画像: ホワキンベラオのリングは20年選手。陶芸家の岡野理香さんや彫金作家ノモトヒロシさんのアクセサリーが最近のお気に入り。

ホワキンベラオのリングは20年選手。陶芸家の岡野理香さんや彫金作家ノモトヒロシさんのアクセサリーが最近のお気に入り。

 洋服で引き算した分、二宮さんはアクセサリーにデザイン性のある個性を足し算する。青空を切り取ったような陶板焼のリングや、使われない古い扇風機の真鍮に新たな形を与えたピアスなど……二宮さんらしいエピソードが息づく。最後に、心に残るファッションアイテムを伺うと「ユニクロUのドローストリングショルダーバッグ」と軽やかに即答。「教え子に教えてもらったのよ」と優しく微笑んだ。

画像: ダイヤモンドを縦に連ねたリングや「ミザーニ」の腕時計など、造形的に心惹かれた長年のパートナー

ダイヤモンドを縦に連ねたリングや「ミザーニ」の腕時計など、造形的に心惹かれた長年のパートナー

画像: 扇風機が材料というノモトヒロシさんのピアスが、美しくカールされたグレーヘアに繊細な存在感を放つ

扇風機が材料というノモトヒロシさんのピアスが、美しくカールされたグレーヘアに繊細な存在感を放つ

二宮とみ(染色家)
女子美術大学ファッション造形学科特任準教授・桑沢デザイン研究所非常勤講師を経てnino worksにて、実験教室や作品制作の活動中。著書に『染めのほん』(眞田造形研究所編・デザイン)。5月31日(水)〜6月6日(火)まで銀座三越本館7階のジャパンエディションにて、作品を展示販売予定。詳細はインスタグラム@tomi_ninoにて配信予定。

生き方がスタイルになる「素敵を更新しつづけるひと」記事一覧へ

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.