BY REIKO KUBO
美しきティモシー・シャラメがさらなる成長を遂げて魅了する『デューン 砂の惑星PART2』
『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』等に多大な影響を与えたフランク・ハーバートによるSF小説『デューン 砂の惑星』は、今から半世紀以上前にエコロジーが近未来の鍵を握ることを予言していた。デイヴィッド・リンチ版から37年ぶりに、映画化に抜擢された監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ(代表作『メッセージ』『ブレードランナー 2049』)による壮大な映像叙事詩の序章PART1が公開されたのが、今から約2年半前。宇宙で唯一、不老薬である “スパイス”が採れる惑星デューンを舞台に、『PART2』では愛する父を殺され国を滅ぼされたアトレイデス家のポールが、宿敵ハルコンネン家に復讐の狼煙を上げる。
ポール役のティモシー・シャラメが、悩める少年から宇宙の未来を救う救世主として覚醒するまでの変遷を陰影深く演じて魅せる。ポールの運命の相手となる砂漠の民チャニにゼンデイヤ、ポールを導く母レディ・ジェシカにレベッカ・ファーガソン。そのほかクリストファー・ウォーケン、シャーロット・ランプリング、フローレンス・ピュー、レア・セドゥ、アニャ・テイラー=ジョイら豪華な顔ぶれの群像ドラマにハンス・ジマーの荘厳な音楽が響き渡る。
『デューン 砂の惑星PART2』
3月15日(金)全国公開 <3/8(金)、9(土)、10(日) 3日間限定先行上映>
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"原爆の父"が味わう栄光と、その後に背負う罪の重さ──『オッペンハイマー』
クリストファー・ノーラン監督による映画『オッペンハイマー』は、昨夏、欧米をはじめ各国で公開され、1300億円を超える興行収入で世界的大ヒットを記録。3月11日に開催の第96回アカデミー賞では最多13部門でノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞など合計7部門で受賞を果たした。"#Barbenheimer(バーベンハイマー)" 騒動後、公開が先送りされ続けた日本でも、ついにその全貌が明らかにされるときがきた。第二次世界大戦中、アメリカ軍から、ナチスより先んじて原子爆弾の開発を託されたドイツ系ユダヤ人の天才物理学者が味わう栄光と悲劇。
主演キリアン・マーフィーが"原爆の父"であり、開発に取り憑かれ、悪魔の兵器というパンドラの箱を開けてしまった男の葛藤を演じ切る。ルドウィグ・ゴランソンの見事なサントラを効かせながら、脂の乗り切った鬼才ノーランが観客の緊張の糸を操り続ける3時間。天界の火を盗んで人類に与え、ゼウスの怒りに触れて磔になったギリシア神話のプロメテウスのごとく、人類の未来を変えてしまったことから重い十字架を背負ったオッペンハイマー。核戦争の恐怖と隣り合わせで生きる我々は、核兵器もまた恐怖から生まれた産物であると本作を通して気づくだろう。
『オッペンハイマー』
3 月29日(金)より全国ロードショー
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オピオイド危機に立ち向かう写真家、ナン・ゴールディンの情熱を追う『美と殺戮のすべて』
1970〜80年代のサブカルチャーシーンに集う親密な友人たちをフィルムに収め続け、1986年の作品集『The Ballad of Sexual Dependency』が大きな反響を呼んだ写真家ナン・ゴールディンは、現代アートに多大な影響を与え、昨年もイギリスの現代美術誌が選ぶアート界「Power 100」の1位に輝いている。そんな彼女は、過去に手首の痛みに処方されたオピオイド系鎮痛剤オキシコンチンの中毒からのサバイバーでもある。2000年頃から依存症や過剰摂取による中毒死が急増し、過去20年間に50万人もの死亡者を出したオピオイド危機が全米社会を揺るがしているが、このオキシコンチンを過剰に販売促進して莫大な利益を得た製薬会社パーデュー・ファーマの所有者が、アート界の巨大スポンサーであるサックラー家だと告発される。
ゴールディンはこのサックラー家の責任追求と、オピオイド危機の事態改善を訴える団体を立ち上げ、サックラーの名を冠する展示スペースを持つメトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館、大英博物館などで抗議活動を繰り広げた。最愛の姉をはじめ、愛する人々との出会いと別れが培ったゴールディンならではの眼差しを浮かび上がらせるフィルムは、ドキュメタリーでありながらヴェネツィア国際映画祭の最高賞である金獅子賞に輝いた逸品だ。
『美と殺戮のすべて』
3月29日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、グランドシネマサンシャイン池袋ほかロードショー
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