発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選!

BY REIKO KUBO

アカデミー賞脚色賞受賞の荘厳な密室ミステリーと名優たちの競演に心が動く!『教皇選挙』

画像: 首席枢機卿ローレンスを演じるのは、数々の映画、舞台で確固たる地位を築いてきた演技派レイフ・ファインズ © 2024 Conclave Distribution, LLC.

首席枢機卿ローレンスを演じるのは、数々の映画、舞台で確固たる地位を築いてきた演技派レイフ・ファインズ

© 2024 Conclave Distribution, LLC.

 カトリック教会の最高指導者であるローマ教皇が死去すると、バチカンの門を固く閉ざして外部の圧力やメディアの介入を徹底排除し、コンクラーベ(教皇選挙)が執り行われる。世界各国から100人超えの枢機卿が集まり、候補者に投票者の3分の2以上の票が集まるまで投票が繰り返される。その都度、投票用紙を燃やす煙がシスティーナ礼拝堂の煙突から立ち昇り、教皇誕生の場合は白い煙、未決定では黒い煙というのが合図となり、バチカンの門前に詰めかけた多くの信者やメディアは煙の色を固唾を飲んで見守ることになる。

 この厳粛なコンクラーベの様子をイタリアの名匠ナンニ・モレッティは映画『ローマ法王の休日』でコミカルに描いてみせたが、本作『教皇選挙』はベストセラー作家ロバート・ハリスの原作を、『裏切りのサーカス』の脚本家ピーター・ストローハンが脚色、Netflix版『西部戦線異常なし』のエドワード・ベルガー監督がカトリック教会を舞台にした出色の政治スリラーとして描き出した。

画像: 荘厳な儀式が執り行われる礼拝堂内の光と闇の演出も、重厚なストーリーを引き立てる © 2024 Conclave Distribution, LLC.

荘厳な儀式が執り行われる礼拝堂内の光と闇の演出も、重厚なストーリーを引き立てる

© 2024 Conclave Distribution, LLC.

 重圧と葛藤しながらコンクラーベを取り仕切るのは、首席枢機卿ローレンス(レイフ・ファインズ)。有力候補は、もし当選すれば初のアフリカ系教皇誕生となるナイジェリア教区の枢機卿、保守強硬派のイタリア人、リベラル派のアメリカ人(スタンリー・トゥッチ)、保守派のカナダ人(ジョン・リスゴー)の4人。保守派とリベラル派が対立し、権謀術数が渦を巻く。緋色の法衣を纏った100人越えの枢機卿は高齢男性ばかりで、シスター長(イザベラ・ロッセリーニ)をはじめ、宿泊所で彼らに奉仕する修道女たちは影の存在。

 映画の中で死去したローマ教皇のモデルとなっているのは、さまざまな改革を執り行ってきた現教皇フランシスコだと思われる。まさに世界最古の家父長制といわれるキリスト教会の構図に一石を投じる終盤には息を呑み、胸を熱くさせられる。13世紀から続くカトリックの伝統行事に現フランシスコ教皇の改革と現代社会の縮図を重ね、名優たちの極上アンサンブルをもってスリリングに畳み掛ける群像ドラマ、アカデミー脚色賞大納得の傑作だ。

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『教皇選挙』
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鬼才ポン・ジュノ監督が放つ、奇想天外な“どん底”エンターテインメント!『ミッキー17』

画像: ミッキー17とミッキー18を一人二役で見事に演じ分けるロバート・パティンソン © 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ミッキー17とミッキー18を一人二役で見事に演じ分けるロバート・パティンソン

© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞作品賞など4冠を独占し、韓国映画の歴史を塗り替えた鬼才ポン・ジュノ。その待望の新作は、エドワード・アシュトンによる小説『ミッキー7』をもとに、ハリウッドで手がけた近未来を舞台にした逆襲エンターテインメント。環境破壊が進んだ世界で失敗続きのミッキーは、移住可能な惑星にコロニーを建設する大企業の求人を見つけるが、契約書をろくに読まず、空いていた職種に応募したのが運の尽き。 “使い捨てワーカー”となったミッキーは、危険な惑星探査や人体実験によって死ぬたびに記憶を上書きされて無限に複製される。原作の主人公はミッキー7だが、本作ではポン・ジュノによって過酷な死を10回も上乗せされたミッキー17!ある日、そんな主人公が目覚めると、すでにミッキー18がコピーされて存在し、2人の間に生存危機が訪れる。

画像: 『テネット』や『THE BATMAN-ザ・バットマン-』などの作品で、極限状態に置かれた人間の葛藤や狼狽を巧みに表現してきたロバート・パティンソンのハマり役だ © 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『テネット』や『THE BATMAN-ザ・バットマン-』などの作品で、極限状態に置かれた人間の葛藤や狼狽を巧みに表現してきたロバート・パティンソンのハマり役だ

© 2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『パラサイト 半地下の家族』や『スノーピアサー』など、格差社会を描いてきたポン・ジュノが、『Okja/オクジャ』の世界を雪と氷に覆われた惑星に移し、『風の谷のナウシカ』へのオマージュを込め、ミッキー17らとブラック企業との決戦を痛快かつコミカルに描く。寂しげな微笑みを浮かべたミッキー17とワイルドなミッキー18を絶妙に演じ分けるロバート・パティンソンを筆頭に、ブラック企業の社長夫妻を怪演するマーク・ラファロとトニ・コレット、ミッキーの幼なじみスティーヴン・ユァンらの顔ぶれも魅力。

画像: 映画『ミッキー17』日本版予告 2025年3月28日(金)公開 www.youtube.com

映画『ミッキー17』日本版予告 2025年3月28日(金)公開

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『ミッキー17』
3月28日(金) 公開
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ニコール・キッドマンが大胆不敵な官能のパワーゲームで魅了する『ベイビーガール』

画像: CEOのロミー(ニコール・キッドマン)と若いインターンのサミュエル(ハリス・ディキンソン)が繰り広げる危険な駆け引きとは? © 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

CEOのロミー(ニコール・キッドマン)と若いインターンのサミュエル(ハリス・ディキンソン)が繰り広げる危険な駆け引きとは?

© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 ラース・フォン・トリアーの『ドッグヴィル』やスタンリー・キューブリックの『アイズ ワイド シャット』など、センセーショナルなコラボに果敢に挑んできたニコール・キッドマン。ベネチア国際映画祭主演女優賞を受賞した、A24プロデュースの新作『ベイビーガール』は、オランダ出身の女性監督ハリナ・ラインと組んだエロティックスリラーだ。ニコールが演じる主人公ロミーは、ニューヨークのロボット・オートメーション企業のCEOで、プライベートでは優しい演出家の夫と2人の娘に囲まれ、幸せな家庭を築いている。ところが夫が眠りに落ちるやベッドからロミーが脱兎の如く飛び出し、パソコンでポルノ画像を開いて唸り声を噛み殺す、笑いを誘うほど明け透けなオープニングによって彼女の煩悩が明らかになる。そんなロミーは、ある朝、若い男が獰猛なドーベルマンを一瞬にして手なづけた場面に出くわす。彼女の会社の若いインターンだったサミュエルというその男は、一瞬でロミーの胸に潜む欲望を見抜き、危険な挑発をしかけてくる。

 『氷の微笑』や『エル ELLE』の鬼才ポール・ヴァーホーヴェンの薫陶を受け、女優から監督に転身したハリナ・ラインは、かの『ナインハーフ』でキム・ベイシンガーが担ったストリップを本作ではサミュエルに踊らせるなど、男性主体で語られてきたエロティックスリラーを女性目線で描き直し、サミュエルに対して従順なドーベルマンに自らを投影するロミーのファンタジーを肯定してみせる。

画像: 大胆不敵なロミーの衝動を見事に表現するニコールの演技は必見 © 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

大胆不敵なロミーの衝動を見事に表現するニコールの演技は必見

© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 今年58歳を迎えるとは思えない美しい肢体を駆使し、大胆かつ繊細にロミーの欲望と動揺を表現するニコール・キッドマンなくしては語れない映画。そして謎めいた魅力を放つサミュエル役で一気に株を上げたハリス・ディキンソン。さらに妻の情事を目の当たりにして「女のマゾ性愛なんて男の作り話だ!」とわめき、サミュエルに「時代遅れ!」と反論されて過呼吸を発症する夫に、往年のセクシーアイコンともいえるアントニオ・バンデラスを起用するなど、配役の妙も光る。ロミー夫婦や彼女の同僚幹部らと、サミュエルやロミーの娘たち、二世代の対比も鮮やかで興味深い。

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『ベイビーガール』
3月28日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか 全国公開
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