ファッション界の“時の人”ヴァージル・アブローが現代アートの世界に足を踏み入れた。新しい世代を象徴するこの人物が、クリエイティブ界の地図を再編集する

BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY YASUTOMO EBISU

 ヴァージルと村上にはもうひとつの大きな共通点がある。ふたりとも“ゲーム・チェンジャー”だということだ。村上はハイアートとサブカルチャーのみならず、アートとファッションの境界線をぼやかしたゲーム・チェンジャーである。村上とルイ・ヴィトンが“アート作品でもあるイット・バッグ”を生み出してから15年後、今度はヴァージルがハイファッションとストリートの境界線をなくしつつある。「僕がかつてマーク・ジェイコブスとともに洋服の添え物だったバッグを主役にしたように、ヴァージルはストリートの象徴であるスニーカーをランウェイショーの主役にしました」と村上は言う。「彼は服をコミュニケーション手段のひとつとして考えています。“この服、すごいでしょ”ではないけれど、インスタグラムを巧みに使ってバズをつくり出します。彼はずっと携帯を見ていて、その中で行われる情報のやりとりで次に何をするかを決めている。今の時代に求められる価値とは何か、気持ちが動くとは何かを知っているんです」。

ハイファッションとストリート、そして今度はファッションとアートの境界線を軽やかに飛び越えてゆくヴァージルだが、彼は境界線を壊すのではなく新しい架け橋をつくりたいという。「僕はファッションやアートの世界を今日的にしたいだけです。現実の世界で起きていることと、今のハイアートやハイファッションの世界で起きていることには“ずれ”がある。だから僕が関わる余地があるのです」

画像: 埼玉県・三芳にある村上のスタジオを訪ねたヴァージル。「苦手なことは寝ること」というヴァージルは村上と並ぶワーカホリック PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

埼玉県・三芳にある村上のスタジオを訪ねたヴァージル。「苦手なことは寝ること」というヴァージルは村上と並ぶワーカホリック
PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

画像: ふたりは常にインスタグラムをチェック。情報はここから得ている PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

ふたりは常にインスタグラムをチェック。情報はここから得ている
PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

 ヴァージルの目は常に今、そしてその先にある未来へと向けられている。彼がつくるファッションもアートもそして家具も(彼は今IKEAとのプロジェクトを進行中だ)、すべて“ミレニアルズ”と呼ばれる若者たちに向けたものである。「ミレニアルズにとって、アート作品がどう見えるのかに興味があります。彼らはすぐにアート・コミュニティの一部になるでしょう。ミレニアルズがその前の世代と大きく違うとは思わないけれど、決定的なのはインターネットの存在。彼らは生まれたときからインターネットの世界に生きているので情報へのアクセスが早い。インターネットは旅行するより早いでしょう?」。

インタビューの最後に、「あなたは何者か?」とヴァージルに尋ねてみた。少し考えると、「誰かが定義すればいいし、誰が決めてもかまいません」との答えが返ってきた。「むしろ僕は“タイトルとは何か?”に興味があります。誰がタイトルをコントロールしているのか、タイトルが何を意味するのか。僕は作品制作に専念します。それこそが事実ですから」。ジャンルではなく、「生活をデザインしている」というヴァージル。クリエイティブな世界に現れたゲーム・チェンジャーは、次にどんな一手を打ち出すのだろうか。

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