ファッション界の“時の人”ヴァージル・アブローが現代アートの世界に足を踏み入れた。新しい世代を象徴するこの人物が、クリエイティブ界の地図を再編集する

BY JUN ISHIDA, PHOTOGRAPHS BY YASUTOMO EBISU

画像: 初個展のテーマは広告。黒一色のオイル・ペインティングには実在する企業のロゴがつけられている。 左から時計回りに、《“Lamar”》《“JCDecaux”》(ともに2018, Oil on canvas 3200 ×1430mm)、 《“dollar a gallon”》(2018, Multi media 3418 × 1750 × 500mm)、 《“oil spill”》(2018, Carpet 1990×1720mm) PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

初個展のテーマは広告。黒一色のオイル・ペインティングには実在する企業のロゴがつけられている。
左から時計回りに、《“Lamar”》《“JCDecaux”》(ともに2018, Oil on canvas 3200 ×1430mm)、
《“dollar a gallon”》(2018, Multi media 3418 × 1750 × 500mm)、
《“oil spill”》(2018, Carpet 1990×1720mm)
PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

『“PAYPER VIEW”』と題したヴァージル・アブローの初個展は、広告をテーマとしたものだ。ヴァージルは、自らのアイデアや美意識の生まれたところを掘り下げた結果、広告に行きついたと述べている。「僕らの眼は、僕らが見たものからできています。そして僕らが見ているものの90パーセントは広告です。僕らがこの世界をどう見るかは、誰かほかの人によって決められているのです」。

展示された作品は、実在する企業のロゴが下についた真っ黒のオイル・ペインティング。広告のビルボードを思わせるその形状は、そこに何も描かれていなくても、企業のロゴから想起されるイメージを思い描いてしまう。広告によるイメージの刷り込みだ。またこの黒一色で塗った四角い絵は、20世紀初頭にロシアで抽象絵画を生み出した画家、カジミール・マレーヴィチにインスパイアされたものでもある。マレーヴィチの《黒の正方形》は、それまでのアートの歴史や美意識からの離反を宣言し、当時のアート界に大きな衝撃をもたらした。「アート作品は売り買いされるものでもあるけれど、それは第一義的な役割ではない。アートは、僕たちの精神を開くために、当たり前と思っていることに対して疑問を喚起するために存在しているんだ」とヴァージルは言う。

画像: 建築家でもあるヴァージルのルーツをたどる映像作品。モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの「バルセロナ・パビリオン」でアフリカ出身の若者たちを自ら撮影した。手前の椅子もヴァージルのデザイン。 《“non-cablechannel”》(2018, Digital Media LED Panel & Chair 8 EDITIONS) PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

建築家でもあるヴァージルのルーツをたどる映像作品。モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエの「バルセロナ・パビリオン」でアフリカ出身の若者たちを自ら撮影した。手前の椅子もヴァージルのデザイン。
《“non-cablechannel”》(2018, Digital Media LED Panel & Chair 8 EDITIONS)
PHOTOGRAPH BY KOICHIRO MATSUI

画像: ギャラリーの主宰者である村上隆とのツーショット

ギャラリーの主宰者である村上隆とのツーショット

 こうしたコンセプチュアルな思考のプロセスは、ヴァージルが建築を学んだ大学院時代に育まれた。大学でエンジニアリングを学んだ彼は、イリノイ工科大学大学院へと進学し建築を専攻する。ここでは、プラダのブランディングなどでも知られる現代建築界の巨匠、レム・コールハースとグラフィック・デザイナーでジャーナリストでもある「2×4」のマイケル・ロックが彼の導き手となった。大学院修了後は建築事務所に勤めるものの、ヴァージルはすぐに活動の場をファッションの世界へと移す。「文化的な領域ならば、そこに僕が入り込む余地さえあればよかった。建築にはなかったけれど、ファッションの世界にはあったのです」。フェンディでのインターンを経て、ヴァージルはストリート・ファッションとアートを組み合わせたプロジェクト「パイレックス ヴィジョン」をスタートする。そして2013年、ファッション・ブランド「OFF-WHITE」を立ち上げる。

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