BY JUN ISHIDA
メディアに必要以上に露出しないことでも知られるファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテンのドキュメンタリー映画が制作された。これまで不可能と考えられてきた、ドリスのプライベートな生活をカメラでとらえることに成功したのがライナー・ホルツェマー監督だ。ドキュメンタリー映画の製作法、1年間の密着で見えてきたドリスのデザイナーとして、また一個人としての魅力について監督に聞いた。
――写真家のユルゲン・テラーのドキュメンタリー制作時にドリスに出会ったそうですね。以前からドリスのことを知っていたのですか? また、初対面で「この人の映画を作りたい」と思ったとのことですが、ドリスのどのような部分に興味を抱いたのでしょうか?
ユルゲンが「アメリカン・ヴォーグ」で、ドリスのコレクションを撮影している時に彼に出会いました。正直にいうとドリスのことはよく知りませんでしたが、撮影が行われたドリスの素晴らしい庭でコレクションを目にするやいなや、その美しさに一目惚れしてしまったんです。昼食時に少しドリスと話してみると、彼のパーソナリティにも心を惹かれました。ドリスはそれまでに私が会った典型的なファッション界の人物とは違い、とても控えめな人物でした。そして、それは素晴らしいことだと感じたのです。
――ドキュメンタリーの被写体を選ぶ際に、何か基準はありますか? どのような被写体に惹かれるのでしょう?
特に基準はないですね。私はクリエイティブな世界で働いている人々に興味があるので、この世界に生きて仕事をしている人々に常に関心を払っています。興味深い人物に出会えたら、まずその人物と信頼関係を築けるかどうかを見極めることが重要です。被写体となる人物に可能な限り近づきたいので。信頼と信用こそが、私の仕事の真髄です。
――ドキュメンタリーを制作するにあたり、ドリスを説得するのは困難だったことと思います。彼が自宅や、パートナーのパトリックとの生活にまでカメラを受け入れたのは驚きでした。ドリスに対してどのようなアプローチを行ったのですか?
ドリスと出会って、彼は素晴らしい被写体になると思ったので、ドキュメンタリーに興味があるかどうか失礼のないよう聞きました。彼が著名な映画監督の提案をいくつか断っていることを聞いていましたからね。その後、ドリスから直筆の手紙が送られてきて、そこには「今はドキュメンタリーを制作するタイミングではないけれど、いつかその時がきたら」と書いてありました。辛抱強くその後もお願いし続け、3年後にドリスが「YES」と言ってくれた時には、なんて自分はラッキーなんだと思いましたよ。