「“美”には人の心を動かし、つなぐ力がある」。ファッションやアートをツールに社会問題に向き合う幾田桃子が、いま取り組んでいること

BY YOKO HASEGAWA, PHOTOGRAPHS BY OSAMU YOKONAMI

 東京・南青山のブティック「ル・シャルム・ドゥ・フィーフィー・エ・ファーファー」は、18年前のオープン時から“持続可能なファッション”に取り組んでいる。“セールをしない” “ゴミを増やさない”“職人を守る”“美を育む” “知的交流の場を創る”――。オーナーでデザイナーの幾田桃子は5つの理念を掲げ、SDGsという言葉もない時代から、信念をもって店を続けてきた。

 幾田が夫の千々松 由貴と手がける「MOMOKO CHIJIMATSU」の作品はアートピースのようであると同時に、社会的なメッセージが込められている。「Anti Racism(反人種差別)」の文字をかたどる指輪は、昨年末の紅白歌合戦で司会者が身につけ、話題を呼んだ。幾田は「ファッションやアートの力で社会問題を解決していきたいのです」と言う。

画像: 幾田桃子(MOMOKO IKUTA) 1976年、埼玉県生まれ。南カリフォルニア大学卒業。“命の誕生”をイメージしてデザインした“蕾”のヘッドピースを着用

幾田桃子(MOMOKO IKUTA)
1976年、埼玉県生まれ。南カリフォルニア大学卒業。“命の誕生”をイメージしてデザインした“蕾”のヘッドピースを着用

 高校卒業後に渡米し、大学で女性学や国際政治学を学んだ。東京で店を始めてからは、スリランカの貧しい子どもたちのための学校に制服を提供したり、アニマルライツを訴えるビジュアルも制作した。2013年には産婦人科医の対馬ルリ子監修のもと、性教育の本をつくった。ページをめくると、美しい写真や絵とともに、男女の体や妊娠の仕組みがやさしい言葉で綴られている。「性教育は本来、命のつながりを学び、誰もがひとりひとりかけがえのない存在であることを知る学問のはず。命の大切さや自己肯定感につながるような教育が、もっと広がればいいなと思います」

画像: “新たな自分”への生まれ変わりを祝福する象徴として、夫とともに制作した木製オブジェ

“新たな自分”への生まれ変わりを祝福する象徴として、夫とともに制作した木製オブジェ

 今春には、性教育の大切さや性被害をなくすために必要なことを写真と文章で伝える「りぼん プロジェクト」を始動させた。美しく、柔らかな表現で、世の中にある問題を人びとに訴えかける。それがデザイナーの自分にできることだと幾田は考えている。「怒りは社会を変える原動力になる。でも、怒りの感情だけで行動すると、いずれ派閥や分断が生まれ、問題への理解は広がっていかないと思うんです」。プロジェクトには、居場所のない少女を支える一般社団法人Colabo(コラボ)や、性犯罪者の再犯防止に関わる精神保健福祉士など、性を取りまく問題に最前線で向き合う人たちも参加する。「関わる人たちをつないで問題を共有し、多くの人に関心をもってもらえたら」

画像: 「このリボンドレスは、"あなたも私も大切な存在。傷ついた魂を愛で包みこみたい"という想いを込めてデザインしたものです」。「りぼん プロジェクト」はさまざまなスタイルにて全国で順次展示を予定。グランド ハイアット 東京で行われるサスティナブル アート プロジェクト「Ribbon of Life 」(2021/6/1~)にも参加。横浪 修氏が撮影した写真のほか、リボンドレスやアートピースなども展示される

「このリボンドレスは、"あなたも私も大切な存在。傷ついた魂を愛で包みこみたい"という想いを込めてデザインしたものです」。「りぼん プロジェクト」はさまざまなスタイルにて全国で順次展示を予定。グランド ハイアット 東京で行われるサスティナブル アート プロジェクト「Ribbon of Life 」(2021/6/1~)にも参加。横浪 修氏が撮影した写真のほか、リボンドレスやアートピースなども展示される

 横浪 修が撮ったプロジェクトを象徴する写真のなかで、幾田がデザインした「リボンドレス」に身を包んだふたりが笑っている。2020年にこのドレスが発表されると、さまざまな思いを抱える女性たちからのメッセージが幾田のもとに届いた。闘病中のある女性は、このドレスを着て小さな娘と写真を撮りたいと望んだが、かなう前に逝った。その娘がこの写真のモデルを務めている。大きなリボンは大切な存在を愛で守り、つながる命をそっと包みこんでいるかのように感じられる。

「Ribbon of Life 」
会期:2021年6月1日(月)〜7月上旬予定
会場:グランド ハイアット東京 ロビー
住所:東京都港区六本木6-10-3
電話:03(4333)1234(グランドハイアット東京)
公式サイト

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