BY MIKA KITAMURA, PHOTOGRAPHS ARISA KASAI
ドミニカ共和国は、カリブ海に浮かぶ西インド諸島に位置する。カカオ豆の生産量は世界第9位(2016年FAOデータ)、カカオ生産は国の主要産業のひとつだ。ドミニカ共和国のロマ・ソタヴェント村では、これまで「木の皮の香りや焦がしたパンのようなニュアンスがあり、フレッシュ感にあふれ、酸味の強いしっかりした風味が特徴」とカッセルが絶賛する素晴らしいカカオが収穫されていた。しかし、ここにもCCN51が植え始められたという。
「カカオ農園といっても家族経営の小さな規模のところが多く、どこも貧しさに苦しんでいる。CCN51の魅力には勝てないんです。収穫量は在来種の4倍、収入は2倍になるのですから」
「カカオ・フォレスト」の活動は、チョコレートメーカー「ヴァローナ」が音頭をとり、ヴァローナ社員としてこの活動を始めたピエール・コステが中心になって、NPOとして立ち上げられた。発足と同時に協力を求められたルレ・デセールは、カカオ・フォレストに25,000ユーロを出資、アンバサダー的な役割も担っている。
2017年度は、フランス人の農学エンジニアをロマ・ソタヴェント村へ派遣。1年間常駐してもらい、ハイブリッド種への植え替えを監視して阻むという活動も展開している。将来的にはクラウドファンディングで資金を集め、活動地域を広げていく予定だ。
また、カカオに関してはフェアトレードがいまだに根付いていないという問題もある。市場相場によって値段が決まるものの、生産者にはまったく還元されず、貧困ゆえにハイブリッド樹への植え替えを余儀なくされる農家が多いのだ。その解決策のひとつとして、カカオ・フォレストは二次的な収入源確保のためのアイデアを生産者に提唱している。フルーツを栽培して地元ホテルへ果実を卸し、余ったものはピュレやジュースにして販売する。あるいは、森の倒木を薪にして売るといったことだ。そのかいあって、村の生活は少しずつ改善されてきたという。
一方、ヴァローナは村の子供たちのために小学校をつくり、現在は18人がここで学んでいる。子どもたちが農園での作業しか知らずに育つのではなく、人生にはさまざまな選択肢があることを理解するきっかけになるはずだ。また、小学校プロジェクトの支援策として、心あるショコラティエにこの村のカカオを通常価格より高く買ってもらい、その差額を小学校へ還元するというシステムも作っている。
もちろん、カッセルもこのプランに参加している。彼は、経済的な支援だけでなく、こうした生産者への多角的な提案を今後も積極的に行っていきたいと意欲を示す。
カカオ・フォレストの活動はまだ始まったばかりだ。「大切なのは、パティシエである自分たちが現実を知り、食べる人たちにもチョコレートを通してカカオの現状を伝えていくこと。それがわれわれのミッションだと考えています」とカッセル。10年後、20年後、カカオ原産国の子どもたちが幸せになれるよう、世の中のチョコレート好きが風味の高い素晴らしいチョコレートを味わえるよう、ひいては、地球の自然環境を守っていけるように、この活動が長く続くことを願う。カカオの森の問題は、人ごとではない。
問い合わせ先
フレデリック・カッセル銀座三越
公式サイト