「オーパス・ワン」「ルーチェ」と名だたるワインを世に送り出してきたティム・モンダヴィ。その彼が新たに手がける「コンティニュアム・エステート」とは

BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY TOMOKO SHIMABUKURO

 今、カリフォルニアワインの最高峰として名を挙げられることが多いのが、「コンティニュアム エステート ナパ・ヴァレー」(通称「コンティニュアム」)だ。カベルネ・ソーヴィニヨン主体の赤ワインで、その味わいは芳醇で優美。「かの『オーパス・ワン』を凌駕する」とも評され、風格さえ感じさせる。

 つくり手はティム・モンダヴィ。“カリフォルニアの巨人”として名高い故ロバート・モンダヴィの二男にあたる。じつは、「オーパス・ワン」の初代醸造責任者がティムだった。彼はこのボルドー「シャトー・ムートン・ロートシルト」とのコラボレーションワイン「オーパス・ワン」に携わり、その名を一気に世界に知らしめた。ほかにも、チリの老舗ワイナリー「ヴィーニャ・エラスレス」とともに「セーニャ」を、イタリア・トスカーナの名門「フレスコバルディ」とタッグを組んで“スーパー・タスカン”「ルーチェ」を世に送り出すなど、敏腕をふるってきた。

画像: ティム・モンダヴィ(TIM MONDAVI) 『コンティニュアム・エステート』オーナー&醸造責任者。ロバート・モンダヴィの二男として生まれる。カリフォルニア州立大学UCデイビス校で醸造を学び、ワイナリーに参画。「オーパス・ワン」「ルーチェ」などの世界的に有名なワインを次々と生み出す

ティム・モンダヴィ(TIM MONDAVI)
『コンティニュアム・エステート』オーナー&醸造責任者。ロバート・モンダヴィの二男として生まれる。カリフォルニア州立大学UCデイビス校で醸造を学び、ワイナリーに参画。「オーパス・ワン」「ルーチェ」などの世界的に有名なワインを次々と生み出す

 ティムが自身のワイナリー「コンティニュアム・エステート」を設立した背景には、とある事情があった。2004年、それまで父の所有であった「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」は大手会社コンスタレーションズ・ブランドに買収され、父子は新しい経営陣との方針の違いからやむなくワイナリーを去った。その翌年、ティムは父ロバート、姉マルシアとともに「コンティニュアム・エステート」を立ち上げたのだ。当時、ティムの胸中にあったのは「ボルドーのシャトー同様、ひとつのエステートから世界最高峰のワインをつくること」だった。

 それからは“最高の畑”を探す日々が続いた。そして見つけたのが、ナパ・ヴァレーの東、ヘネシー湖近くの山の上にある「プリチャード・ヒル」だった。標高410~490メートル、夏の気温の温度差は約40℃というブドウにとっては過酷な環境だが、これがブドウ本来の生命力を刺激し、最高のブドウを育てるのだという。

「この土地に出会えたことは、私にとっては奇跡でした。長年さまざまな畑を見てきたから、最高の畑はもうないのではという不安もあった。でも、この地に立ったとき、『ここでなら素晴らしいワインがつくれる』と確信しました」

画像: 「コンティニュアム」の自社畑「セージ・マウンテン・ヴィンヤード」。ナパ・ヴァレー、オークヴィルの東側の山奥に位置。南西向きの火山灰土壌の畑で、十分な日照時間がとれるという COURTESY OF CONTINUUM ESTATE

「コンティニュアム」の自社畑「セージ・マウンテン・ヴィンヤード」。ナパ・ヴァレー、オークヴィルの東側の山奥に位置。南西向きの火山灰土壌の畑で、十分な日照時間がとれるという
COURTESY OF CONTINUUM ESTATE

「コンティニュアム」には、当初「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」で最良の区画とされる「ト・カロン」の畑のブドウが使われていた。「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」は、ティムがワイナリーを去ったのちもモンダヴィ・ファミリーとの友好的関係を望んでいたという。

「ト・カロンの畑のブドウは素晴らしいので、しばらく購入していました。でも、プリチャード・ヒルの畑に出会い、ト・カロンへの未練は断ち切れました(笑)。2012年ヴィンテージからは、すべて自社畑のブドウを使用しています。ファーストヴィンテージ2005年から07年はト・カロンの畑、2008年から11年はプリチャード・ヒルのブドウをメインとしたブレンド。それぞれのヴィンテージで『コンティニュアム』の歴史が楽しめると思います」

 テイスティングして驚いたのは、「コンティニュアム 2016」のピュアさとフレッシュさだ。ブレンドされたカベルネ・フランが香水のような芳香を放ち、メルロの甘やかさがなめらかに溶け込んでいる。

画像: 「コンティニュアム エステート ナパ・ヴァレー 2016」<750ml>¥37,000 カベルネ・ソーヴィニヨン46%、カベルネ・フラン31%、プチ・ヴェルド18%、メルロ5%をブレンド。オレンジの花やバラの花びらのアロマ。乾燥ハーブ、シガー、なめし皮のニュアンス。凝縮感のある果実味と厚みのあるミネラルをもち、酸とのバランスはパーフェクト。フレッシュ感も際立つ

「コンティニュアム エステート ナパ・ヴァレー 2016」<750ml>¥37,000
カベルネ・ソーヴィニヨン46%、カベルネ・フラン31%、プチ・ヴェルド18%、メルロ5%をブレンド。オレンジの花やバラの花びらのアロマ。乾燥ハーブ、シガー、なめし皮のニュアンス。凝縮感のある果実味と厚みのあるミネラルをもち、酸とのバランスはパーフェクト。フレッシュ感も際立つ

 今まで数々のヒット・ワインを生み出してきたティム。父の存在感が大きすぎて、どこか影に隠れていた感が否めないが、実際のところ、ティムを“天才”と評するワイン関係者は多い。このことをストレートに尋ねると、こう答えてくれた。

「じつは、私の娘もそう言ってくれるのです(笑)。うれしいですね。正直、若い頃は、父の名前が偉大過ぎて、逃げ出したくなったこともありました。ですが、ブルゴーニュで修業していたとき、大切なことに気づいたのです。ブルゴーニュには家族経営のドメーヌが多く、それらが個々の歴史をもって、現代に続いている。だから、私たちもきっとこうなれる、とね。

 それに、考えてみれば私は恵まれていた。祖父のチェーザレがこの地に入植し、ワイナリーの設立に努力した。父のロバートはプロデューサー的手腕でカリフォルニアワインを世界に伝えた。私は、そのおかげでワインをつくることに専念していればよかった。祖父や父には心から感謝しています。だからこそ、新しいワインもラテン語で“継承”を意味する『コンティニュアム』としたのです」。そう言って晴れ晴れとした笑顔を見せる彼は、「もう、『ロバート・モンダヴィ・ワイナリー』へのこだわりはない」と穏やかに語る。

画像: ワイナリーは完全なる家族経営。 (後列左から)長男のカルロ、姉のマルシア、ティム、次女のキアラ、三男のダンテ。長女カリッサ(手前)はマーケティング担当、キアラはボトルのラベルデザインを手がけた COURTESY OF CONTINUUM ESTATE

ワイナリーは完全なる家族経営。
(後列左から)長男のカルロ、姉のマルシア、ティム、次女のキアラ、三男のダンテ。長女カリッサ(手前)はマーケティング担当、キアラはボトルのラベルデザインを手がけた
COURTESY OF CONTINUUM ESTATE

「今、長男のカルロが自身のワイナリー『レイン』を立ち上げて頑張っています。三男のダンテは私とともに働きながら、兄を手伝っている。私の夢は、彼らが平和的に、傷つくことなく、ワインづくりを継承していってくれることです。残念なことに、父のロバートは所有していた『チャールズ・クリュッグ・ワイナリー』を去り、そしてまた『ロバート・モンダヴィ・ワイナリー』を私とともに去った。息子たちはこういった轍を踏まぬよう、私は祈っているのです」

 長年抱えてきた心のしこりを本誌だけに語ってくれたティム。以前会ったときには、このことに触れることはできなかった。穏やかな空気をまとい、悟りさえ感じさせる彼に、「人が生きるうえで大切なことは?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。「人々を信じること。そして今の自分をほめてやること。加えて、さらなる向上心を持てば、開かない扉もいずれは開くのです」

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