BY KIMIKO ANZAI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO
イタリアにおいて“最高級”と評されるワインのひとつが、アマローネだ。アマローネの名は「アマーロ(苦い)」という言葉に由来し、ビターなニュアンスが余韻に残る。シルクのようなとろりとした質感とチョコレートのような甘やかさを秘めた苦みがあり、ほかのどんなワインも持ちえない魅力に満ちている。
アマローネがつくられているのは「ロミオとジュリエット」の舞台でもあるヴェネト州ヴァローナ近郊に位置するヴァルポリチェッラ地区。特徴的なのはその製法で、陰干し(アパッシメント)したブドウが用いられる。アマローネは現在イタリア最高峰のD.O.C.G.(保証付き原産地統制呼称)に分類されているが、これには厳しい規定があり、陰干しと樽熟成、瓶熟成の期間とイタリアの固有品種(コルヴィーナ・ヴェロネーゼ種、ロンディネッラ種、モリナーラ種)の使用などが定められている。その希少さから、かつては王侯貴族しか口にできない時代もあったほどだ。
このアマローネのトップ生産者として名を馳せるのが、16世紀初頭から続く「アレグリーニ」だ。イタリアの権威あるワイン専門誌『ガンベロロッソ』2016年版で「ワイナリー・オブ・ザ・イヤー」を受賞、国内だけでなく、世界中に多くのファンをもつ。だが、興味深いのは、「アレグリーニ」の「フィエラモンテ・アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ・リゼルヴァ」にはアマローネ独特の焦げたような苦みではなく、軽やかで繊細な苦みが感じられる。果実味とのバランスがパーフェクトで、スタイリッシュでモダンな印象だ。
オーナーのマリリーザ・アレグリーニさんは言う。「干しブドウでつくるといっても、アマローネは貴腐ワインではありません。ブドウが貴腐化しないよう、アパッシメントをていねいに行っているのです。“現代的なアマローネ”を狙っているわけではありませんが、結果としてモダンだと言われることはありますね。私自身が、苦味があまり好きではないことも影響しているかもしれません」
マリリーザさんはカンティーナ(ワイナリー)の6代目にあたり、現在マーケティングと広報を担当、世界中に「アレグリーニ」の魅力を伝える日々を送っている。その際、心がけているのは自社のワインだけでなく、ヴェネトの、ひいてはイタリアの土地の美しさを伝えることだと語る。
「一昨年、アメリカの『ワインスペクテイター』が当社に取材に来て、私をイタリア人女性生産者として初めて表紙にしてくれたのです。これには本当に驚きましたが、光栄でした。でも、なによりうれしかったのは、記事の中で”イタリアワインのアンバサダー”と紹介してくれたこと。また頑張らなくては、と思いました(笑)」
「アレグリーニ」の魅力はアマローネだけではない。“イタリアワインの女王”と称される「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」、一度発酵させたワインに干しブドウを加えて二重発酵させる”リパッソ”という伝統方法に「アレグリーニ」独自のオリジナル製法を加えた「パラッツォ・デッラ・トーレ」など、枚挙に暇がない。特にコルヴィーナ種でつくられる芳醇な「ラ・グローラ・リミテッド・エディション」は毎年世界のアーティテストとコラボレーション、2016年ヴィンテージは日本人の増山裕之氏を起用した。
「彼は、テロワールを見て表現するアーティスト。ラベルにはヴァルポリチェッラの一日の移り変わりが表現されています。彼は15日間カンティーナに滞在し、毎日畑を歩いていました。夏の暑い日でしたが、こまやかに畑を見ていましたね」
じつは、マリリーザさんは大の日本びいき。最初は日本料理が入り口だったというが、その奥にある日本人の細やかな感性に心惹かれたという。増山氏に白羽の矢を立てたのも、彼独自の繊細な世界観を感じたからと話す。ワインそのものの味わいも、豊かな果実味でありながらも繊細なタンニンと酸味が感じられ、ラベル同様「アレグリーニ」の世界観そのものだ。
最後に、マリリーザさんにこんな質問をしてみた。「ロミオとジュリエットは、どんなワインを飲んでいたと思いますか?」すると、彼女は即座に答えてくれた。「カジュアルなヴァルポリチェッラ。アマローネではないわ。なぜなら彼らはまだ若かったから(笑)」。やはり、アマローネのほろ苦さは、大人にしかわからない美味なのだ。
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