BY YUKINO HIROSAWA, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA
美大生時代は、課題そっちのけで好きな格闘技やプロレスの絵を描き、仲間らが大手企業に就職するなかで、師岡さんはやっぱり黙々と絵を描いていた。遅咲きのヒーローが覚醒したのは、20代後半。「最初は『リトルモア』の吉本ばななさんのコラムのイラストでした。30代になって僕が描いた格闘家のイラストが試合会場のあおり映像で使われるようになり、『キン肉マン』のタッチを真似たものを、ありがたいことにゆでたまごの嶋田先生が見てくれて……」。
それがご縁で一緒に仕事をしたり、時には呑みに行く仲に。「うれしいですよね。マンガに注力する先生とは違うアプローチで『キン肉マン』を後押しし、少しずつ恩返しできるといいな、と。仕事ってつくづく、人のつながりや人間同士の関わりなんだと思います」。
そうやって広がった仕事のひとつが、今年60周年を迎えた「歌舞伎揚」のキャラクターデザイン。「亀田の『柿の種』や笹団子といっしょに、実家の“グリーンボックス”に入っていたおやつ。おまけに地元から近い会社の銘菓だから、なおさらうれしかったですね。集中して絵を描いていると、脳が栄養を欲しがる。『歌舞伎揚』は止まらなくなるので、正直困ります(笑)」。

60周年を記念し、師岡さんが描いたオリジナルキャラクター「カブ團治」と「あげ丸」(写真左下)。パッケージにも描かれたバージョンは、2020年3月から発売予定。歌舞伎揚をよく見ると、12種の家紋が刻まれている
「歌舞伎揚」1袋¥238(税込)<参考価格>
天乃屋
TEL. 042(560)6661
ブレずに、真摯に、ワクワクが詰まった膝を打つような作品を描き続ける。その姿はなかなかストイックで、「事務所にいるときは、眠くなる限界まで描き、起きたらすぐ机に向かう生活。二日酔いのとき以外、ずっと絵のことを考え、探り、試しながら描いています。自分が納得するまで描きたいし、やればやるほどよくなるから、『いつまでやればいいんだ!?』と思いながら、予定よりも2日くらい長くかかってしまう」。面倒なことを、何ひとついとわない。
新しいものに出会い、経験を重ねると、人はそれを“過去のもの”にしがちだ。けれど師岡さんは、“変えない”とか“続ける”という、ありふれたようで難しい奇跡的な瞬間にどうしようもなく心惹かれ、作品でもおやつでも、つぶさに見つめ続ける。また、「同じ絵をずっと描くのが当然だった世間のイメージを崩したかったから、いろんなタッチで描くようになった」ことで、埃をかぶってしまうかもしれない数多くの上質な作品に新しい息吹を吹き込み、過去と今を結びつけてきた。
おやつも仕事も人生も。世の中の流行りだとか、王道“じゃない”方に魅かれ、選び、歩んできた師岡さんが、次に繰り出すのはどんな技なのか? 乞うご期待。

師岡とおる(TORU MOROOKA)さん
1972年東京都小平市生まれ。千変万化のタッチを描きこなすイラストレーター。NHK「ねほりんぱほりん」のキャラクターデザイン、「氣志團万博」などで数々のアーティストグッズを手がける。食通としても広く知られ、ライフワークは酒場巡り
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COURTESY OF TORU MOROOKA