シャンパーニュの名手が日本酒を造った―― 今、ワインと日本酒の世界ではこの話題で持ちきりだ。日本酒の概念を覆した“新たな日本酒”とは、どんなものなのだろうか?

BY KIMIKO ANZAI

 1000年の歴史をもつ日本酒の世界に、今年新たな風を送り込んだのが、富山県の蔵元・白岩が造る「IWA 5」だ。手がけるのは“最高峰のシャンパーニュ”と謳われる「ドン ペリニヨン」の醸造最高責任者を28年間務めたリシャール・ジョフロワ氏。シャンパーニュの緻密なアサンブラージュ(ブレンド)技術を用いた、新たな発想の日本酒が誕生した。

画像: RICHARD GEOFFROY(リシャール・ジョフロワ) フランス・シャンパーニュ地方ヴェルテュ村生まれ。生家がワイン醸造を営む家系で、幼い頃からワインを身近に育つ。長じては医師になるため大学で学び、医学博士号を取るが、その後、ワインの道を志す。カリフォルニアの「ドメーヌ・シャンドン」でキャリアをスタートさせ、1990年より「ドン ペリニヨン」醸造最高責任者となり、28年間メゾンを牽引。2019年に「株式会社白岩」を富山県立山町白岩に設立。世界有数の豪雪地で、日本アルプスの清らかな水に恵まれた地を選んだ PHOTOGRAPH BY NAO TSUDA

RICHARD GEOFFROY(リシャール・ジョフロワ)
フランス・シャンパーニュ地方ヴェルテュ村生まれ。生家がワイン醸造を営む家系で、幼い頃からワインを身近に育つ。長じては医師になるため大学で学び、医学博士号を取るが、その後、ワインの道を志す。カリフォルニアの「ドメーヌ・シャンドン」でキャリアをスタートさせ、1990年より「ドン ペリニヨン」醸造最高責任者となり、28年間メゾンを牽引。2019年に「株式会社白岩」を富山県立山町白岩に設立。世界有数の豪雪地で、日本アルプスの清らかな水に恵まれた地を選んだ
PHOTOGRAPH BY NAO TSUDA

「5」の由来は、酒米の品種、産地、酵母の種類、酛造りの手法、発酵方法といった日本酒を構成する5つの重要な要素に由来する。加えて、“五感”や均衝と調和を意味する数字であることにちなんで名づけられた。日本酒は、山田錦、雄町、五百万石といった酒米を単一で用い、精米歩合を基準として純米酒や大吟醸酒として仕上げる。だが、「IWA 5」はその概念を超えて、異なる産地で栽培された様々な酒米を品種別、産地別に日本酒として仕込み、それを“アサンブラージュ”するというシャンパーニュの技法で生み出された。

 驚くべきは、その香りと味わいだ。グラスからふわりと薫風が立ちあがる。そして、次の瞬間に米の甘い香りとミネラルがグラスの中に漂う。口に含むと米のやわらかな甘みが広がり、全体にふくよかな味わいだ。だが、その奥には複数の日本酒のブレンドからくる複雑味が感じられ、その新しい味は日本酒が新たなステージを迎えたことを予感させる。

画像: 異なる産地の異なる品種の酒米をブレンド、5種の酵母で造られる。やわらかな口当たりながら複雑味があり、調和が感じられる味わい PHOTOGRAPH BY JONAS MARGUET

異なる産地の異なる品種の酒米をブレンド、5種の酵母で造られる。やわらかな口当たりながら複雑味があり、調和が感じられる味わい
PHOTOGRAPH BY JONAS MARGUET

 T JAPAN webでは、一昨年「ドン ペリニヨン」醸造最高責任者の交替式の様子を伝えたが、その時のインタビューで、ジョフロワ氏は「引退したら、富山で日本酒を造るんだ。新しい夢への挑戦だよ」と満面の笑顔で語っていた。このプロジェクトは、その夢を叶えたものと言える。

 実は、ジョフロワ氏の日本酒への思いは、日本に対する深い愛情に支えられたものだ。「ドン ペリニヨン」の醸造最高責任者として過ごした28年の間、何度も来日し、神社仏閣や日本料理、地方の自然など、さまざまな“日本の美”に触れ、日本文化への尊敬の念が大きくなっていったという。「なにより新鮮な刺身と日本酒は最高においしかった(笑)。私も、そのうち日本酒を造ってみたいと思うようになったんだ」と彼は語っていた。

 ジョフロワ氏の“夢の酒蔵”は、現在立山町に建築中で、来春完成予定だという。隈研吾氏による設計で、コンテンポラリーなデザインだ。富山の自然にもすっとなじみ、ここでは「すべてを包み込むような包容力のあるコミュニティの醸成」を目指すという。

画像: 「IWA 5」<720ml> ¥13,000 ボトルデザインは「アップル・ウォッチ」などで知られるオーストラリアのプロダクト・デザイナー、マーク・ニーソン氏。ラベルは書道家の木下真理子氏とアートディレクター中島秀樹氏のコラボレーションによるもの PHOTOGRAPH BY JONAS MARGUET

「IWA 5」<720ml> ¥13,000
ボトルデザインは「アップル・ウォッチ」などで知られるオーストラリアのプロダクト・デザイナー、マーク・ニーソン氏。ラベルは書道家の木下真理子氏とアートディレクター中島秀樹氏のコラボレーションによるもの
PHOTOGRAPH BY JONAS MARGUET

 現在発売中の「IWA 5」は、ジョフロワ氏と親交が深い富山の桝田酒造店の蔵を借りてアサンブラージュが行われたが、今年はCOVID-19により来日が叶わなくなった。そこで、今年の仕込み分は日本酒を日本からフランスに取り寄せてアサンブラージュを行ったという。ジョフロワ氏の熱意が窺えるエピソードだ。ここでひと言伝えておかなくてはいけないのは、「IWA 5」は、完成度の高い日本酒でありながらも、「これで完成ではない」ということだ。「IWA 5」は完成されたレシピを持たない。実験的プロセスを重ねながら、さらに進化していくのだ。新しい概念の「IWA 5」は、今後日本酒のシーンをどう変えていくのだろうか? 2021年春、T JAPAN本誌ではジョフロワ氏の特別インタビューを予定、彼の“新たなる挑戦”をお伝えする。

問い合わせ先
株式会社白岩
info@iwa-sake.jp

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