BY KIMIKO ANZAI
芳醇かつエレガントな味わいで、シャンパーニュファンからの支持が高いのが「ボランジェ」だ。映画"007"シリーズのジェームズ・ボンドが愛飲する銘柄として知られ、また、英国王室御用達としてロイヤルウェディングに用いられるなど、多くのシーンを華やかに彩ってきた。
メゾンの創業は1829年。職人の手によるクラフトマンシップを何よりも大切にし、今も伝統的な木樽発酵を行う数少ない造り手でもある。メゾンが位置するアイ村は、最高品質のピノ・ノワールを産出する"グラン・クリュ(特級畑)"の村として有名で、「ボランジェ」はこの地の利を最大限に生かし、素晴らしい味わいのシャンパーニュを生み出している。
それを象徴するトップ・キュヴェのひとつが「ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ 2012」だ。"ヴィエイユ・ヴィーニュ"とは「古木」の意で、フィロキセラ(害虫)禍を逃れて生き残り、健康に年を重ねた自根(接ぎ木をしていない樹)の特別な畑「ショード・テール」と「クロ・サン・ジャック」のブドウだけで造られた特別なシャンパーニュだ。10年の熟成を重ねた、深みのあるゴールドの色合いが印象的。マーマレードや砂糖漬けのレモン、ローストしたアーモンドの香りで、重厚感とエレガンスを持ち合わせている。
実はこのキュヴェは、3代目ジャック・ボランジェの妻であるマダム・リリー(エリザベス・リリー・ボランジェ)の発案によって生み出されたものだ。彼女は、夫亡き後、第二次世界大戦のさなかにシャンパーニュを造り続けてメゾンを守り抜き、戦後は大きく発展させた伝説の人物で、今でもシャンパーニュ地方で尊敬を集める存在だ。
この特別なシャンパーニュの誕生のきっかけは、1967年のある日、イギリス人ジャーナリストがメゾンを訪ねたことだった。前述の「クロ・サン・ジャック」のブドウを、どのキュヴェに使用しているのかと尋ねたところ、マダム・リリーは、メゾンのベーシックライン「ボランジェ スペシャル キュヴェ」に使用している旨を話した。すると、「なんてもったいない!」と返され、彼女はこの素晴らしい畑のブドウだけを使った特別なキュヴェを造ることを決断したのだという。
醸造責任者のドゥニ・ブネア氏はこう語る。
「アイ村の特別な畑の、接ぎ木をしていないブドウ。そしてピノ・ノワール100%。『ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ』は、アイ村の歴史とテロワールを語る、特別なキュヴェなのです」。ちなみに、ファースト・ヴィンテージは1969年で、初リリースは’73年。以来、"極めてブドウの質がよい年"にしか、生産されていない。ブネア氏は続ける。
「マダム・リリーは先見の明を持った人物でした。当社のプレステージで、デゴルジュマン(澱引き)の時期にフォーカスした『ボランジェ R.D.』の発案者も彼女です。マダム・リリーは決して妥協することなく、最高品質のシャンパーニュを造ることだけを目指していました。私は、仕事で何か決断しなくてはいけない時は『マダムならどうするだろう?』とよく考えます。彼女が示した仕事の姿勢は、今やメゾンの揺るぎない哲学となっているのです」。
常に長期的に物ごとを見据え、試行錯誤を重ねながらも、質を下げることをよしとしない。それが、『ボランジェ』ならではのクラフトマンシップを支えているのだ。
「ボランジェ」の妥協なき姿勢から生まれた芳醇かつ優美なシャンパーニュは、人生のよき日に彩りを与えてくれる。その日のための憧れシャンパーニュとして"マイ・ワイン・リスト"に入れておきたい。
問:WINE TO STYLE
TEL:03-5413-8831
公式サイトはこちら
▼あわせて読みたいおすすめ記事