元アップル社の重役が、ワインブランドのオーナに転身。つくり上げたワインは、繊細で優雅な風味を纏う。カリフォルニアから和食に合う赤ワインを携えて来日したザンダー・ソーレンに話を聞いた

BY MIKA KITAMURA

画像: 「2019 OLIVET LANE Russian River Valley Pinot Noir」 フレッシュなラズベリーやすみれのような複雑な香り。樽の甘美なニュアンスを持ち、ミントを思わせる清涼感も感じられる洗練の1本 PHOTOGRAPH BY CONAN MORIMOTO

「2019 OLIVET LANE Russian River Valley Pinot Noir」
フレッシュなラズベリーやすみれのような複雑な香り。樽の甘美なニュアンスを持ち、ミントを思わせる清涼感も感じられる洗練の1本

PHOTOGRAPH BY CONAN MORIMOTO

 華やかな酸味とまろやかな渋み。透明感あるエレガントなワインは、カリフォルニアのワインブランド「ザンダー・ソーレン・ワインズ」のもの。「和食に合うワイン」として、2023年4月、世界に先駆けて日本で発売され、以来、ファンを増やし続けている。

 注目されたのが、このワインブランドを率いるザンダー・ソーレンのキャリアだ。ソーレンは、アップル社の重役としてスティーブ・ジョブズの元で「iPod」や「GarageBand」、「iPhone」の着信音などの、世界を変えたデジタル音楽製品の制作に従事してきた。2022年、21年間勤めたアップル社をリタイアし、セカンドキャリアとしてカリフォルニアワインのブランドを立ち上げた。そのワインのテーマは「和食に合う」こと。ソーレン以外にも、ビジネスで成功を収めた後、カリフォルニアでワイナリーのオーナーになり、新たなビジネスチャンスを獲得した人は少なくない。だが、“和食に合うワイン”を目指すブランドは希少だろう。なぜ、ソーレンは和食にこだわったのか。

画像: ウェスト・ソノマ・コーストにあるアキコ・フリーマンの畑「ユウキ・ヴィンヤード」にて。ぶどうだけを醸造家に預けることはしないフリーマンが首を縦に振ったのは、ソーレンの熱意と、フリーマンに対するリスペクトゆえだろう PHOTOGRAPH BY MARGOT DUANE

ウェスト・ソノマ・コーストにあるアキコ・フリーマンの畑「ユウキ・ヴィンヤード」にて。ぶどうだけを醸造家に預けることはしないフリーマンが首を縦に振ったのは、ソーレンの熱意と、フリーマンに対するリスペクトゆえだろう

PHOTOGRAPH BY MARGOT DUANE

「幼い頃から日本のアニメの大ファンだったんです。80年代にはリチャード・チェンバレンと三船敏郎主演のTVドラマ『将軍SHOGUN』に夢中になり、黒澤映画もひと通り見ました。その影響もあって、日本の歴史も学び、学生時代には、アメリカンスタイルでしたが(笑)、和食店に通っていました。2002年に仕事で初めて日本を訪れ、その後、ずいぶん時間は経ちましたが、行きたかった関ヶ原へ。日本の歴史のターニングポイントとなった場所を自分の目で確かめたかった。日本の友人たちには、なぜ関ヶ原?と驚かれましたが」とソーレンは笑う。
 来日は40回を超えるという。東京と京都は必ず訪れるが、お気に入りの料理屋を訪ねるため、全国各地に足を伸ばす。訪れるたび、日本の料理人の繊細な仕事ぶりと、プロフェッショナルとしての矜持に感服し、日本にのめり込んでいったと言う。「特に割烹が好きです。だしの味とピノ・ノワールのマリアージュは最高です。他にも天ぷらや鮨、焼き鳥、町中華、お好み焼きやたこ焼きも好きでよく食べに行きます。和食といえば白ワイン、と言われますが、デリケートできれいな酸味のあるピノ・ノワールは、和食の繊細な味わいにぴったりです」。

 自社畑は持たないが、サンタ・バーバラ郊外のAVA(アメリカワインの原産地呼称)サンタ・リタ・ヒルズをはじめ、ラ・エンカンターダ、サンフォード&ベネディクト、シエラ・マールなど、歴史ある冷涼なぶどう産地の畑のピノ・ノワールを使う。「北はソノマ・コーストから、南はサンタ・バーバラまで、日本で例えれば、秋田から福岡くらいまでの広い地域にまたがっています。世界中から注目を浴びる日本人女性醸造家のアキコ・フリーマン氏の畑『ユウキ・ヴィンヤード』のぶどうも、光栄にもご縁ができて使わせてもらっています」。
 カリフォルニアを代表する畑のぶどうの醸造を任せているのが、シャリニ・シェイカー。「ウィリアムズ・セリエム」「スタッグス・リープ」「ロアー」など一流ワイナリーで研鑽を積み、2015年のサンフランシスコ・インターナショナル・ワイン・コンペティションにおいて、「ベスト・ワインメーカー」という最高の栄誉を獲得した名醸造家だ。
 カリフォルニアのピノ・ノワールの赤ワインといえば、肉厚でパワフルなイメージがあるが、ソーレンとシェイカーが目指すのは、繊細でエレガントな味わい。そのためアルコール度数を抑え、極力人的介入を控えることで、風土の個性を生かし、ぶどうの味わいを引き出している。
「私のワインは全てピノ・ノワールで造ります。和食に合うポイントはきれいな酸味なんです。カリフォルニアのぶどう畑は海に近いので、ぶどうはほのかに海の香りがします。これも、海の幸を多く使う和食に合う理由だと思います」。

 アップル社で培った仕事のやり方は、ワイン造りに生かされているのだろうか。
「アップルの製品と同じように品質にこだわり、また、環境にやさしいパッケージを使用したワインを造っています。うちは素晴らしい生産者のぶどうを使い、フレンチオーク樽での熟成期間も17ヶ月間と長い。時間と手間をかけています。最終的に、お客さまに満足していただくことが最大の目標です。これに勝るものはないのです」。

画像: 左から、2023年11月にリリースされたセカンドライン「2020 ザンダー ピノ・ノワール サンタ・バーバラ・カウンティ」750ml ¥12,100(参考上代)、2023年4月にリリースされた「ザンダー ソーレン プライベート セレクション ピノ ノワール ユウキ ソノマ コースト2019」750ml ¥16,000、「ザンダー・ソーレン ピノ・ノワール ルディオン セントラル・コースト2020」750ml ¥27,000 PHOTOGRAPH BY CONAN MORIMOTO

左から、2023年11月にリリースされたセカンドライン「2020 ザンダー ピノ・ノワール サンタ・バーバラ・カウンティ」750ml ¥12,100(参考上代)、2023年4月にリリースされた「ザンダー ソーレン プライベート セレクション ピノ ノワール ユウキ ソノマ コースト2019」750ml ¥16,000、「ザンダー・ソーレン ピノ・ノワール ルディオン セントラル・コースト2020」750ml ¥27,000

PHOTOGRAPH BY CONAN MORIMOTO

 昨年、世界に先駆けて日本でリリースされたザンダー ソーレンのワインは「2019 オリヴェット ・レーン」 「2019 ユウキ」「2020 ルディオン」。「NO CODE」のオーナーシェフ・米澤文雄や、「鮨m」のソムリエ・木村好伸ら名料理人、名ソムリエたちがこぞってザンダー・ソーレンのワインを取り入れ、彼のワイン造りのストーリーをお客たちに語っている。今年6月1日にアメリカでも初リリース。この透明感あふれるエレガントなワインが世界に羽ばたく日は近い。

布袋ワインズ 
TEL. 03-5789-2728
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