TEXT & PHOTOGRAPHS BY MARI KATSURA
金沢から足を伸ばして落ち着いた風情の山代温泉へ。霊峰白山の気を感じながら、「界 加賀」で、温泉と美味を満喫!

香りも美味な活蟹のしめ縄蒸し。ずわい蟹会席より(アップグレード代:¥26,500、今年度の販売は終了。例年、7月中旬頃の販売を予定)
蟹好きにはたまらない会席を「界 加賀」で
ずいぶん久しぶりとなった3度目の山代温泉。宿泊先の「界 加賀」は有名な「魯山人寓居跡 いろは草庵」や、美しい九谷焼の発祥の地といわれる加賀市にあり、北大路魯山人が陶芸に目覚めた九谷焼窯元須田菁華窯、明治時代の総湯を復元し、レトロなステンドグラスやタイルで彩られた共同浴場「古総湯」が郷愁を誘う。

個性豊かな表情を持つ獅子頭
初めて滞在した「界 加賀」で、8月31日まで体験できる「手業のひととき 加賀獅子頭の400年の伝統に浸り、職人と語らう工房ツアー」に参加。2代目と3代目の家族で、70年以上加賀獅子頭の伝統を守る、石川県下唯一の知田工房を見学し、可愛らしい桐の魔除け厄除けの根付作りにも挑戦した。やさしく丁寧に指導してくださり、不器用な私でも無事完成。町ごとに個性が生きた加賀獅子頭のみならず、全国の獅子頭の修復依頼も受ける工房で貴重な時間を過ごしたので、「界 加賀」で毎夜舞われる加賀獅子舞への期待も一層膨らんだ。

柔らかな桐を彫っていく

根付作りにも挑戦

獅子頭の工房。訪れた時はまだ雪が。ツアーは宿泊費とは別で1名¥7,000(税込み)で、1日2組4名まで。実施時期や詳細は「界 加賀」のサイトで確認を
今回訪れた時期は冬。この時期の山代温泉といえば、ズワイ蟹! 関西から毎年楽しみに訪れるファンも多いのだそう。山代温泉には、金沢から足を伸ばしてぜひ寄りたい、蟹、温泉、工芸の“夢のようなパッケージ”がある。3月10日までだったが「極み タグ付き活蟹づくし会席」は、目も喜ぶ贅沢な会席。11月になれば蟹漁解禁期間でまたスタートするので、ぜひ。活蟹のしめ縄蒸しは、伝統的な料理法にヒントを得て、塩水に浸した縄で蟹を巻いて、ジューシーに蒸しあげている。地元の作家作の九谷焼で供されなんとも華やか。ひとり旅でも蟹を一杯丸ごと楽しめる「一人蟹会席」まであるのもいい! 「界シリーズ」は食事がおいしいことで知られているが、蟹のお刺身から焼き蟹、絹糸揚げ、すき鍋、雑炊、金時のデザートまでまさに美味の極みだった。

活蟹と寒鰤のお刺身

なめらかな金時のデザートも自慢の一品
自ら選んだ豆皿でいただく、日本酒とピンチョス
夕食後、人々の健康と幸せを願って舞う武家文化の象徴でもある、祝いの舞から始まった力強く感動的な加賀獅子舞を堪能。すっかり心を奪われた。その余韻に浸りながら、ひと息ついたあとは、開湯1300年のさらりとやさしい弱アルカリ性の美肌湯に身を任せ、温まれば至福。「界 加賀」では露天風呂付きの部屋も選ぶことができる。

迫力の加賀獅子舞で魅せてくれたホテルスタッフ
風呂上がりに、昨年オープンした古総湯が紅殻格子越しにのぞめる「べんがらラウンジ」へ。北陸のお酒とおつまみをゆっくり楽しめる。それも、九谷焼や山中塗の100種類の中から自分で選んだ器やグラスで、となるとワクワク。酒どころの美味しい日本酒も揃っていて、赤巻きという蒲鉾など、北陸素材のピンチョスやナッツなどと合わせていただいた。

北陸の食材を使ったピンチョス

4席限定のべんがらラウンジ。¥3,500、要予約

テラスに露天風呂付きの客室

肌に優しい温まりの湯
加賀温泉郷の旅館ならではの朝ごはん
加賀が工芸が盛んな理由のひとつは食文化にあるそう。宿でいただく朝食も、信田巻き、椎茸真薯、利休牛蒡、のどぐろ出汁の醤(ひしお)鍋、からすかれいなどが並び、地味豊かな豆腐、ヨーグルトにのせたかぼちゃのジャムにも頬が落ちる。伝統がそこここに残る温泉地でいただく朝ごはんも特別。「前田のお殿様」に感謝だ。

加賀五彩の器で

心も温まるいしる鍋
1624年創業以来、多くの文化人に親しまれてきた老舗旅館「白銀屋(しろがねや)」の歴史を受け継ぎ、新しい魅力を発信する「界 加賀」では、料理の着物でもある器を宝物として大切に扱い、2015年の開業当初から九谷焼や山中塗の作家の器を用いてきた。2019年より金継ぎの技術をスタッフに広め、2023年には日本で初めて温泉旅館内に金継ぎ工房をオープン。金継ぎ体験ができる「金継ぎいろは」が目当てのリピーターも少なくないそう。温泉地全体が工芸や文化愛、温泉愛に満ちていて、ずっとこのままであってほしい大切な場所だと再認識した。

お土産のお菓子の箱のイラストも手描き

金継ぎ工房。ホテル内部に併設されている。

宿から見える古総湯
界 加賀
石川県加賀市山代温泉18-47
公式サイトはこちら
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