「まず食べたいものありきで旅先を決める」という贅沢な視点がいま、観光や食のシーンで熱い注目を集めている。日本各地で脚光をあびる大人のためのデスティネーションレストランを、ガストロノミープロデューサー・柏原光太郎が厳選して案内。

BY KOTARO KASHIWABARA

*記事内で紹介しているメニューや価格は、記事公開時点のものです。

「YOSHIKI FUJI」(茨城県・常陸大宮市)

【2025年5月公開記事】

画像: 「風土」と名付けられた、50種類以上の野菜を使ったシグニチャーディッシュ

「風土」と名付けられた、50種類以上の野菜を使ったシグニチャーディッシュ

 長く首都圏への食材供給基地と思われていた地域がいま、ガストロノミーツーリズム、ローカルガストロノミーによって変わろうとしている。その代表のひとつが茨城県だ。

 茨城県といえば失礼ながら、7年連続で「都道府県魅力度ランキング」最下位だったのだが、2020年についに脱出。その後も紆余曲折があったが、昨年度は45位と再脱出に成功している。その要因のひとつがガストロノミーへの取り組みなのは間違いあるまい。大井川知事自ら率先して行っている政策で、2018年からは県北地域に焦点を当てて「茨城県北ガストロノミー」プロジェクトを開始したのである。

 今回ご紹介するバスク料理「YOSHIKI FUJI」は、まさに県北の常陸大宮市に位置する。茨城県は広いので水戸や筑波ならまだしも、北部の地域はなかなか知られてはいないが、東京から特急と水郡線を乗り継げば2時間半もかからずに目指す駅までたどり着ける。

 そこからタクシーに乗ってもいいが、ぶらぶらと歩いて店に向かうのも地方のレストランを訪れる際の楽しみのひとつだ。予約の時に「夜は何時からですか?」と尋ねたところ、藤シェフに「丘の上のレストランなので、夜よりも昼がおすすめです」といわれて、暖かくなった春の空気を感じながら15分ほど歩いて訪ねた。

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「NIGRAT(ニグラット)」(山梨県・甲府市)

【2025年4月公開記事】

画像: 自家製豆腐の麻婆豆腐

自家製豆腐の麻婆豆腐

山梨県は東京から近いことで損をしている観光地である。富士山や富士五湖、八ヶ岳など、インバウンド人気も抜群の観光資源を抱えているのだが、日帰りで楽しめてしまうから、観光客はなかなか宿泊してくれない。関西で言えば、奈良県や三重県なども同じような悩みを抱えている。

 せっかく地方の名店に行くなら遠くに行ってみたい、と考える人は多いから、東京近郊というのはどうしても後回しになってしまうのだ。だが、実はそんなところにいい店ができ始めている。

 北杜市のかつて宿場町として栄えた地域に位置する「Terroir 愛と胃袋」や、西湖のほとりにある「Restaurant SAI(レストラン サイ)」、忍野村に出来たオーベルジュ「nôtori(ノウトリ)」が代表例だが、さらにもうひとつ、隠れた中華の名店が甲府市にある。「NIGRAT(ニグラット)」である。

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「VENTINOVE(ヴェンティノーヴェ)」(群馬県・利根郡)

【2025年1月公開記事】

画像: 食材は半径30キロ以内で調達。渋川市「鳥山畜産」から届いた赤城牛のサーロイン

食材は半径30キロ以内で調達。渋川市「鳥山畜産」から届いた赤城牛のサーロイン

 仕事柄というべきか、「どうやって美味しい店を探すのですか」と聞かれることは多いのだが、秘密などはない。公開情報から自分に合いそうなものをブックマークしているのが主だから、誰にでもできることだ。

 しいて言えば、食いしん坊の友人たちが多いので、彼らの情報が入りやすい立場ではある。互いの食の好みを知っているから、「あの店は柏原さんは好きだと思います」などとリコメンドされたら、行かなくてはならないと思ってしまうし、そういう場合に外れることはめったにない。

 群馬県利根郡の川場村にあるイタリア料理「VENTINOVE(ヴェンティノーヴェ)」は、この一年間ほどのあいだに複数の料理人や食いしん坊から名前を聞いていて、「きっと柏原さんは気に入ると思います」とまで言われていたから、一度行ってみたいと思っていた。しかし、予約困難だと聞いていたし、ひとりでは難しそうで、いつか機会があればいいなあ程度に考えていた。ところが思ってもみなかった友人がこの店の常連であることがわかり、ご相伴に預かることができたのである。

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徳山鮓(滋賀県・長浜市)

【2025年2月公開記事】

画像: 熊の炊き込みご飯、びわ鱒の卵添え

熊の炊き込みご飯、びわ鱒の卵添え

 はじめて「徳山鮓」を訪れたのは十年以上前だった。当時から発酵食材を駆使した料理の美味しさが評判で、予約もなかなか取れなかったのだが、常連の友人からお誘いいただいての訪問だった。

 滋賀県長浜市の北部にある余呉湖。琵琶湖に隣接する小さな湖だが、その湖を見下ろす高台に徳山鮓がオープンしたのは2004年。いまは和風オーベルジュとも呼ばれるが、料理旅館と言ったほうがわかりやすいだろう。美味しい料理をいただいたあとにゆっくり風呂に入り、部屋でくつろいで寝て、翌日の朝ごはんを楽しむスタイルの宿である。

 主人の徳山浩明さんは同地で生まれ育ち、京都の料亭で修業を積んだのちに帰郷。地元の国民宿舎で料理長を務めていたときに、発酵研究の第一人者である小泉武夫先生と出会った。先生との親交を通じ、発酵食品の奥深さに目覚め、生家を改築。発酵を主とした料理を出す徳山鮓を開店したのである。

 地元の食材を徹底的に活かした料理が有名で、山からは猪や熊、鹿、湖や近隣の川からはうなぎや鮒、カニ、ワカサギ、鮎、イワナなどが届き、さらに四季折々の山菜、キノコ、野草を駆使する。もちろん四季に応じて料理は変わるのだが、なかでもこの店を有名にしたのが鮒ずし(鮓)。ちなみにすしは「寿司」「鮨」「鮓」とさまざま書かれるが、発酵させた保存食は鮓と表記されるのが一般的なため、徳山鮓の店名もそこから来ている。

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私房菜 きた川(三重県・松阪市)

【2025年3月公開記事】

画像: 伊勢海老の麹納豆蒸し

伊勢海老の麹納豆蒸し

 三重県松阪市といえば「松阪牛」。「和田金」「牛銀」というふたつの老舗牛肉料理店が有名で、すき焼きやしゃぶしゃぶを楽しむ観光客も多い。いっぽう、江戸時代から伊勢神宮への参詣客が立ち寄る宿場町としても知られ、多くの豪商も生まれている。なかでも三井物産や三越で知られる三井財閥は松阪市を祖とし、2024年には開業350年を迎えた。

 しかし今回、私が訪れたのは松阪牛を食べるためではない。いまや2年先まで予約が埋まっていると評判の中国料理店「私房菜 きた川」を訪れるためである。日本全国にある、わざわざ訪れるに値するレストランを表彰する「デスティネーション レストラン 2024」で、わずか10軒のうちの1軒に選ばれているのだ。

「私房菜」とは香港にはよくあるプライベートキッチンスタイルの料理店のことだが、きた川も1日1組限定の完全予約制。予約さえすれば2名からでも営業するし、時間も事前の打ち合わせ次第だ。 

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柏原光太郎
ガストロノミープロデューサー。文藝春秋で「文春マルシェ」創設を経て、「日本ガストロノミー協会」会長、「食の熱中小学校」校長、「Luxury Japan Award 2024」審査委員などを務める。近著に『ニッポン美食立国論 ―時代はガストロノミーツーリズム』『東京いい店はやる店』。

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