BY CHIKO ISHII, PHOTOGRAPH BY MASANORI AKAO, STYLED BY YUKARI KOMAKI

口の中でカシャッと、はかなく弾けて、アニゼット、マラスキーノ、コアントローの3つの香りとほのかな甘みがふわりと広がる。可憐なパッケージに、手書き文字で詩が綴られた紙片も添えられて、乙女心をくすぐる"夢見"菓子。大阪の心斎橋 本店・住吉店のみの取り扱い(通販不可)。毎週土曜入荷、数量限定。「クリスタルボンボン」1 箱(90g)¥2,160
長﨑堂
TEL.0120-690-102
"大阪のフランソワーズ・サガン" こと田辺聖子は、日常の中で少しずつ色変わりしていく女性の気持ちを描く自らの作品を「夢見小説」と呼んでいた。「クリスタルボンボン」は、そんな「夢見小説」にぴったりのお菓子だ。30代の働く女性・乃里子を主人公にした三部作の掉尾を飾る『苺をつぶしながら』に出てくる。ままならない恋を経て大金持ちの男と結婚した乃里子が、離婚したあとの話だ。誰にも縛られない生活を手に入れ、仕事も遊びも楽しむ乃里子は、ある日、大阪・ミナミの「長㟢堂」に行き、夢色の宝石のようなボンボンを買う。〈それをそっと口にふくむと、甘いこうばしい洋酒が口いっぱいにひろがって、それも、ほんとに小さい粒だから、舌先だけ一瞬、かすかにとまどいながら酔う、そうして甘さと香ばしさは余韻をのこして消えてしまう〉。読むだけでうっとりする。一人で生きる自由と幸福の味だ。
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