BY CHIKO ISHII, PHOTOGRAPH BY MASANORI AKAO, STYLED BY YUKARI KOMAKI
カステラの黄なるやはらみ新らしき
味あじわひもよし春の暮れゆく
―― 北原白秋 歌集『桐の花』より

1624年創業。2024年に400周年を迎えた「福砂屋」のカステラは、卵も白身と黄身に分け、白身を十分に泡立ててから他の材料を加える「別立法」を採用。手間を惜しまないこだわりの製法で焼き上げる。黄金色の生地はふんわり、しっとりした味わいは底の双目糖のシャリッとした口あたりとあいまってまさに風味絶景、眼福口福。「カステラ小切れ0.6号」1 本¥1,458/福砂屋
TEL.095-845-2938
カステラの生地の黄色は、鮮烈でありながら郷愁を喚起する不思議な色だ。北原白秋は歌集『桐の花』の序文「桐の花とカステラ」で、桐の花の淡紫色と、カステラの暖かみのある黄色の調和をたたえている。カステラは〈粉つぽい新らしさ、タツチのフレツシユな印象、実際触さはつて見ても懐かしい〉という。「粉っぽい」といっても小麦粉の粉っぽさが残っているという意味ではなく、ふんわりと焼き上がった生地の軽やかさを表しているのだろう。〈黄色いカステラの付いた指のさき〉というくだりを読むと、カステラの細かい欠片が花粉のように見えてくる。百年以上たった今読んでも新しく美しい文章だ。
一方、江戸川乱歩は「カステーラ・ノスタルジア」というエッセイで〈カサカサしないで、シットリと落ちついた口触りのものがすぐれている〉と語っている。新鮮な触感とシットリを両立させるところがカステラの魅力だ。
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