おいしいもののためならどこまでも! 国内外問わず、食の探求のためにさまざまな地に暮らしてきたノマドなエディター、ヤミー高山こと、高山裕美子さん。いつもは北海道が舞台でしたが、今回は日本を飛び出して北の国フィンランドへ。自然と共に歩み、旬の恵みを大切にする森の人たちに会いに、北の大地を駆け抜けていま、会いにゆきます!

TEXT & PHOTOGRAPHS BY YUMIKO TAKAYAMA, SPECIAL THANKS VISIT FINLAND,VISIT KUUSAMO,FINNAIR

画像: 「絵本に出てくるきのこは実在したんだ!」と思うようなかわいさ。しかしどれが食べられるかの判断は難しい。フィンランドの森のなかで

「絵本に出てくるきのこは実在したんだ!」と思うようなかわいさ。しかしどれが食べられるかの判断は難しい。フィンランドの森のなかで

きのこやベリーを摘みながら森を歩く楽しみ

画像: ヘルシンキ東部にあるウーテラの森。氷河期の岩石、海岸の風景、森林、湿地帯などの自然が満喫できる

ヘルシンキ東部にあるウーテラの森。氷河期の岩石、海岸の風景、森林、湿地帯などの自然が満喫できる

 フィンランドの晩夏はまさにきのこシーズン。フィンランドは国土の7割以上が森林で、森はフィンランドの暮らしに寄り添うように存在している。フィンランドをはじめとする北欧地域には、古くから「自然享受権」が存在していて、土地の所有権に関係なく、森に入って自然を楽しむことができる。北欧諸国が幸福度ランキングでトップ上位を独占する理由のひとつは間違いなく、自然と共存するライフスタイルだろう。
 所有者でなくても森でのきのこ、野草、ベリーなどの採集が認められており、きのこ狩りはかなり一般家庭の日常に溶け込んでいる。

 ヘルシンキの町の中心部から車で20分ぐらいのウーテラの森のなかを、生物学者できのこやハーブ、ベリー類の専門家であるアンナ・ニマンさんに案内してもらい、きのこ狩りツアーへ。そんな町に近いエリアで食べられるきのこが収穫できるのがすごい。

画像: アンナ・ニマン。自然食品・オーガニック食品会社「ヘルシンキ・ワイルドフーズ・オイ」を設立。きのこ狩りやハーブスタディのツアーをシーズン中行っている。 公式サイトはこちらから

アンナ・ニマン。自然食品・オーガニック食品会社「ヘルシンキ・ワイルドフーズ・オイ」を設立。きのこ狩りやハーブスタディのツアーをシーズン中行っている。

公式サイトはこちらから

「フィンランドには“フォレストマインド”という、自然の癒しを活用するウェルビーイング手法があります。広大な森林のヒーリング効果を取り入れ、マインドフルネスやリラクゼーションに焦点を当てた、心身の健康を向上させるメソッドで、森のなかを歩くだけでも効果があります」とアンナ。きのこ狩りもある意味、フォレストマインドと考えると、おいしくてメンタルヘルスにもいいなんて一石二鳥!

画像: セイヨウナナカマド、ローワンベリー。セイヨウナナカマドのゼリーは伝統的に鹿肉などの狩猟の獲物の肉によく付けあわされるらしい

セイヨウナナカマド、ローワンベリー。セイヨウナナカマドのゼリーは伝統的に鹿肉などの狩猟の獲物の肉によく付けあわされるらしい

 われわれを出迎えるかのように、森の入り口になっていた真っ赤なベリーはセイヨウナナカマド、ローワンベリー。渋酸っぱい味わいだが、ジャムやゼリーの材料としてよく使われるのだとか。

画像: ヒノキ科の針葉樹ジュニパーツリー。実のジュニパーベリーはジンの香りづけの原材料になる

ヒノキ科の針葉樹ジュニパーツリー。実のジュニパーベリーはジンの香りづけの原材料になる

「これはジュニパーツリーです。実はジンの香り付けの原材料で知られますが、若い小枝や針葉はお茶にもなります」とアンナ。実はフィンランドのビール「サハティ」の風味付けにも使われているのだとか。それはぜひ飲まなければ!

きのこ狩り、スタート!

「食べられるきのこを見つけるためには、最初にきのこが好む木を探しましょう」とアンナ。松茸が松の木のそばに生えるように、例えばポルチーニはエゾマツのような針葉樹のそばに生えることが多く、フィンランドの人が大好きなアンズダケ(ジロール茸)は落葉樹と針葉樹の下に生えることが多いなど。まずは木の識別から始めないとならないのはかなりハードルが高いので、とりあえずきのこらしきものを探すことに。

画像: マッシュルームブラシを入れた白樺の木皮の靴。その昔は本当に履いていたのだとか

マッシュルームブラシを入れた白樺の木皮の靴。その昔は本当に履いていたのだとか

 アンナが取り出したのがきのこの泥を取るマッシュルームブラシ。かごに入れる前に泥やゴミを取り除くと、調理するときに楽。年季の入った靴型の入れ物は、アンナさんの祖父の兄弟のお手製だとか。白樺の木皮で作られており、繊細なのに長持ちする。

画像: 最初に見つけたきのこ。この後、森のなかで迷子になる

最初に見つけたきのこ。この後、森のなかで迷子になる

「あったぁ~!」。ビギナーズラックなのか、最初にきのこを見つけたのはなんと私。「あなた、キノコ採りの才能あるわよ」と、アンナに褒められて、いい気になってしまったのがいけなかった。この後、きのこを探し回っているうちに、完全にグループからはぐれてしまったのだ。「あっ、あっちから声がする」と人の気配がある方角に行ったら、子供たちのハイキングの団体で、顔面蒼白に。「日本人、ヘルシンキの森で遭難」というニュースのヘッドラインが頭をよぎったのだが、今どきの携帯電話の機能はすごい。アンナたちがどこにいるか位置情報を送ってくれ、携帯電話のマップを見ながら道なき道を戻り、グループに合流することができた。みなさま、お騒がせしました。

画像: 収穫した大小のきのこ。虫食い部分はナイフで切り取る

収穫した大小のきのこ。虫食い部分はナイフで切り取る

 戻ってきたら、すでにさまざまなきのこが収穫されておりました。きのこ狩りメンバーの面々は、「アンナさん、これは食べられる?」ときのこをもって聞きに行くのだが、「それは毒よ」とか、「それは食べられないこともないけど、おいしくない」とか、むしろNGきのこの方が多くてなかなか難しい。

画像: アンナが「スライミー」の愛称で呼んでいた「ヌメリイグチ」というきのこ

アンナが「スライミー」の愛称で呼んでいた「ヌメリイグチ」というきのこ

 私が持っていった地味目なきのこは、「あっ、それはスライミースパイクね。ぬるぬるする表面の薄皮を取ったら食べられるわ」と、薄皮をもいでいく。“スライミー(ぬるぬる、ねとねと)”という愛称で呼ばれていたきのこは、後で調べたら日本のヌメリイグチというきのこが近い? なめこのようなぬめりがあるのだが、フィンランド人はぬめりが嫌いらしい。

画像: どや顔のサラ。ヘルシンキ在住シティガールだが、今シーズンはすでに数回、きのこ狩りに来ているそう。私もいつかポルチーニをとりたい!

どや顔のサラ。ヘルシンキ在住シティガールだが、今シーズンはすでに数回、きのこ狩りに来ているそう。私もいつかポルチーニをとりたい!

 そして、同行者のひとり、サラが見つけたのがポルチーニ!! さすが、百戦錬磨の地元っ子。あんなに大きくて立派なのに、なぜか私が見つけるのはスライミーばかり。

画像: 「黒ラッパダケ」。フランス料理でも使われる高級食材

「黒ラッパダケ」。フランス料理でも使われる高級食材

 そして、ポルチーニ同様、高級キノコの一種、黒ラッパダケをアンナが発見。真っ黒なので、土に紛れて見つけるのが難しい。
「前に教育の一環で、幼稚園児たちと一緒にきのこ狩りに行ったことがあるんだけど、きのこの収穫かごに犬のうんちが混ざっていたことがあったのよ」というアンナの話にみんなで大笑いしていたけど、確かにこれは間違えるかも。

画像: 今日の収穫物。ほぼサラがとっていたような気がする

今日の収穫物。ほぼサラがとっていたような気がする

 きのこがかごいっぱいになったところで、試食タイム。森のなかで、たった今収穫したばかりのきのこを確認しながら食べられるのはとても勉強になる。きのこはなんていったって、鮮度が命だし。

画像: バターと塩だけで味付け。きのこの味の違いがわかる、おいしい食べ方

バターと塩だけで味付け。きのこの味の違いがわかる、おいしい食べ方

 アンナはアウトドア用のコンロとフライパンを出し、きのこを小さく刻んで1種類ずつバターと塩で炒めていく。おいしそうな香りがそこら中に充満してきて、クマがいたら寄ってきそう(この森にはいないそうです)。まずは黒ラッパダケ。じんわりうま味が口のなかに広がり、噛めば噛むほど複雑な滋味が広がる。見た目が似ていて黄色いのはこちらもフレンチ食材で知られるアンズダケ。甘酸っぱい杏のような香りと、しゃくしゃくとした食感が特徴で、「虫がつきにくく、黄色で見つけやすいから一般の人でも収穫しやすいのが人気の秘密ね」とアンナ。「sheathed woodtuft(和名センボンイチメガサ)」という細めのきのこは、エノキのようなあっさりした味わい。ポルチーニはさすが王者の風格で、肉厚で食べ応えが半端ない。そしてわれらがスライミー、意外だったことに繊細でクセがなく食べやすい! 「ポルチーニは有名だけど、きのこはそれぞれのおいしさがあるからそのおいしさをもっと知ってほしい。私が大好きなのは春のきのこ『コルヴァシエニ(和名シャグマアミガサタケ)』。毒があるから10分以上茹でて食べなくてはならないけど、すごくおいしいの」と言うアンナ。写真で見せてもらったら、脳みそみたいなルックス。パスタやスープにして食べるらしい(ウィキペデアで調べたら、秋田県南部では方言で「ぐにゃぐにゃ」と呼ばれているとか。そのまんま(笑))

 きのこ狩りは「宝探し」な感じで、すごく楽しくて大満足。そして、確かにリフレッシュしたのだが、きのこの試食で食欲を刺激され、アンナが持って帰った残りのきのこはどんな風に食べるのか気になって、煩悩の方が強かったというオチ。 “フォレストマインド”を堪能するには、もう少し人間的に修業が必要なようです。

高山裕美子(たかやま・ゆみこ)
エディター、ライター。ファッション誌やカルチャー映画誌、インテリアや食の専門誌の編集者を経て、現在フリーランスに。国内外のローカルな食文化を探求することがライフワーク。2024年8月に、東京から北海道・十勝エリアに引っ越してきたばかり

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