ラグジュアリー、観光、サステナブル。矛盾しがちなこの要素を見事に成立させているフランスのクルーズ会社「ポナン」。環境にできる限り配慮しながらもラグジュアリーでエキサイティングな極地探検を可能にしたクルーズ船「ル コマンダン シャルコー」が目指す持続可能な旅のあり方に迫る

BY KANA ENDO

世界で唯一のサステナブルな砕氷船「ル コマンダン シャルコー」

 ラグジュアリーなエクスペディションクルーズを展開する「ポナン」という会社をご存知だろうか。ポナンは、フランスで唯一のクルーズ会社で、南極や北極といった極地や、アマゾン川、オセアニアやポリネシアの島々などの秘境を冒険するクルーズ旅行を提供している。ポナンは13 隻のコンパクトなクルーズ船を保有しているが、2021年にデビューした「ル コマンダン シャルコー」は、氷に閉ざされた極地への旅を可能にした世界で唯一のラグジュアリーな砕氷船だ。厚さ12メートルもの海氷を割って進むことができるため、これまでラグジュアリーとは無縁であった北極や南極への旅が、エキサイティングで優雅なクルーズ旅へと生まれ変わった。さらに、この「ル コマンダン シャルコー」、パワフルでラグジュアリーなだけではない。環境負荷を極限まで減らしたサステナブルなクルーズ船なのだ。

画像: 海氷にで埋め尽くされた海を航行する際、時折氷を砕く地響きのような音がするが揺れを感じることはほとんどない

海氷にで埋め尽くされた海を航行する際、時折氷を砕く地響きのような音がするが揺れを感じることはほとんどない

 ポナンの船舶は重油を一切使用しないことで知られているが、なかでも「ル コマンダン シャルコー」は、電気とLNG(液化天然ガス)もしくはディーゼルを燃料としたハイブリッド船で、燃料消費による二酸化炭素の排出量を減らす取り組みを行っている。さらに、航行速度を低速に制限することで、燃料消費量を30%削減。発電機で動く電気推進モーターを搭載しているので、騒音や振動が少ない快適な航行を約束するとともに、水中の野生動物を驚かせることなく航海することが可能。また、ポナンでは、全船舶で使い捨てプラスチックの使用を禁止している。海水から飲料水を作るシステムを導入し、客室やレストランで提供される飲料水はガラスボトルに容れられ、ゲストにはステンレスボトルを配布し、自由に給水できるウォーターステーションが船内に設置されている。船舶からの排水は100%クリーン処理され、廃棄物は100%分別するといったように、非常に丁寧に環境保全対策が取られている。

 特筆すべき点は、「ル コマンダン シャルコー」のクルーズは、環境問題の研究にも貢献しているということだ。各クルーズに生物学者や地理学者、海洋学者など、環境問題を研究する大学や研究機関の科学者が数名同乗し、ゲストが旅を楽しんでいる間に、サンプルを採取したり調査を行ったりする。船内には、最新のデジタル顕微鏡や遠心分離機、海水調査のための測定器などを備えた本格的なラボが設置されており、簡単には訪問することができない極地の現状把握と環境問題解決に向けた研究をサポートしている。ゲストが極地を訪れることで、極地研究の機会を提供することができるというこのシステムは、観光と環境保全という相容れないと思われてきた両者のどちらも成立させることができるアプローチとして注目を集めている。この取り組みこそ、クルーズを通じて持続可能な観光を創造するというポナン社の企業哲学を表しているといえるだろう。

画像: 船内にはウェットラボとドライラボの2つのラボが設けられている。開放時間であればゲストもラボを訪れることが可能

船内にはウェットラボとドライラボの2つのラボが設けられている。開放時間であればゲストもラボを訪れることが可能

画像: クルーズ中は、サンプル採取のため、停泊することも

クルーズ中は、サンプル採取のため、停泊することも

知的好奇心を刺激するアクティビティ

「ル コマンダン シャルコー」による北極クルーズは、白夜などで日が長い5月から8月にかけて行われ、シロクマなどの野生動物が多く暮らすスヴァールバル諸島を巡り、北極点を目指すものや、アイスランドのレイキャビクを出発しアラスカへ向かうものなどがある。南極クルーズは、11月から3月にかけて行われ、アルゼンチンを出発し、皇帝ペンギンのコロニーがあるベリングスハウゼン海を目指すものや、ニュージランド・オークランド近郊のダニーデンを出発し、南極大陸を半周しアルゼンチンのウシュアイアに向かうものなどがラインナップする。

画像: ゾディアックボートに乗り込んで、氷河見学や島に上陸する

ゾディアックボートに乗り込んで、氷河見学や島に上陸する

 去る2月14日、「ル コマンダン シャルコー」はポナン社初となる、南極大陸半周クルーズを達成した。分厚い氷に閉ざされた南極大陸周辺は、砕氷船でなければたどり着くことができない地域。スタニスラス・デヴォルシン船長は、「私の長年の経験の中でも、今回のクルーズは最も美しい航海の一つとなりました。数人の科学者を除いて、誰も足を踏み入れたことのない未開の地へと到着したことは、夢のような瞬間で、毎日驚くような体験を南極の美しい自然、動物たちがもたらしてくれました。」と語った。今回のクルーズ にもラヴァル大学(カナダ・ケベック州)とオレゴン州立大学(アメリカ)の二つの研究チームが、南氷洋におけるカーボンポンプのメカニズムを研究するために乗船し、有益な研究データの獲得に貢献した。

画像: 南極クルーズのハイライトの一つである、ペンギンのコロニー見学

南極クルーズのハイライトの一つである、ペンギンのコロニー見学

 クルーズ中は様々なアクティビティがゲストを愉しませてくれる。ゾディアックボートと呼ばれるゴム製のボートに乗り込み、氷山や氷河を観察したり、分厚い氷の上をスノーシューでトレッキングすることができる。カヤックで流氷の間を通り抜けたり、アザラシやセイウチ、クジラなどの海洋生物と出会うこともあるという。これらのアクティビティは、野生動物、地質学、考古学などの専門家で構成されたナチュラリストガイドによってプログラムが組まれており、アクティビティ中の環境保全や安全性を管理するとともに、様々な知見も提供する。加えて、一日の終わりにはその日にあった出来事に関してのレクチャーが開かれ、動物たちの生態や、氷河の移動、北極や南極の歴史など、より詳細な説明を受けることもでき、多くの学びや気付きを与えてくれるのだ。

画像: 一日の終わりにはシアターでその日の出来事のリキャプが行われる

一日の終わりにはシアターでその日の出来事のリキャプが行われる

氷の海に浮かぶ5つ星ホテル

「ル コマンダン シャルコー」の魅力は最新技術を搭載し環境に出来得る限り配慮したクルーズ船というだけではなく、自分が極地にいることを忘れてしまうほど、優雅で快適な滞在を提供してくれる。特に食へのこだわりは強く、さすがはフランスのクルーズ船、レストランはアラン・デュカス監修だ。メニューは毎日変わり、本格的なフレンチと100種類以上のワインがラインナップし、フレッシュな野菜やフォアグラやキャビアなどが供されることも。他にもカジュアルなブッフェ形式のレストランとバーラウンジ、インルームダイニングもあり、1週間以上になる氷上生活でも飽きることはない。オールインクルーシブスタイルなので、特別なワインなどを除いて、ドリンクや食事、アクティビティなどは旅行代金に含まれることも旅をストレスフリーにしてくれる。

画像: アラン・デュカス監修のレストラン「ヌナ」

アラン・デュカス監修のレストラン「ヌナ」

 船内はアイボリーを基調としたシンプルで温もりあるインテリア。客室数は123室と、クルーズ船の中ではかなり小さいキャパシティゆえ、スモールラグジュアリーホテルのようなアットホームな雰囲気だ。とはいえ、2つのレストランや、シガーラウンジ、ジムとスパ、サウナに屋内プールと屋外プールを完備し不自由さは一切ない。すべての客室にバルコニーを完備し、バトラー付きの部屋もラインナップする。客室内にはギフトのダウンジャケットや、ステンレスボトル、防水バックパックや、ライフジャケットが配され、付かず離れずの温もりあるホスピタリティでゲストを迎える。キャプテンも気軽に話しかけてくれ、ブリッジを訪ねキャプテンや航海士が船を操舵している様子を見学することもできるのは「ポナン」ならではのホスピタリティだ。

画像: 落ち着いた内装でゆったりとくつろぐことができる客室

落ち着いた内装でゆったりとくつろぐことができる客室

画像: 屋外の温水プールから眺める海氷は贅沢の極み

屋外の温水プールから眺める海氷は贅沢の極み

意識を変える一生に一度の体験を

 筆者は幸運にも北極クルーズに参加することができたが、参加する前はワクワクすると同時にどこか罪悪感のようなものを感じていた。野生動物が暮らす世界に足を踏み入れるべきではないのではないかという考えがあったが、上述した小さなことから大きなことまで、ポナンによる多くのサステナブルな取り組みを知ることで罪悪感は薄らいだ。船は動物たちが気づかないほど静かで、距離を取っているので、我々のことなど気にせず、のびのびと暮らすシロクマやアザラシを目の当たりにすることができ、彼らの生活する土地を守らなくてはならないという意識は極地を訪問することでより強くなった。テレビやインターネットで見たことのある景色であるのに、肉眼で見る極地は、それらとはまったくの別物。自分が暮らす場所も北極も同じ地球に存在することに改めて気づいたことで、環境問題を自分ごととして捉えることができるようになったことは、この旅に参加した意義があったといえるだろう。

「ル コマンダン シャルコー」は今夏も北極海を巡り、7月には北極点を目指す。2024年1月には再び、南極大陸を半周するクルーズも予定されている。「ル コマンダン シャルコー」での極地への旅は現代人にとっての冒険の最適解かもしれない。

画像: シロクマとの出会いは北極クルーズのハイライトのひとつ PHOTOGRAPHS: COURTESY OF PONANT

シロクマとの出会いは北極クルーズのハイライトのひとつ

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF PONANT

「ル コマンダン シャルコー/北緯90度の北極点を目指して」
日程:2023年7月10日〜27日(17泊)
料金:36,965ユーロ〜(パリ↔ロングイェールビーン間のフライト込)

「ル コマンダン シャルコー/南極大陸半周クルーズ 」
日程:2024 年1月7日〜2月5日(28 泊)
料金:44,240 ユーロ〜

公式サイトはこちら

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