ユニバーサル・ミュージック・グループ傘下のブラバド社は、

アーティストのブランデッド商品の企画・製造・流通を行う

マーチャンダイジング・カンパニー。

写真は、ショールームに展示されたザ・ウィークエンドのグッズ


 5月上旬のある金曜日の朝、ザ・ウィークエンドの限定アイテムを獲得するため、アメリカとカナダにある8つの高級ブティックに長蛇の列を作っていた熱烈なファンが、一気に店内へなだれ込んだ。彼らは先を争って、最新アルバム『スターボーイ』の発売を記念したボンバージャケットや帽子、シャツやスウェットパンツに飛びついた。その2週間後、アーバン・アウトフィッターズ(ボヘミアン・テイストなアパレルや雑貨を取り扱うアメリカのセレクトショップ)は、200軒以上の店舗でレディー・ガガの顔と最新アルバム『Joanne』のタイトルロゴをプリントしたグッズを販売。一斉に販売がスタートした午後5時、ファンの歓喜はピークを迎えた。



 今、コンサートグッズのマーケットは、かつてない熱気に包まれている。ある種のカルチャーイベントのために限定生産されるスペシャルコレクションは、ファッション業界において最も新しく、かつ急成長している分野のひとつだ。世界中の90,000以上のブランドやファッション小売業者のデータ分析を行うロンドンのエディテッド社によると、2014年の上半期から2017年の上半期までに、コンサートツアー関連商品のオンライン販売は720%増加したという。



 その原動力となっているのが、ユニバーサル・ミュージック・グループ傘下のマーチャンダイジング・カンパニー、ブラバド社だ。同社は、ジャスティン・ビーバー、デザイナー、セレーナ・ゴメス、レディー・ガガ、ザ・ウィークエンドなどのエンターテイナーとともに“ブランデッド商品”と呼ばれるアーティスト公認グッズやライセンス商品の企画・製造・流通を行っている。CEOを務めるマット・ヴラシックは、エネルギッシュなニューヨーカーで(有名人を多く輩出するリバーデイル・カントリー・スクールの卒業生でもある)、黒づくめのファッションがお決まりのスタイル。ストレス解消の方法は瞑想だという。



ブラバド社 CEO マット・ヴラシック



 ブラバド社と並んで勢力があるのが、ソニー・ミュージックエンタテインメントのマーチャンダイジング事業を担当するスレッド・ショップ社だ。ナズ、コモン、ア・トライブ・コールド・クエスト、エイサップ・ロッキー、DJキャレド、フィフス・ハーモニーなどと組んで公認グッズを展開。副社長のフランセス・ウォンもニューヨーカーで(ただし、彼女はニュージャージー州育ちだが)、スレッド・ショップの商品を好んで買ってくれる流行に敏感な若い顧客を「キッズ」と親しみを込めて呼ぶ。彼女は、ジェイ・Zとデイモン・ダッシュが1999年に立ち上げたストリートブランド、ロカウエア社に勤めていた経歴をもつ



 まるで企業をまたいだ椅子取りゲームのようだが、ユニバーサル傘下ブラバド社のヴラシックは、以前、12年間ソニーに勤務。入社時はファイナンス担当だったが、在社中に彼が立ち上げたのがスレッド・ショップ社だ。一方、スレッド・ショップ社のウォンは、2015年までブラバド社に勤めていた。現在、2人はそれぞれが作り出してきた、利益の大きい“分野横断的なファッション領域”を巡って、ある種の軍拡競争を繰り広げている。



 1997年にバリーとキース・ドリンクウォーターによって設立され、約10年後にユニバーサル・ミュージック・グループに売却されたブラバド社は、世界40カ国で事業を展開し、ZARA、H&M、ユニクロ、セルフリッジズ(イギリスの高級百貨店のチェーン)、バーニーズ ニューヨークなどの小売業者とも提携。昨年、ブラバド社が重要な役割を担うユニバーサルのマーチャンダイジング事業は、前年比113%の3億1300万ユーロの収益を上げた。ブラバド社は存命中のアーティスト数十人分の商標権を管理する一方で、プリンス、ビートルズやトゥパック・シャクールなど、かつて活躍した大物の遺産管理財団とも提携している。



 一方のスレッド・ショップ社は、もっと若い会社だ。2009年、ツアーで各地を巡るアーティストを支えるため、Tシャツを販売するというシンプルなビジネスモデルで設立。その後、高価な限定アイテムやカプセルコレクションを提供するまでに成長した。現在は前述のアーバン・アウトフィッターズのほか、サーフィンやスケボー、スノボー用のアパレルやアクセサリーを販売しているパクサン、アメリカの百貨店コールズなど、ブラバド社と同様、小売業者と提携して世界中で事業を展開している。