映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』のキービジュアル

© “OKUJIRA-SAMA” PROJECT TEAM

 現代アートのコレクションに没頭するNYの老夫婦の人生を描いたドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー』シリーズで知られる映画監督・佐々木芽生。彼女の最新作『おクジラさま ふたつの正義の物語』が9月9日(土)に公開になる。前作の、個人的でハートフルな内容と打って変わって、テーマは国際的、政治的問題でもある「捕鯨」だ。


 これまでにも捕鯨問題を扱ったドキュメンタリー映画はあった。あえて例を挙げれば、日本のクジラ漁を糾弾したアカデミー賞受賞作『ザ・コーヴ』。佐々木監督はこの映画を「ドキュメンタリーにもストーリーテリングは重要。その意味で良くできた映画」と話すが、NYの映画館で初めて観たとき、心の奥が深くえぐられるような感覚を覚えたという。自身も非難の対象になった日本人だからではない。ドキュメンタリー作家としての苛立ちや不快感だ。



佐々木 芽生(映画監督・プロデューサー)

2008年『ハーブ & ドロシー 』で監督デビュー。

長編3作めとなる『おクジラさま ふたつの正義の物語』は

2015年TOKYO DOCSにて最優秀企画賞受賞、

2016年釜山国際映画祭にも正式招待された

PHOTOGRAPH BY KOHEY KANNO



「ハリウッドのヒーロー映画のように、”クジラを獲る者は悪、保護を訴える者は正義”という構図がそこにあった。ストーリーテリングの巧みさとは裏腹に、過剰な偏見、作り手の独善的な視点のあり方が、すごくショッキングだったんです」


 そして、2010年、佐々木監督は『ザ・コーヴ』の舞台になった漁村、和歌山県・太地町に自ら足を運ぶ。撮影チームを引き連れて入ったのは9月。クジラの追い込み漁が始まっており、シーシェパードなど反捕鯨運動団体の姿もそこにあった。町民とシーシェパードの衝突もあり、警察も出動。紀伊半島の南の小さな町は、緊張ムードに包まれていた。



劇中で描かれる太地町の海。野菜や穀物が育ちにくい太地で、

海に現れるクジラは貴重な食料となった

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太地町の漁師たち。約400年前から捕鯨が伝統的に行われてきた。

祖先が集団漁においてどういう役割を担ったか、名字にはその名残がある

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 異様な現場は、佐々木監督に”ドキュメンタリーのバランスが取れた視点とは何か”を改めて考えさせた。「ドキュメンタリー映画には必ず作者の視点があって、それがシンプルであればあるほど、主題を観客に伝えやすいんです。ただ、今回、私自身、どの取材対象にも100%寄り添わないほうがいいと思った」。佐々木監督は、漁師と反捕鯨団体、両方の言い分に正しさと誤りを感じた。「あえて漁師の方がいる前でも反捕鯨団体にカメラを向け、取材をしました。だから漁師のみなさんも私には寄り添えなかったはず。でもこの距離感こそが、私と彼らのフェアなバランスであり、私がこの物語を描くための大切な視点になると思ったのです」。