韓国、坡州(パジュ)にある混み合った麺料理店で、パク・チャヌクは2台のカメラとデジタル音楽プレーヤーをカバンから取り出してテーブルにのせた。「これは私の腕の延長なんだ」と彼は言う。


 この秋、54歳になるパクは、おそらく韓国で最も有名な映画監督だ。2002年から2005年にかけて製作した復讐三部作――『復讐者に憐れみを』(’02年)、『オールド・ボーイ』(’03年)、『親切なクムジャさん』(’05年)によって、国内外でその名を知られている。この3作品は、韓国映画が世界の舞台へと進出するのにひと役買い、同時に、人々の心に潜む暴力性をつぶさに暴き出す、怖いもの知らずの監督としてパクの名を知れ渡らせた。クエンティン・タランティーノは彼をお気に入りの監督として挙げ、スパイク・リーはパクの名を国際的に知らしめたヒット作『オールド・ボーイ』に心酔するあまり、2013年にそのリメイク作品を製作している。



パク・チャヌク。ソウル郊外の江華聖堂で撮影



パクは今、セックスを描くことにその焦点を移している。2016年に公開された彼の最新作『アガシ』、邦題『お嬢さん』は、2002年に出版されたサラ・ウォーターズの小説『荊(いばら)の城』を映画化したもので、エロティック映画の傑作として世界中で熱狂的に受け入れられた。この映画の韓国国内での人気はすさまじく、ファンたちの間でコミュニティが生まれ、拡大していった。通常、これほどの熱狂ぶりは10代のK-POPアイドルに群がるファンたちの専売特許のように思えるが、それに負けない勢いだ。ファンが創作した物語をアップする専用のネット掲示板、ファンが描いたイラスト、バッジ、ステッカー、ハンカチや文房具、便箋、さらには映画の中に出てきた会話をヒップポップのリズムに乗せたラップの歌まである。「ファンからの愛情をこんなふうに感じたことは今までになかった」とパクは言う。


 もしパクが自分を有名人だと感じているとしても、彼はそんなそぶりは見せない。実際に会ってみると、彼は自宅にいるにもかかわらず、まるで亡命中の王子のような雰囲気を漂わせている。控えめだが、王者の風格があり、その瞳にはかすかな笑みをたたえている。1992年以来、彼が監督した劇場公開作は10作品だ。撮影のないときには静かな生活を送り、時折りソウルの市内で会食や打ち合わせがあると、1時間ほどバスに乗って出かけていく。近所の野良猫たちのために、自宅のガレージに餌と水を入れたボウルを置くのを楽しみにし、写真を撮ることにはまっていて、カメラを持って歩き回り、撮影することが何より好きだ。彼は今でも、昔使っていたカメラをほとんどすべて手放さずに持っている。
「美しすぎて、処分なんてできない」と彼は言う。ソウルにある韓国イエズス会の権威ある学舎、西江大の学生だった頃から、彼は写真を撮り続けてきた。テーブルの上に置いたカメラが彼の身体の一部のようなものだとしても、それを使って映画を撮ったりしないことは明らかだ。彼のカメラは、パクの感性を培い、守るためのものなのだ。