世界最大級の報道写真展である「世界報道写真展」。その東京展が開催されている。同時代のジャーナリストたちが捉えた世界の現実を目の当たりにする、貴重な機会だ

BY MASANOBU MATSUMOTO

 オランダの世界報道写真財団が主催する、報道およびドキュメンタリー写真分野のコンペティション「世界報道写真コンテスト」。その入賞作品を展示する写真展「世界報道写真展」が東京都写真美術館で始まった。

 コンテストの対象となるのは、前年に撮影された写真作品だ。61回めを数える2018年度は、125の国と地域からおよそ4500人のフォトグラファーが応募。約7万3000点もの作品から「現代社会の問題」「環境」「一般ニュース」「長期取材」「自然」「人々」「スポーツ」「スポットニュース」の8部門ごとに1〜3位までが選出され、最優秀賞である「世界報道写真大賞 2018」を、ロナルド・シュミットによる“火だるまになった男”の写真が獲得した。

画像: 【スポットニュースの部 単写真】 ロナルド・シュミット(ベネズエラ、AFP通信)2017年5月3日(カラカス・ベネズエラ) ベネズエラのカラカスで、ニコラス・マドゥロ大統領への抗議行動中に機動隊との 激しい衝突が起こり、火だるまになるデモ参加者のホセ・ヴィクター・サラザール・バルザ(28歳) PHOTOGRAPH BY RONALDO SCHEMIDT, AGENCE FRANCE

【スポットニュースの部 単写真】
ロナルド・シュミット(ベネズエラ、AFP通信)2017年5月3日(カラカス・ベネズエラ)
ベネズエラのカラカスで、ニコラス・マドゥロ大統領への抗議行動中に機動隊との 激しい衝突が起こり、火だるまになるデモ参加者のホセ・ヴィクター・サラザール・バルザ(28歳)
PHOTOGRAPH BY RONALDO SCHEMIDT, AGENCE FRANCE

 大賞作品が伝えるのは、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が民主主義制度の一部変更を決定したことを発端とした、抗議デモでの惨事だ。デモ隊と国家警察隊が衝突し、放火や投石が行われるなか、オートバイのガソリンタンクが爆発。ひとりの若者に引火した。オープニングに合わせて来日した、世界報道写真財団の展示部長ラウレンス・コルトウェーグは、この一枚についてこう説明を加える。

「わかりやすく、かつ強烈なインパクトのあるビジュアルです。ただ、ディテールにも目を向けてください。レンガ壁にピストルの絵があり、その銃口の先にはPAZという文字が書かれています。これはスペイン語で“PEACE(平和)”の意味。“平和”に向かって走る若者がいて、その後ろから炎が迫る。平和への道のりがいかに困難かを暗示しているように読めるのも、このビジュアルがユニークなポイントでしょう」

 こうしたデモやテロを記録した作品が多いのも、今年度の特徴だという。ただ、事実をありのままに写すだけでなく、アダム・ファーガソンのように独自の手法をとった作品もみられた。彼が取材したのは、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」に誘拐された少女たち。体に爆弾物を縛り付けられ、街中で自爆テロを実行するよう強要されたが、運良く逃げ出すことができた。アダムは、彼女らをそれぞれ同じような薄暗い室内で、同じようなポーズで撮影。ドキュメンタリーというよりは、ポートレイトのスタイルだ。そのコンセプチュアルなビジュアルは、悲惨な現場の記録写真にもまさって、見る者により深い問題意識を促す。

画像: 【人々の部 組写真】 アダム・ファーガソン(オーストラリア、ニューヨーク・タイムズに提供)2017年9月21日(ナイジェリア) ナイジェリアで「ボコ・ハラム」の戦闘員に誘拐された少女の肖像。爆発物を身体に縛りつけられ、自爆するように命じられたが逃げ出し、助けを得ることができた PHOTOGRAPH BY ADAM FERGUSON

【人々の部 組写真】
アダム・ファーガソン(オーストラリア、ニューヨーク・タイムズに提供)2017年9月21日(ナイジェリア)
ナイジェリアで「ボコ・ハラム」の戦闘員に誘拐された少女の肖像。爆発物を身体に縛りつけられ、自爆するように命じられたが逃げ出し、助けを得ることができた
PHOTOGRAPH BY ADAM FERGUSON

画像: 【長期取材の部】 ファウスト・ボダヴィーニ(イタリア)2011年7月24日~2017年11月24日(エチオピア) 多様な民族が居住する、エチオポアのオモ渓谷地方。自然環境が極めて脆弱なこの地にベギ第3ダムを建設した結果、環境的にも社会経済的にも深刻な影響が及んでいる PHOTOGRAPH BY FAUSTO PODAVINI

【長期取材の部】
ファウスト・ボダヴィーニ(イタリア)2011年7月24日~2017年11月24日(エチオピア)
多様な民族が居住する、エチオポアのオモ渓谷地方。自然環境が極めて脆弱なこの地にベギ第3ダムを建設した結果、環境的にも社会経済的にも深刻な影響が及んでいる
PHOTOGRAPH BY FAUSTO PODAVINI

画像: 【自然の部 単写真】 トマス・P・ペシャク(ドイツ)2017年4月18日(南ア領南極地域マリオン島) インド洋に浮かぶ南ア領南極地域のマリオン島で、その名のとおり、岩に覆われた海岸線を飛び越えるイワトビペンギン PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK

【自然の部 単写真】
トマス・P・ペシャク(ドイツ)2017年4月18日(南ア領南極地域マリオン島)
インド洋に浮かぶ南ア領南極地域のマリオン島で、その名のとおり、岩に覆われた海岸線を飛び越えるイワトビペンギン
PHOTOGRAPH BY THOMAS P. PESCHAK

「多くの人が複数台のカメラを持ち、誰もがSNSなどで写真を発表できる時代です。それでもやはり、いま世界で起こっていることを深く知るために、同時代のプロのジャーナリストによる物語性豊かなビジュアル作品が有効であることに変わりはありません」とラウレンス。

 近年の「世界報道写真展」では、ジャーナリストが長い期間をかけて丹念にリサーチし、企画、撮影した作品が充実している。ダイナミックにジャンプするイワトビペンギンを撮影し、今年「自然」部門に入賞したトマス・P・ペシャクは、同じくペンギンを被写体に彼らの生息環境の危機を捉えた作品も発表し、「環境」部門でも賞を獲得した。ジャンルを超えて、現実の多角的な側面を伝える。同時代のジャーナリストたちの新しい現実の捉え方、視点の多様性を学ぶことできるのも、本展の醍醐味である。

「世界報道写真展 2018」
会期:〜8月5日(日)
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10:00~18:00(木・金は〜20:00、7月19、20、26、27日、8月2日、3日は〜21:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜(月曜が祝日の場合は開館、翌平日は休館)、ただし7月16日(月・祝)は開館、17日(火)は休館
料金:一般 ¥800、大学生 ¥600、中学・高校生 ¥400
TEL. 03(3280)0099
※東京展ののち、大阪、大分、京都、滋賀を巡回
公式サイト

 

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