アーティストに一定期間、制作の拠点を提供し、作品づくりをサポートする「アーティスト・イン・レジデンス」制度。京都「ヴィラ九条山」は、長年、フランスの芸術家を対象にこのプログラムを実施してきた。彼らは京都で何を発見し、創作しているのかーー3組のクリエイターを取材した

BY KANAE HASEGAWA

 別のレジデントである、リュズ・モレノとアナイス・シルベストロは、食材を素材にした表現活動をするクリエイターだ。スペインとフランス出身の2人は、日本でオリーブオイルが作られていることを人づてに知り、興味をもった。

「世界有数のオリーブオイル生産国であるスペインとフランス出身の私たちから見ると、なぜ日本の小豆島でオリーブオイルを作っているのか不思議でなりませんでした。日本でオリーブオイルが生まれた背景を知りたくて、ヴィラ九条山での滞在リサーチに応募しました」。

2人は小豆島のオリーブ農家を訪ね、その歴史を学んだ。発見したのは、ヨーロッパのオリーブオイルづくりとずいぶん異なるオリーブオイル文化があるということ。「ヨーロッパにおいてオリーブオイルは工業的に生産されています。一方でオリーブの実を一粒一粒、手摘みで収穫する日本のオリーブオイルは、嗜好品に近い」とモレノは分析する。

画像: 作家のリュズ・モレノとアナイス・シルベストロ。小豆島のオリーブ農家の人たちとともに

作家のリュズ・モレノとアナイス・シルベストロ。小豆島のオリーブ農家の人たちとともに

 小豆島でのリサーチの後、京都で何度か茶事に参加する中で、2人は茶道とオリーブオイルづくりに関連性を感じたという。モレノは次のように説明する。「オリーブの実を手で大切に摘む農家の人の一連の作業を観察していると、振り付けのようで、そこには茶道の所作に通じる作法のようなものが存在する気がしました。一杯のお茶を味わってもらうためにすべての環境をしつらえる茶道のように、生産者が手塩にかけたオリーブオイルを味わってもらうための場を作ってみようと思いました」

 そして、彼女たちは、茶道ならぬ“オリーブ道”を考案し、パフォーマンス形式でプレゼンテーションを行なった。客人を迎える座卓はオリーブの木片で作り、オイルを振る舞うための器には釉薬にオリーブの木の灰を施した。そしてオリーブオイルで作った蝋燭と香で空間を満たす。樹皮の繊維と灰からは、ノートブックや紙を制作した。「茶事から着想を得ていますが、五感を使ってオリーブオイルを楽しむための私たちなりの作法を生み出したつもりです」

画像: モレノらによるプレゼンテーションの様子。オリーブの木や葉、オイルを使った調度品で、客人をもてなす

モレノらによるプレゼンテーションの様子。オリーブの木や葉、オイルを使った調度品で、客人をもてなす

 プログラムの参加者たちは、ヴィラ九条山での滞在中に成果を出すことを求められてはいない。日本を離れ、自国に戻ってアイデアが実を結ぶこともある。2018年にヴィラ九条山に滞在したフィンランド系フランス人デザイナーのヨハン・ブルネルは、滋賀県の木桶職人の中川周士との出会いを通して、日本でも薄れつつある桶の文化を知る。そして露天風呂という風呂の入り方に魅了された。「温泉文化は海外でも知られていますが、雄大な景色を取り込んで、屋外で借景を楽しむ露天風呂の発想はすばらしい」とブルネルは絶賛する。

画像: 木桶職人、中川 周士が率いる「中川木工芸」の温泉セット

木桶職人、中川 周士が率いる「中川木工芸」の温泉セット

画像: ヨハン・ブルネルによる露天風呂「VYU」。湯桶などは「中川木工芸」が制作を担当するという PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE ARTIST

ヨハン・ブルネルによる露天風呂「VYU」。湯桶などは「中川木工芸」が制作を担当するという
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE ARTIST

 この露天風呂文化を海外の都会にも広めたいという一心から、フランスに戻った今、ブルネルは建築家ニコラ・オメとともに、ビルの屋上にも設置できる木桶を大きくしたような露天風呂「VYU」の設計を進めているところだ。
「VYUは、眺めを意味する英語VIEWと湯のローマ字表記YUを掛け合わせた造語です。体を木桶のお湯で清めてから湯船に入るという美しい日本の作法はそのまま取り入れますが、お風呂の置かれる場所はパリの美術館や百貨店の屋上。大勢で木桶の風呂に入ってパリの空を眺めるという、パリでしかできない日本文化の体験を創出したい」と夢を膨らませている。

問い合わせ先
ヴィラ九条山
公式サイト

 

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