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<Women In Motion Series>
挑戦する、女性写真家たち
Vol.3 片山真理

Women In Motion Series ― MARI KATAYAMA
芸術分野で活躍する女性たちに光を当てるべく、グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングが創設したプラットフォーム『Women In Motion』。本インタビューシリーズでは、新たな境地に挑み続ける日本の女性写真家にスポットを当てる。第三回は、片山真理をフィーチャー

BY AKIKO TOMITA, EDITED BY JUN ISHIDA

 昨年の木村伊兵衛写真賞受賞をはじめ、めざましい活躍をみせる片山真理。セルフポートレート写真家として認識されることの多い片山だが、たどってきた独自の道のりが作品の魅力にもつながっているようだ。

 片山が「群馬青年ビエンナーレ」で奨励賞を受賞したのは、高校時代。就職試験の練習のつもりで提出した小論文が審査を通過し、義足を題材にした作品を出品した。9歳のときに両足を切断し、以後生活をともにしてきたこの"道具"に、自身の考察を加えて制作したものの、まだ表現者としての自覚はなかった。しかし、「審査委員の方に、君は今日からアーティストだよ、と言われて、はじめてアートを意識」したという。

 最大のターニングポイントとなったのは、東京藝術大学の大学院時代に始めた《ハイヒールプロジェクト》だ。写真を本格的に始めることになったこの活動は、とある男性の無思慮な発言がきっかけだった。
「学費を稼ぐために夜の店で接客や歌う仕事をしていたとき、お客さんに『ハイヒールを履かないなんて女じゃない』と怒られてしまったんです。あまりの悔しさに、絶対履けるようになってやる! と、仕事帰りにそのまま装具士さんのところに行きました。しかし、義足、そして靴作りをしているうちに、『ハイヒールは履いても履かなくてもいい。でも、“選択の自由”は誰もが持つべき』だと思うようになりました」

 この経験から、「同じような境遇の人々の希望になるかもしれない」という考えに至った片山は、アートプロジェクトとして活動を継続。歌のパフォーマンスや、子どもの頃から親しんできた手芸によるオブジェの制作、そして自身を被写体のひとつにした写真作品を展開し、評価を確立していった。

画像: 《ハイヒールプロジェクト》シリーズより《子供の足の私》(2011)。義足や裁縫によるオブジェを見せるためのマネキンとして自身も登場 © MARI KATAYAMA, COURTESY OF AKIO NAGASAWA GALLERY

《ハイヒールプロジェクト》シリーズより《子供の足の私》(2011)。義足や裁縫によるオブジェを見せるためのマネキンとして自身も登場

© MARI KATAYAMA, COURTESY OF AKIO NAGASAWA GALLERY

 開催中の『リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真』の展示には、片山のさらなる創作欲求が発露しているように思えるが、ここ数年で経験した出産や育児からの影響が大きいのだろうか?

「“できないことはやらない。できることをコツコツやっていけば、いつかできないこともできるようになる”というモットーで生きてきましたが、育児はそうもいかなくて、ノイローゼになりかけた時期がありました。そんなとき、妊娠前に撮影していた足尾銅山に登って写真を撮ってみたら、これがとても楽しくて。以前の制作では、自分自身を、オブジェを引き立て、説明的に見せるためのマネキンとみなしていましたが、山を見るのと同じ目線で撮ってみたら、ストレートに身体と向き合うことができたんです。『あぁ、この身体は限りがあるんだ』と、やっとわかりました」。このときの変化について、片山は続けて語る。「一人で抱え込まず誰かに助けを求めること、ともに生きていくことを育児から学んで。その気づきが、他者との制作や新しい方法にチャレンジする勇気につながったのだと思います」

画像: リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真』(〜10/31(日) 東京都写真美術館)より、《in the water #008》(2020)。展示では写真をプリントした布を柱のように設置した © MARI KATAYAMA, COURTESY OF AKIO NAGASAWA GALLERY

リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真』(〜10/31(日) 東京都写真美術館)より、《in the water #008》(2020)。展示では写真をプリントした布を柱のように設置した
© MARI KATAYAMA, COURTESY OF AKIO NAGASAWA GALLERY

 出品作《in the water》シリーズで被写体にしているのは、自身の脚。初めにイメージしたのは、西洋建築のカリアティード(女人像柱)だったという。「義足がないと立てない自分は、常にフワフワとした状態なのだと自覚したときがありました。であれば、地に足をつけて立つことに作品でアプローチしようと考え、自分の身体を柱に見立てて写真を撮ることにしたんです。でもその結果、思惑とは真逆の浮遊するような写真になってしまいました」

 しかし、このイメージは片山のさまざまな水の記憶と重なり、「水の中」と題を付したシリーズへと昇華する。そして、今回の展示では、「カリアティードの彫刻的な要素にもう一度立ち返りたい」と、写真プリントした布を柱のように設置することにしたという。

 自身と向き合い葛藤しながら、社会とつながっていくこと。そんな片山の表現者としての歩みに、我が身を重ね、励まされる者は、きっと私だけではないはずだ。写真を撮ること、新しい技法に挑戦することも、気構えることなく楽しめるようになったという片山の、今後が楽しみでならない。

片山真理(MARI KATAYAMA)
1987年埼玉県生まれ。先天性脛骨欠損症のため9歳のときに両足を切断したことで制限のある身体となった自らの体験に基づき、作品を制作。手縫いのオブジェや自分の義足とともに撮ったポートレート作品などで高い評価を得る。初の写真集『GIFT』で2020年に第45回木村伊兵衛写真賞を受賞

リバーシブルな未来 日本・オーストラリアの現代写真
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1−13−3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話:03(3280)0099
会期:〜2021年10月31日(日)
休館日:毎週月曜日
料金:一般700円、学生560円、中高生・65歳以上350円
各種割引など詳細は公式サイト

ウーマン・イン・モーション(Women In Motion)
グローバル・ラグジュアリー・グループであるケリングにより、映画や写真、その他の芸術分野における女性の貢献に光を当てることを目的として2015年5月に発足。以来、活躍する女性たちの才能を称え、キャリアを支援するプラットフォームとして、人々の意識・行動変容を促す手助けをしている。この女性写真家のインタビュー・シリーズはその一環である。

問い合わせ先
ケリングジャパン
公式サイト

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