画家・絵本作家ヒグチユウコの展覧会が六本木、森アーツセンター ギャラリーで開催中だ。2019年の世田谷文学館から始まり、国内9箇所の美術館などでの“巡業”を経て六本木へ。『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』と銘打ち、最後の地に辿り着いた

BY MICHINO OGURA

画像: 《終幕》 2022年 ©Yuko Higuchi

《終幕》 2022年
©Yuko Higuchi

 少女や動物、空想上の生き物たちなど、モチーフは自由自在。ヒグチの頭の中にあるイメージは鉛筆やペンで細密に描かれ、支持体となる和紙に解き放たれていく。「いつも、どこででも絵を描けるように」と、ちいさいサイズの紙を持ち歩き、アトリエでも、出先でも時間を見つけては描いている。その絶え間ない制作が積み重なって、ついには約1500点という展示数となった。

画像: サーカスをイメージした空間に作品が集う。絵画作品のみならず、彫刻や人形などこの4年間に加わったものも多数展示

サーカスをイメージした空間に作品が集う。絵画作品のみならず、彫刻や人形などこの4年間に加わったものも多数展示

 エントランスから続く黒い回廊を抜けると、その先には今回の展示の核となる“サーカス”の部屋が出現。ヒグチとぬいぐるみ作家・今井昌代の共著によるビジュアルブック『カカオカー・レーシング』に登場する人形たちが中央の舞台で出迎える。本展のメインビジュアル《終幕》にはここで出合える。

「《終幕》を描き終えて、子供のときの感覚を思い出しました。学生時代や卒業してからすぐの頃など、もっと大きな絵を描いていた時よりも、いまの方がもっと具象でオーソドックスな作品なので、そう感じたのかもしれません。今回の《終幕》では、動画を撮影することもあり、いつもより大きな紙を選んでいます。一度に手を動かして作業できるスペースは少しですが、ミクロの感じで仕上げていくにつれ、まだまだ余白があるような気がして、楽しかったです。まるで自分の未完成な部分をみつけていくようでワクワクしましたね」

画像: 《終幕》を中心にCIRCUS展のために描かれた作品が展示されている。壁の色や額装へのこだわりもヒグチならではのスタイリッシュさを感じさせる

《終幕》を中心にCIRCUS展のために描かれた作品が展示されている。壁の色や額装へのこだわりもヒグチならではのスタイリッシュさを感じさせる

 他の巡回展にはなかった初の試みとして、《終幕》を描くヒグチの様子を追ったタイムラプス映像を大画面で見られる部屋がある。迷いのない筆致で、ぐんぐんと描き進める気持ちよさを追体験することができる。

「自分も楽しいと思えなかったら、見ている方々も楽しくないと思うんですよね。それは意識しています。でも、どう描くと人に喜ばれるかということを考え始めると邪念になるような気もして。そこのバランスは難しいところです。《終幕》は横長の画角で、下描きはほぼせずに、左から描きすすめていったので、観るのも面白いと思いますよ。カメラを設置して、撤去するまで8日間程度。実質の作業は3〜4日間ぐらいでしょうか。個人的には最後に水彩の黒をいれる作業を見て欲しいですね。ぎゅっと絵が締まる感じがするんです」。

画像: 愛知会場描きおろし作品 《CIRCUS GUSTAVE くんたち大集合》 2020年 ©Yuko Higuchi

愛知会場描きおろし作品 《CIRCUS GUSTAVE くんたち大集合》 2020年
©Yuko Higuchi

 もうひとつの新しい試みとして、ストップモーションアニメで作られた映像作品『gustave』も必見だ。コマ撮りアニメ『どーもくん』や『こまねこ』などで知られるドワーフとのクリエイションとなる。絵本『ギュスターヴくん』の世界から飛び出した、猫かタコか蛇なのか分からない生き物たちが、まるでそこにいるかのように、いきいきと動き回る。その人形製作はヒグチの朋友である今井昌代が手がけている。彼女はCIRCUS展の最初から関わる重要なチームのうちのひとりとヒグチは語る。

「CIRCUS展は呼んでいただいた美術館に行っては、その空間に合わせて展示プランを出して、自分たちで設営も見に行ってと進めていきました。そこに関しては私も積極的に関わっています。ちいさなギャラリーの規模を超えて大きな展覧会を作るにあたり、そのやり方しかできなかったんですね。でも、常に私の要望に耳を傾けてくださったスタッフや環境があったからこそ乗り越えられたのかなと思います。途中からは、このイレギュラーな進め方にみんなが慣れてくれて、ヒグチさんならこうするだろうと把握してくれた部分もあって助かりました。とにかく今井さんの指示は的確でしたね」

画像: ボリス雑貨店で開催中の展示の様子。ヒグチの自宅をイメージしたギャラリーではヒグチと今井の最新作を展示、販売。可愛くて、すこしダークな世界観でファンを魅了する

ボリス雑貨店で開催中の展示の様子。ヒグチの自宅をイメージしたギャラリーではヒグチと今井の最新作を展示、販売。可愛くて、すこしダークな世界観でファンを魅了する

 そんなふたりの作家としての相性の良さはヒグチのギャラリー&ショップ「ボリス雑貨店」(青山)でも堪能できる。六本木の展覧会と同時期に、ヒグチと今井の2人展が開催されているからだ。パーソナルな空間のなかで、より作品を間近に観ることができ、原画や作品を実際に購入できる貴重な機会となっているのであわせてチェックしたい。

画像: 特装版の作品集はBORIS柄とHEART柄の2種から選ぶことができる。箔押しをふんだんに使用した豪華な装丁、1.5キロというボリューム感で重厚な仕上がり。ヒグチの超絶技巧をじっくりと眺めたい 『HIGUCHI YUKO COLLECTION OF WORKS 2023+CIRCUS 2019-2023 TICKETS & POSTERS SPECIAL EDITION』各¥19,800

特装版の作品集はBORIS柄とHEART柄の2種から選ぶことができる。箔押しをふんだんに使用した豪華な装丁、1.5キロというボリューム感で重厚な仕上がり。ヒグチの超絶技巧をじっくりと眺めたい
『HIGUCHI YUKO COLLECTION OF WORKS 2023+CIRCUS 2019-2023 TICKETS & POSTERS SPECIAL EDITION』各¥19,800

 サーカスの団員さながら、ヒグチを支えるクリエイターは他にも。この最終展示に向けて、自身の出版社“ボリス文庫”から出した作品集『HIGUCHI YUKO COLLECTION OF WORKS 2023+CIRCUS 2019-2023 TICKETS & POSTERS SPECIAL EDITION』を発表した。ヒグチの最新作をまとめたもの、CIRCUS展を中心としたものの画集2冊とポスターやチケットデザインなどが網羅された限定本。デザインはこれまでもヒグチ作品に関わってきた装丁家・名久井直子が手掛けている。絵を描くことはもちろんのこと、印刷や紙、デザインにこだわりのあるヒグチの贅を極めた装丁はコレクターズアイテムになるだろう。

画像: アンティークのトルソーにヒグチが絵を描いている作品も。会期中に少しずつ手を加えていくというのも、楽しい仕掛けだ

アンティークのトルソーにヒグチが絵を描いている作品も。会期中に少しずつ手を加えていくというのも、楽しい仕掛けだ

 才能あふれるクリエイターたちが集まることについて聞いてみると、それは幸運だったからと振り返る。

「自分にあったのは継続する才能だけ。そして、絵を描くことしかできなかったからだと思っています。それが仕事になったことによって、他のことはやらなくてよくなったのは幸運なことでした。そして、人との巡り合いにも恵まれましたね。思い返せば、絵本を出しませんかと声をかけてくださったり、好きな映画ポスターの仕事を通して監督にお目にかかることができたり、独自のファッションの世界観に心酔したグッチとクリエイションできたこともそう。自分は描くことしかできませんが、縁はあったんだろうなと感じています」

『ヒグチユウコ展 CIRCUS FINAL END』
会期:〜4月10日(月)
会場:森アーツセンターギャラリー
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 52F
開場時間:10:00〜18:00
*金・土曜は20:00まで
*入館は閉館の30分前まで
入場料:一般/大学生・専門学校生2,000円、中高生1,600円、小学生600円
公式サイトはこちら

『テディベアのおしごと展 & HIGUCHI YUKO WORKS 2023』
会期:〜4月23日(日)
会場:ボリス雑貨店
住所:東京都渋谷区神宮前4-16-2
開場時間:11:00〜19:00(水曜日定休)
入場料:無料
公式サイトはこちら

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