TEXT & PHOTOGRAPHS BY HIROYA ISHIKAWA

これまでに世界99都市を巡回し、延べ900万人を動員。日本では名古屋と京都で開催し、延べ34万人が来場。アートの分野では異例とも言える開催都市数、動員人数を更新中の没入型展覧会が『ゴッホ・アライブ』だ。このたび記念すべき100都市目として東京での開催がスタートした。
この展覧会は、フィンセント・ファン・ゴッホの絵画を中心に、その世界観を五感で感じ、理解し、楽しむものだ。

最初にゴッホや作品について理解しておくことで、メインの展示を目一杯楽しめる
会場で最初に登場するのは、壁にずらりと並んだパネルの展示だ。パネルごとにゴッホの代表的な作品がひとつずつ紹介されていて、当時の状況や制作の背景を知ることができる。これによって作品に対する理解が深まると同時に、ゴッホがどんな人物だったのか、その人となりも見えてくる。

作品が生まれた時のゴッホの状況がわかると、おのずと作品についての理解も深まる
例えば、≪星月夜≫のパネルに記載の解説を抜粋すると「サン=レミの療養院に滞在中、ファン・ゴッホの発作は次第に強くなっていった。彼は他者に対しても自分に対しても極めて暴力的になり、絵具を飲み込んだりする自傷行為に及んだ」と書かれていて、精神が不安定な時期の作品であることがわかる。描かれているのは「療養院から見たサン=レミの町の光景」だ。そして「強い感情を込めた不安定な筆遣いと渦巻く空は、画家の混乱する心の内を表しているが、まだ絶望には至っていない」と記されている。
どの解説も平易でわかりやすく、理解しやすいからこそ、アート初心者でも理解しやすいからこそ、ゴッホにどんどん興味が湧いてくる。

作品が目の前に迫ってくるかのような、美術館とは一線を画す鑑賞体験だ
ゴッホや作品についてのイメージがつかめたところで、いよいよ展覧会のメインとなる展示スペースに足を踏み入れる。そこに広がっているのは天井の高い広々とした空間だ。

同じ時代に描かれたさまざまな作品が一度に映し出されることで、時代ごとの特徴が明確になる
四方の壁や柱、床がスクリーンとなり、ゴッホの作品が迫力たっぷりの特大サイズで映し出されていく。ランダムに、というわけではない。母国であるオランダにいた時代から始まって、パリ時代、南仏のアルル時代、南仏のサン=レミ時代と、ゴッホが暮らした場所を時系列で追いかけながら、その時代にそこで描かれた3000点以上の作品が極上のクラシック音楽とともに来場者を包み込むのだ。

この作品にはタバコの煙が昇っていく動画の演出が施されている
作品によっては鳥が飛んだり、雨が降ったりするなど動画を組み合わせた臨場感のある演出も加えられ、ゴッホが見ていた風景にぐいぐい引き込まれていく。所要時間はおよそ45分。

視線を左右に動かしながら、浴びるように作品を鑑賞していく
この空間を実現したのが、今回の展覧会を企画プロデュースするオーストラリアのグランデ・エクスペリエンセズが開発した、SENSORY4™と呼ばれる独自のシステムだ。これはマルチチャンネル・モーショングラフィックスと映画館品質のサラウンド音響、最高40台もの高精細なHDプロジェクターを融合させて、マルチスクリーン環境を提供するというもの。
さらに会場にはフランスの田園地方の暖かさをイメージさせるようなアロマの香りが漂い、ゴッホの世界観にどっぷりと没入できるアート体験が可能となっている。

ゴッホの名言の数々は今の時代にも通用するものばかりだ
映し出されるのは絵画だけではない。次々に飛び出すゴッホの言葉も印象深い。例えば、「人物であれ風景であれ、僕が表現したいのは、甘っちょろい感傷などではなく、真の哀しみだ」とか「愛とは永遠なるものだ 見かけは変わるかもしれないが、本質が変わることはない」など、その言葉の一つ一つが作品に深みをもたらすばかりか、鑑賞者の人生や日常にも新たな気づきを与えてくれるだろう。

リアルとバーチャルが融合したかのような展示がおもしろい
また、会場には代表作のひとつ≪アルルのフィンセントの寝室≫を絵画のまま再現したフォトスペースも登場。単に記念写真を撮影できるだけでなく、作品の中に入ることができ、モチーフとなった寝室を自分好みの角度から鑑賞できるのは、ここだけのマジカルな体験だ。
ほかにも会場にはゴッホやアートに夢中になる仕掛けが盛りだくさん。『ゴッホ・アライブ』は、最新テクノロジーによって実現した、今の時代だからこそ楽しめる時空を超えた知的エンターテインメントなのである。
『ゴッホ・アライブ』
場所:寺田倉庫G1ビル
会期:3月31日(日)まで
住所:東京都品川区東品川2-6-4
時間:10時~18時(最終入場17時)
休館日:無休
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