会期の前半は展覧会として作品を鑑賞し、後半はアートフェアとして作品が購入できるという新しいスタイルのアートイベントが、東京千代田区にある1927年築のスペイン風洋館「kudan house」で開催中だ

BY NAOKO ANDO

画像: PHOTOGRAPH BY TARO KARIBE

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 靖国神社にほど近い、東京千代田区九段にある「kudan house」は、大正から昭和にかけて財界人として活躍した5代山口萬吉の自邸として1927年に建築された、スパニッシュ風洋式の洋館。2018年に「登録有形文化財」として登録され、現在は会員制のビジネス拠点として運営されている。通常は一般非公開のこの場で、「CURATION⇆FAIR Tokyo」が開催中だ。

 会期の前半は展覧会として作品を鑑賞し、後半はアートフェアとして作品を購入することができるという試みで、開催場所も含め、来訪者に幾重にも新しい体験を提供している。

画像: 庭に面したポーチの展示風景。屋外にはガーデンカフェが PHOTOGRAPH BY TARO KARIBE

庭に面したポーチの展示風景。屋外にはガーデンカフェが

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 2月21日〜3月3日に行われているのは、展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」だ。古美術、近代・現代アートが展示されている。鑑賞者はエントランスで靴を脱いでスリッパに履き替え、マップを手に、地上3階、地下1階の「kudan house」を自由に観てまわることができる。

画像: 熊谷守一《はだか》 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

熊谷守一《はだか》 

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 現在の住宅環境とは異なるとはいえ、美術館やギャラリーのいわゆるホワイトキューブ(壁床天井をほぼ白に統一して装飾を排し、作品のみに集中できる空間)とは違う住空間で作品を鑑賞することが、まずもって新鮮だ。本展をキュレーションした遠藤水城は、「一つの部屋が絵画として成立するような、あるいは部屋のなかを動くことが彫刻になるような空間づくり」を目指したという。

 展示構成にアーティストの五月女哲平、動作ディレクションに振付師の神村恵+福留麻里が加わって練り上げられた展示空間では、鑑賞者もまた、作品の一部となるかのようだ。大広間やポーチ、マーブルの手すりが美しい曲線を描く階段、応接室、和室、小さな個室。すべての空間と作品、そして鑑賞者が響き合う。

画像: マーブルの手すりと曲線が美しい階段ホールには、川端実《カントリー》が PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

マーブルの手すりと曲線が美しい階段ホールには、川端実《カントリー》が

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画像: 合田佐和子《クラーク・ゲーブル》 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

合田佐和子《クラーク・ゲーブル》

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画像: 手前は青木野枝の《立山2020-14》、右奥は同《微塵2020-7》、左奥は野口里佳の《Men and Trees #1》(左)、《Men and Trees #2》(右) PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

手前は青木野枝の《立山2020-14》、右奥は同《微塵2020-7》、左奥は野口里佳の《Men and Trees #1》(左)、《Men and Trees #2》(右)

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 1階〜3階の地上階は、それぞれ部屋の趣きが異なるとはいえ、「住空間におけるアート」として楽しむことができる。ところが、地下への階段を下りると、それが一変する。

画像: 橋下聡によるインスタレーション PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

橋下聡によるインスタレーション

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 階段の踊り場には「昨日の死者数33 本日の来場者数33」というテキストがプリントされた紙が貼られ、何やら不穏な雰囲気に。おそるおそる地階へ到着すると、そこにはアーティスト橋下聡による言語とオブジェによって支配された地下空間が広がっている。

画像: 橋下聡「地球を太陽に近づけ人間を滅ぼす」 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

橋下聡「地球を太陽に近づけ人間を滅ぼす」

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画像: 橋下聡「だんだん聞こえなくなる」、「いつか思い出す」などの言葉が記された角材が置かれた古いボイラー室 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

橋下聡「だんだん聞こえなくなる」、「いつか思い出す」などの言葉が記された角材が置かれた古いボイラー室

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 無造作に置かれた角材や、打ち捨てられるように置かれたオブジェの陰に記された橋下の強い言葉が迫り来るインスタレーション「暗くなる」。

 そもそも一人で鑑賞していると少し怖くなるような地下空間で「顔が消えていく」、「いつかこの石が人類を打ち砕く」、「金曜日が絶滅する」などといった言葉に出会うと、足元がぐらつくような不安を覚える。それでもすべての作品を観ないと気が済まない。そんな吸引力をもつ作品群だ。古いボイラー室など、「kudan house」の最深部を見ることができるのも魅力的。

画像: 川端康成《有由有縁》(左)、室町時代の《信楽壺》 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

川端康成《有由有縁》(左)、室町時代の《信楽壺》

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 地上階に戻り、ガーデンカフェでコーヒーを片手につくづくアートの範囲の広さ、深さに思いを巡らせるのもいいだろう。途中休憩を挟みながら、作品とこの建物そのもの、そして両者が奏でるハーモニーに五感を委ね、自身も作品の一部となって展示空間に参加しつつ、ゆっくり過ごしたい。

画像: 門をくぐって最初に鑑賞者を出迎えるKazuhiro Aiharaの映像作品《その幻覚、水につき。》 PHOTOGRAPH BY NAOKO ANDO

門をくぐって最初に鑑賞者を出迎えるKazuhiro Aiharaの映像作品《その幻覚、水につき。》

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 3月9日(土)〜3月11日(月)の3日間は、この会場がアートフェアとなる。作品数が増え、出展ギャラリーの主宰者やスタッフが会場に集う。この期間は、鑑賞者は展示されている作品を購入することが可能になる(一部非売作品あり)。アート購入の初心者への入り口として最適であり、アート剛者にとっても新鮮な体験となるだろう。前半と後半、ともに足を運びたい。

『CURATION⇆FAIR Tokyo』
会期:展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」2月22日〜3月3日(日)
アートフェア「Art Kudan」3月9日(土)〜3月11日(月)
会場:kudan house
住所:東京都千代田区九段北1-15-9
公式サイトはこちら

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