BY KARI MOLVAR, PHOTOGRAPHS BY GABRIELA HERMAN, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO
植物が最盛期を迎える春から夏にかけて、アルカレーはボーンという町にあるベイエンドファームを度々訪れては最高の状態の植物を探し回る。そして、小さなカフェに立ち寄ってアイスコーヒーで喉を潤してから、この35エーカー(約43,000坪)もあるオーガニックファームの三代目オーナーであるコフィ・インガソルとおしゃべりを楽しむ。ベイエンドファームでは肌を活性化する効果のあるビートやキュウリ、ラベンダーを「The 10,000」コレクションに提供している。インガソルがアルカレーに是非見てもらいたいというキュウリ畑には、夏に雨が多かったおかげでキュウリがたわわに実っていた。アルカレーは太陽に顔を向け、鮮やかな濃い緑色のキュウリを味わった。「最高の出来だわ」。
アルカレーは採れたての収穫物を抱えて、ニューベッドフォードのダウンタウンにあるスタジオに向かう。そこは夏の間だけ借りている、かつての織物工場を利用したシェアスペースだ。天井が約4.6mもあり、ペンキがはがれた窓から港が一望できる。彼女はそこにポータブルの水蒸気蒸留装置と手動のハンドプレス機を持ち込み、自ら収穫した植物から有効成分の抽出を試みる。「素材にじっくり向き合って、どんな可能性を秘めているのか見極めたい」と言う。様々な植物をいじりながら、今後のフォーミュラ開発の参考にするために小さなメモ帳に気づいたこと――ヤマモモ:ワックス成分を分離するコツをまだ習得していない、など――を書きとめる。
ハリケーンで壊された障壁の木片で作ったアルカレーのデスクには、「The 10,000」コレクションのボトルが並んでいる。貼っていないように思われたラベルは、ちゃんとボトルの底に目立たないように貼られていた。「容器はシンプルなほうがラグジュアリーに感じられる」というのがアルカレーの持論なのだ。圧搾作業に戻ろうとしたアルカレーは、奇妙な形に押しつぶされたラズベリーの枝を見つけた。「あらまあ。あなたが踏みつけてしまったのね」と、彼女の足元で脚を伸ばしてぐっすり眠っているソルティーに微笑みかけた。
Kari Molver:フリーランスのライター。専門はビューティ、健康、ライフスタイル。シンプルな美の習慣の素晴らしさを伝えるウェブサイト「Routine Matters」の創設者