BY KAORU SAITO, PHOTOGRAPHS BY KEVIN CHAN
20年前、携帯電話はまだ大きく重く、30年前はポケベルがトレンドだった。そして40年前は、ファックスすら珍しかった。それが今や、スマホがお財布になり、遠隔操作で留守中に電化製品のオンオフを操れる。この半世紀での通信手段の進化はほとんど奇跡に近いのだ。それに比べると化粧品の半世紀は、効果の進化こそ目覚ましくても、化粧水は化粧水のまま、ファンデーションはファンデーションのまま、それ以上のものにはならなかった。でもここに来て、時代を二つ三つ飛び越えるような進化が起きているのだ。
結論から言うならば、自分の手でいきなり人工皮膚がつくれるハンディ型の先進機器が突然変異のように登場してしまったのである。どう説明してもそれは想像を超えていて、おそらく理解は難しいのだろう。それくらい革命的なのだ。30年前に、スマホの機能を説明してもきっと意味不明だったように。でも人工皮膚は、言わば美容における“不変の夢”。それがあっけなくかなってしまったと考えればいい。かなえてくれたのは「花王」。一瞬、意外にも思えるけれど、その成り立ちから考えると、花王のような、クイックルワイパーからファンデーションまでつくれる総合化学メーカーだからこそ成し遂げられたことなのだと、深く深く納得させられる。
スタートは、それこそオムツや生理用品といった不織布を進化させる過程で、繊維を素肌と一体化できないかと考えたこと。不織布も肌あたりのやさしさを追求するほど人肌に近づいていく。でもこれは肌に貼るのではなく、塗るのでもない。あくまで吹きつけるもの。目に見えないほどの繊維の分子を肌に噴霧すると、瞬時に極限まで薄い人工皮膚状フィルムができてしまう。その未来繊維ファインファイバーは、一般不織布の数十倍細く、柔らかさは1億倍とか。だから実現した“一見目に見えない完全なる一枚膜”は、はがそうとして初めて、フィルム状のものが肌に密着しているのがわかるほど薄く均一だ。それを新幹線以上の速さで肌に吹きつけ形成する機器も、開発当初バスルームがいっぱいになるほど大きかったサイズを、手のひらにのるほどまで小さくしたテクノロジーもすさまじい。
かくして、この世になかった超絶極薄フィルム生成機器の完成。想像してほしい。近いうち、シミも毛穴も欠点はそっくり一枚で覆ってしまう美肌の皮膚膜はもちろんのこと、色ムラをも一気に隠し、肌色さえ自然に変換できるファンデーション的人工皮膚も可能になるのだ。自分で自在に吹きつけて皮膚膜をつくるから、部分的なカバーや立体感づくり、艶肌づくり、将来はその人の顔立ちになりきるカラーメイクさえ可能なのだろう。
しかしそこはさすがの花王、第一弾となる今作でまた私たちの想像を超えてきた。自分でつくれる人工皮膚も想像を超えるが、実はこのファインファイバー、さらなる驚異的な特徴をもったのだ。それは、この人工皮膚膜が“創傷治療”にも等しいような肌質改善効果をもっていたこと。わかりやすく言えば、傷に直接貼って新しい皮膚を形成していく傷パッドのように、膜の中で化粧品では実現できないほどの適切な湿潤環境をつくり、驚くべき短期間で肌の角化状態の変化をもたらす特別な力をもっていたのだ。だから一作目は、夜のお手入れの最後に使ってそのまま寝る、オーバーナイトの薄膜マスク。
実はこのファイバー、瞬時に通常の100倍もの液体の取り込み、通常のシート系マスクとは次元の違う緻密さで長時間強力に肌に効果を送り続けるスキルをもつので、花王はその前に使うラメラ構造を整える美容液も同時デビューさせている。このラメラづくりと相まって、とてつもない仕上がりをもたらすしくみを完成させたのだ。一晩を経て、翌朝見えないフィルムをはがすと、肌がもう見違えている。たとえば毛穴が目立たなくなっていたり、ハリとツヤが生まれていたり、驚くべき変化が得られるのだ。それは、もともと美しい肌さえもが翌朝目を見張るレベル。上から覆うのではない、その膜の下でありえないほどのスピード感と的確さをもって美肌をつくっていくとてつもない人工皮膚膜の発明なのである。この一品の登場で、美容は完全に次なる次元に入っていく。