古いものと新しいもの、世界各国の趣向と英国らしさを情熱的に組み合わせ、部屋にありったけの色と模様を詰め込む――。英国を代表するインテリア・デザイナーたちは今、この国ならではの奇抜さを前人未踏のレベルまで極めようとしている

BY NANCY HASS, PORTRAIT BY DANIEL STIER, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 時代を超越し、世界を股にかけて、とにかく派手で風変わりなものを長年にわたって追求し続けるエキセントリックさにおいて、英国はほかのヨーロッパ諸国と一線を画している。たとえばフランス人を見てみよう。彼らはいまだに17世紀末や18世紀のルイ王朝時代の繊細な形や模様を崇拝し、それに続く19世紀のオスマン・スタイルをブルジョワ趣味だと酷評している。

フランスの左右対称のインテリアには昔ながらの深い赤や森林のような濃い緑、金色が多用され、イタリアのデザインも高く評価されてはいたものの、何世紀ものあいだ、激しい色や複雑な模様は排除されてきた。代わりに古典主義時代から用いられていた金箔や青白い漆喰を今も重用し、色といえば、縞模様のある大理石のような落ち着いた色あいだけが許されるといった具合だ(少なくとも、クレヨラ社のクレヨンのように鮮やかで幅広い色彩を特徴とするデザイン・グループ「メンフィス」が、イタリアのミラノで活躍した1980年代まではそうだった)。

画像: 6人のデザイナーの着想源となったインテリアから。 建築家のロバート・アダムが18世紀末エトルリアのモチーフを描いたオスターレイ・ハウスの壁 FRITZ VON DER SCHULENBERG / THE INTERIOR ARCHIVE

6人のデザイナーの着想源となったインテリアから。
建築家のロバート・アダムが18世紀末エトルリアのモチーフを描いたオスターレイ・ハウスの壁
FRITZ VON DER SCHULENBERG / THE INTERIOR ARCHIVE

 一方、島国である英国は長いあいだ、おおっぴらな不遜さを世界規模で発揮してきた。それは彼らの話す内容だけでなく、装飾品においても同様だ。たとえば、イランで14世紀に描かれたあの独特の雨だれ模様、ペイズリー柄を一大産業にしたのはイギリス人である。スコットランドにあるペイズリーは、18世紀から19世紀にかけて、ペイズリー柄のショールや布の織物産業で経済を発展させた。18世紀半ばになると、濃い色を多用するヴィクトリア風の装飾が新古典主義の後期や帝政様式の影響を受けた淡い色調にとって代わり、さらにエドワード王朝時代には抑制の効いたデザインが装飾の主流を占めた。

だが20世紀初頭になると、私たちが現在、ごった煮文化の英国デザインとして思い浮かべるような、世界に名だたるエキセントリックさが花開く。モダニズムが慎み深さを一掃すると、植民地時代のインドの官能的デザイン(鮮やかなピンクやサフラン色、布に縫い込まれた小さな鏡や色石のはめこみ細工など)を英国風にアレンジしたものが、かつてなく魅力的に映るようになったのである。1900年代初頭の英国社交界では、室内装飾家のレディ・シビル・コールファックスが手がけたインテリアが人気を誇った。彼女は今日の英国を代表する、陽気なごった煮的美意識を提唱した先駆者である。

ベアタ・ホイマン

画像: ベアタ・ホイマンがデザインした寝室。ヴィンテージ家具ショップ「オールド・シネマ」で買ったベッドサイド・テーブルの上にはグラハム&グリーン社のランプ。ベッドのヘッドボードにはクレアモント社の布が使われている PHOTO BY SIMON BROWN, COURTESY OF BEATA HEUMAN

ベアタ・ホイマンがデザインした寝室。ヴィンテージ家具ショップ「オールド・シネマ」で買ったベッドサイド・テーブルの上にはグラハム&グリーン社のランプ。ベッドのヘッドボードにはクレアモント社の布が使われている
PHOTO BY SIMON BROWN, COURTESY OF BEATA HEUMAN

その後、第一次世界大戦中の生活苦や、株式市場の大暴落によって富の大半を失ったことでも有名だが、そのため彼女は、当時台頭した「新品を買わず、古いものを修理して使う」というインテリアの手法を認めていた。時には巨大だったりする古くて面白い品々を、すり切れた織物や東洋の掘り出しものと組み合わせるやり方だ。フランス人やイタリア人とは違って、コールファックスをはじめとするこの頃の英国人装飾家たちは、特定の時代を崇拝したりせず、また排除することもなかった。彼らのインテリアは、古典を想起させるものやゴシックの再生、ナポレオン3世時代のセンス、東洋趣味、インドのモチーフを混然一体にしたものなのだ。ほかのヨーロッパ諸国が王政を廃止するなか、英国人たちは依然として王室への敬愛を持ち続けてきたが、次第に階級社会を居心地悪く感じるようにもなってきた。

オックスフォードシャーにあるジョージ王朝風の大邸宅「ディッチリー・パーク」の中に、コールファックスが手がけた並みはずれて豪華な部屋がある。ここ10年ほど、テレビドラマ『ダウントン・アビー』のシーンにこの部屋が登場すると、英国人は複雑な気持ちになる。海の泡のような緑色とバターのような黄色の部屋に大きすぎるシャンデリアが低くぶら下がり、華やかな刺繡が施されたシルクのカーテンが何マイルも続くかのように波打ち、赤紫色のベルベットのソファにはクッションが置かれている。今見ると、こうした装飾は、古典のもつ高尚さのパロディなのだと解釈することができる。

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