チリの海岸を舞台に現代の建築家たちが創造した数々の家。周囲に広がる風景さながらに荒涼で壮大なその家は、どれも見る者を惹きつけてやまない

BY MICHAEL SNYDER, PHOTOGRAPHS BY JASON SCHMIDT, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 チリ南部の小さな町、コンセプシオン。その端にある丘に、高さ約18mの塔がそびえている。ユーカリと松の樹木の茂みの中にあるのは、なんの飾りもないコンクリート製の長方形の建物だ。ごく普通の2階建ての家が並ぶ住宅地を縫うように、穴ぼこだらけの道が伸びている。その道を突きあたりまで行くと、木々で覆われた丘に、その塔がいきなりにょっきりと出現するのだ。塔の壁面にはさまざまな大きさの四角い窓が穿うがたれ、それらはまるでクロスワードパズルの中に点在する黒いスペースのように見える。すべて直角で構成され たこの塔の堅牢な形状からすると、穀物を蓄えておくサイロか、南方に位置するビオビオ川周辺を監視するための見張り塔としても機能しそうだ。

ちなみにビオビオ川は、過去300年間にわたり、スペインが統治する植民地と、その南で自治を守り通した先住民マプチェ族が住む地域を隔てる境界線として存在してきた川だ。しかし実際は、この建物は45歳のマウリシオ・ペソと42歳のソフィア・フォン・エルリッヒスハウゼンの自宅兼事務所である。ふたりが設立した建築事務所「ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼン」はチリの先進的な建築家の一派に属し、作品を通してチリならではの美を実践的に表現してきた。その美学とは、ブルータリズムを思わせる美を追求しつつ、チリ独特の自然や風景にも敬意を払うというものだ。

画像: ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼン事務所設計の「カーサ・シエン」。コンセプシオンの丘に屹立するコンクリート製の塔は、共同経営者である夫婦の自宅兼オフィスである

ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼン事務所設計の「カーサ・シエン」。コンセプシオンの丘に屹立するコンクリート製の塔は、共同経営者である夫婦の自宅兼オフィスである

 ペソ・フォン・エルリッヒスハウゼンの塔は、海抜100mの位置に建っていることから「カーサ・シエン」(シエンは100の意)と名付けられた。この塔の設計図を見ると、左右非対称の十字架が建物全体を貫くような構造で、その構造上の制約のために同じ長方形の空間がいくつも存在している。塔には寝室などが占める7階分とオフィス・スペースの3階分があり、それぞれの空間が、きっちりかみ合わさったパズルのように垂直に積み重なっている。チリ産のイトスギを手作業で削ったブロックでつくられた狭いらせん階段が、キッチンとリビングルームがある高い土台部分と塔とをつないでいる。家主のふたりは、まず外壁を鉄筋コンクリートで固め、その後、手作業で外壁を少しずつ削っていった。コンセプシオンから2時間ほどの郊外で子ども時代を過ごしたペソは、その作業を「美しき破壊」の工程と表現する。

 南半球の真夏である1月のある夜、フォン・エルリッヒスハウゼンは「私たちがこのビルを建て始めると、たちまち近所の人たちの噂の的になってしまった」と話してくれた。彼女はチリとの国境沿いにあるアルゼンチンのリゾート地、バリローチェで育った。「僕たちがビルの前に立っていると、人々がやってきて『これ何?』と聞くんだ」とペソが言うと、「あるときなんて、誰かがやってきて、私たちに『これはなんの跡?』と聞いてきたことも」とフォン・エルリッヒスハウゼンが続ける。「そっちのほうがずっといい質問だったけど」

 北の国境にはアタカマ砂漠が広がり、東にはアンデス山脈がそびえ、西には太平洋が横たわるチリは、その特異な自然環境によって絶えずその存在を定義されてきた。荒野の真ん中にではなく、“つねに”荒野の崖っぷちに位置する存在として。16世紀になると、インカ帝国が現在のチリ国土の北半分にあたる領土を支配した。そこは、人口が多く繁栄していたペルーの中心部と、南部に広がる未開発の森林のあいだの緩衝地帯だった。その後、スペインによる支配がコンセプシオンにも及ぶと、この地は19世紀初頭まで、敵対するマプチェ族の領土を監視する軍の駐屯地となった。

スペイン王政による支配は、1492年のコロンブスの航海以前にメキシコ、ペルー、そしてチリにすでに存在していた優れた文明を下地にして発展した。だが、植民地経営で繁栄した他国と違って、この三地域には当時、鉄やアルミなどの貴重な金属がほとんど存在しなかったために、建物の多くは素朴な造りで、頻繁に起こる地震で倒壊してしまった。よってチリでは、上流階級ですら代々虚飾を排し、徹底的にシンプルな機能性を追求してきた。たとえばコンセプシオンでは、現存する最も古い建物は、1950年代に建てられたものだ。

 

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