チリの海岸を舞台に現代の建築家たちが創造した数々の家。周囲に広がる風景さながらに荒涼で壮大なその家は、どれも見る者を惹きつけてやまない

BY MICHAEL SNYDER, PHOTOGRAPHS BY JASON SCHMIDT, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 海岸線を2時間ほど下ると、高速道路が舗装されていない道に変わり、やがてバイアアスールという静かな海沿いの開発地に着く。板葺き屋根の小屋やガラス張りの箱のあいだを縫うように車で走った先に、金属製の門がある。道路からは木で覆われて見えないこの家が、セシリア・プガが、重力に対抗してつくり上げた「バイアアスール・ハウス」だ。鉄筋コンクリートを使って自分の母親のために2002年に建設したこの家で、プガはクロッツとイスキエルドが手がけた“重量のない家”のコンセプトを逆手に取り、実際に家一軒を逆さまにしてしまった。

 もともとの母からの注文はシンプルで、プガの5人の兄弟全員を一度に招ける充分な広さがあり、維持するのにあまり手がかからない家、というものだった。プガは中部の海岸沿いを何週間も車で走り回った。南にあるサントドミンゴの黒い砂浜から、ロスビロスという漁村の少し北にあるウエンタレウケン――サボテンが群生した長いスロープ状の丘まで、約402㎞を走破した。そのドライブ中に、彼女は廃虚と化した鉄道駅の跡を通りかかった。

画像: ロスビロスのバイアアスールにある、セシリア・プガ設計の家。普通の家の形をした3つのコンクリート製の箱を組み合わせ、ほかの二つの上にひとつの家が逆さまに乗った形をしている。照明はイサム・ノグチのデザイン、バタフライチェアはノール製

ロスビロスのバイアアスールにある、セシリア・プガ設計の家。普通の家の形をした3つのコンクリート製の箱を組み合わせ、ほかの二つの上にひとつの家が逆さまに乗った形をしている。照明はイサム・ノグチのデザイン、バタフライチェアはノール製

かつて駅だった建物の残骸の影が、暗褐色の丘に映し出されている。その光景は、彼女がさらに北を訪れたときに目にした、合板と段ボールでできた素朴なビーチハウスがあちこちに出現している風景と重なった。銅山の労働者たちが、時にはひと晩の即席でつくったようなビーチハウスだ。富裕層が何世代に もわたってしてきたように、低所得者層のコミュニティは、海辺へのアクセスがあるその土地の所有権を主張していた。同じような家が並んでいるその光景はプガに、2007年にテキサス州のマーファに旅したときに見た、ミニマリズムのアーティストであるドナルド・ジャッドがつくった彫刻を思い出させた。

 バイアアスール・ハウスの建築は、先人たちが用いてきたのと同じ基本的な形状からまずはスタートした。四角の上に三角を乗せるという、いかにも子どもが絵に描きそうな家だ。外壁にはコンクリートを使った。手入れが簡単で、繰り返したたきつけるように吹く海風を受けても丈夫な素材だからだ。外壁にコンクリートを張り巡らせる工程をさらに3回繰り返し、合計209m²もの建物をすべて覆った。そして、土地の地質調査で何も障害物が埋まっていないことがわかると、プガは3つの構造体をさまざまな方法で組み合わせる実験を始めた。いろいろ試した結果、ひとつの家を逆さにし、ほかの二つの家に乗せることにした。絶妙なバランスが必要なデザインを、地震の多いこの地域であえて試し、「この家が、いかにもろく壊れやすいかを強調したのです」と彼女は言う。

 

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