チリの海岸を舞台に現代の建築家たちが創造した数々の家。周囲に広がる風景さながらに荒涼で壮大なその家は、どれも見る者を惹きつけてやまない

BY MICHAEL SNYDER, PHOTOGRAPHS BY JASON SCHMIDT, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 海岸から少し崖を上がったところにあるオチョケブラーダスと呼ばれる開発地区に、51歳の建築家アレハンドロ・アラベナが設計した家がある。プガの作品よりもさらに、過激なまでにムダをそぎ落とした作品だ。彼は25年間のキャリアの大部分を、低所得者向けの公共住宅や都市計画プロジェクトを手がけることに費やしてきた。そんなアラベナと彼の事務所「エレメンタル」がディベロッパーのエドゥアルド・ゴドイからの依頼を2012年に受け入れたのは、プロジェクトにほとんど制約をつけない、という条件があったからだった。アラベナいわく、このプロジェクトは「『家に住むとはどういうことか、どこまで生活をシンプルにできるか』を問う機会」になったという。

 アラベナが一戸建ての住宅を手がけたのは、これがわずか3軒目だ。約278m²の広さのあるオチョケブラーダスの住宅は、苔に覆われた岩だらけの崖っぷちに突き出すように建っている。家は巨大な3つのブロックでできている。ひとつは地面に平行に置かれ、ひとつは垂直に立ち、3つめは太く大きいタワーにぐっと寄りかかっている(寄りかかっているように見えるだけで、実際に接してはいないのだが)。まるで太古の地震によって倒壊した、滅び去った文明の遺跡のようだ。高速道路から遠く離れ、草も生えない岩だらけの丘にあるその家は、遠目に見ると実際の大きさや築年数がまるでわからない。まだ建築途中のようでもあり、すでに朽ちかけているようにも見えるのだ。

画像: ロスビロスの近くに、プリツカー賞受賞者のアレハンドロ・アラベナが最近完成させたバケーション用の家がある。海岸を見渡す丘の上に3つのコンクリート製の構造体が重なるように建つそのさまは、まるで巨大な石が互いに寄りかかっているように見える

ロスビロスの近くに、プリツカー賞受賞者のアレハンドロ・アラベナが最近完成させたバケーション用の家がある。海岸を見渡す丘の上に3つのコンクリート製の構造体が重なるように建つそのさまは、まるで巨大な石が互いに寄りかかっているように見える

建物の構造を形作るコンクリートを固める際に使った松の壁板は、内壁を覆うのに利用されている。垂直のタワーの中にある寝室は修道僧の部屋のように簡素で、階下にあるリビングの空間はそっくり海に面している。米国の多くの州やヨーロッパではバルコニーや手すりをつけることが建築法で義務づけられているが、ここには視界を遮るものは何もない。斜めに立っているコンクリート製のブロックの中は空洞で、上部が空に向かって開いている。下に位置する中庭の中央には焚き火をする場所がしつらえられ、斜めのコンクリート・ブロックが煙突のような役割を果たしている。スライド式のすべての壁を開け放つと、潮風が部屋の中に吹き込み、室内と屋外の境界を消し去ってしまう。実際は高度な科学技術を使って建設されたにもかかわらず、この家にいるとまるで洞窟の中にいるような原始的な気分になる。

 崖の上に建つこの家が倒壊と崩壊を連想させるように、オチョケブラーダスに関わる建築家たちは、自分たちが地震の多い環太平洋地帯の地殻構造に対して無力であることを知っている。地震の存在によって、チリの建築家たちは20世紀のあいだ、たとえばブラジルのオスカー・ニーマイヤーやメキシコのフェリックス・キャンデラが手がけた、重力に逆らうかのようなエネルギッシュな建造物をつくることはできなかった。あるいは、アメリカのアイコン的存在であるリチャード・ノイトラやフランク・ロイド・ライトが好んだような繊細で透明なガラス張りの建物も。チリの地勢ではそんな建物は不可能だった、とアラベナは言う。薄い壁や細い柱は、下にある地面が揺れれば壊れてしまうからだ。「ほかの場所では不可能で、この場所でしかできないことが何なのかを見つけたい」と彼は続ける。「とことん原始的であることを追求できる。チリでは、それがわれわれに与えられた贅沢なんだ」

 

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