4年ぶりに来日したNYのデザインユニット、ローマン&ウィリアムス。日本のクラフトに魅了された彼らが、ライフスタイルショップ「ローマン&ウィリアムス ギルド」で試みる新たなプロジェクトとは

BY JUN ISHIDA

石田親子の自宅兼工房を訪れたローマン&ウィリアムスの二人(右端からスティーブン・アレッシュ、ロビン・スタンデファー)と遠藤ゴー(左端)。中央が石田征希、その左が知史

PHOTOGRAPH BY SATOSHI NAGARE

 ニューヨークのデザインユニット、ローマン&ウィリアムスのロビン・スタンデファーとスティーブン・アレッシュが桜の開花とともに日本にやってきた。2019年以来4 年ぶりの来日となった二人は、10日間にわたり京都に滞在した。旅の目的のひとつは、彼らが営むライフスタイルショップ「ローマン&ウィリアムス ギルド」(以下「ギルド」)でその作品を扱う、日本の作家たちに会うことだ。「ギルド」のスタイルディレクターを務めるアカリ・遠藤ゴーとともに、岡山、和歌山、新潟、金沢などへ8 組の作家を訪ねてまわったその旅の一部に同行し、京都・洛北の地でガラス工芸を営む石田征希(せき)、知史(さとし)親子の工房を訪れた。

耐火石膏をかけた外型に文様を線刻し、水で溶いた色ガラスの粉で絵付けしてゆく

PHOTOGRAPH BY SATOSHI NAGARE

 詩仙堂近くの閑静な住宅街にある一軒家。美しい庭園を備えたこの場所で、石田親子はガラス作りに取り組んでいる。制作しているのは、紀元前の古代メソポタミア時代に起源をもち、アールヌーボー時代のフランスで再び花開いた古代ガラス技法「パート・ド・ヴェール」を用いた品々だ。

 もともとは着物や帯の染織図案を手がけていた母の征希と今年3 月に逝去した父の亘(わたる)が、展示されていた「パート・ド・ヴェール」に出会い、もはや失われた技術となっていたその製法を独自に研究。異国の技術と日本の感性が結びつき、繊細で可憐なガラス作品が誕生した。その手法をこまやかに説明してくれる石田親子の話に聞き入りながら、「失われゆく過去の貴重な技術を受け継ぎながら、未来に向けて更新してゆく。それはまさしく私たちが目指しているものです」とロビンは言う。

画像: 右から父・亘、母・征希、息子・知史の作品。同じ技法を用いながらもそれぞれの個性が光る PHOTOGRAPH BY SATOSHI NAGARE

右から父・亘、母・征希、息子・知史の作品。同じ技法を用いながらもそれぞれの個性が光る
PHOTOGRAPH BY SATOSHI NAGARE

 これは「ギルド」のコンセプトにも通じるものだ。「私たちが活動の基本としているのは、未来のクラフトを"ケア" すること。作家の方々は、すべてを捧げ、物づくりに取り組んでいます。その技術に、現代の顧客を魅了するデザインや美しさを盛り込んでアップデートし、ビジネスにもつなげてゆくことで、次の時代に受け継いでいく。それは企業家でもある私たちの使命だと考えています」(ロビン)。

 「ギルド」で作家たちの作品を紹介することからさらに一歩踏み込んで、彼らは新たな試みも始めている。新潟・燕三条にある町工場と熟練の職人とともに、オリジナルのカトラリーを制作するプロジェクトだ。
「これまでにスウェーデンで椅子を、フランスでは照明を作ってきました。でも自分たちが理想とするカトラリーを具現化できる職人たちが、ヨーロッパには見つからなかった」とロビンは8 年に及んだ歩みを振り返る。

カトラリーのスケッチを描くスティーブン
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

画像: カトラリー制作に携わる町工場のひとつで、使い込まれた機械に見入るロビン。町工場での作業は、燕三条でも作品制作をしている岡山の真鍮作家・菊地流架(るか)監修のもと進められている PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

カトラリー制作に携わる町工場のひとつで、使い込まれた機械に見入るロビン。町工場での作業は、燕三条でも作品制作をしている岡山の真鍮作家・菊地流架(るか)監修のもと進められている
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

「アカリに日本の作家が作ったカトラリーを紹介され、その技術の高さに改めて驚きました。日本の職人や町工場は、時間をかけた物づくりのプロセスを大切に守っています。そうして作られる品々は、海外の工場生産品とは比べものになりません。現在、燕三条で作っているカトラリーは、14の工程を異なる職人が手がけているんですよ!」とスティーブンは興奮ぎみに言う。

 近年、世界的にも日本のクラフトへの関心が高まっているが、日本に生まれ育ち、その後フランス、アメリカへと移り住んだアカリ・遠藤ゴーは、もはやほかの国には見られなくなった日本の丁寧な物づくりを讃えながらも、「日本の職人技は財産ともいえるものですが、世界に知ってもらい、ビジネスにつなげないと日に日に失われていってしまう」と警鐘を鳴らす。

金属の塊からカトラリーの型をコツコツ彫り出す熟練の彫金職人
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

 2021年、彼らは店舗とは別のスペースに「ギルド・ギャラリー」をオープンした。「アメリカでは、クラフトの作品はファインアートと区別して考えられることが多く、クラフトの作家たちの作品を見せるギャラリーが少ないんです。彼らの生活を支え、そしてその価値を知らしめるための場所が必要だと考えました」とロビン。キュレーションを担う遠藤ゴーは「クラフトの作家の中でも、日常で使う品を作りながら、その技術を活かして創造性の高い作品も作る作家、あるいはクラフトの技術を活かして作品制作をしている作家、そういった方々の作品を、世界中からキュレーションしています。クラフトアートとして、ファインアートを見るお客さまに紹介するのが目的です」とその志を述べる。

岡山の備前で作陶する森本英助(右)と仁の親子
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

 今年秋には、海外で開催される大型アートフェアへの参加も予定しているという。「一人の作家が陶芸の全工程を手で行う『スタジオ・ポタリー』をテーマに、日本人作家の作品も展示しようと考えています」と遠藤ゴー。異国の地で、日本の工芸が大輪の花を咲かせようとしている。

今年の秋開催のアートフェアに出展する予定の森本英助による作品。柔らかい風合いが特徴だ。息子の仁は備前土を白く焼き締めた作品「白花」の制作にも取り組んでいる
PHOTOGRAPH BY JUNPEI KATO

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