東京国立近代美術館で開催されている『高畑勲展—日本のアニメーションに遺したもの』。その会場で、映画監督・細田守に、本展のみどころ、そして高畑作品の魅力と演出術について話をきいた

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 『アルプスの少女ハイジ』の展示スペースでは、美術監督・井岡雅宏による背景美術も並ぶ PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

『アルプスの少女ハイジ』の展示スペースでは、美術監督・井岡雅宏による背景美術も並ぶ
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 本展で、細田監督が、多くの人に見てもらいたいというのは背景美術。特に「美術監督の椋尾篁(むくおたかむら)さんが、ほとんどひとりで描いたという『セロ弾きのゴーシュ』(1982年)は必見」だと話す。

「僕も雑誌の特集などで拝見していましたが、その“生”美術を見るのははじめて。そこには“どういうタッチにするか”と、椋尾さんが、高畑さんとの打ち合わせ用に試し描きしたイメージボードも展示されています。アニメ業界では有名な逸話ですが、このとき高畑さんは、椋尾さんに何度も描き直しをさせているんです。そして実際に採用されたのは、一般的にアニメーションには適さない水墨画のような絵。マンガ的、アニメ的ではない、美術的な絵柄を高畑さんは作品に取り入れたわけです。セリフまわしやキャラクターの演技だけでなく、絵でいかに作品の世界観、ひいては主題を表現し得るか、こそアニメーションづくりの醍醐味。またこうした表現の工夫、絵画的なアプローチは、惜しくも遺作となった『かぐや姫の物語』まで、高畑さんの作品に一貫してみられるものです」

画像: 『赤毛のアン』のセル付き背景画。「主人公のアンの目の下には、くぼみが描かれています。それがリアルなんだけど写実的になりすぎていない。マンガ的な要素と写実的な要素の両方が、うまくキャラクターに落とし込まれている」と細田監督 © NIPPON ANIMATION CO.,LTD.“Anne of Green Gables”™ AGGLA

『赤毛のアン』のセル付き背景画。「主人公のアンの目の下には、くぼみが描かれています。それがリアルなんだけど写実的になりすぎていない。マンガ的な要素と写実的な要素の両方が、うまくキャラクターに落とし込まれている」と細田監督
© NIPPON ANIMATION CO.,LTD.“Anne of Green Gables”™ AGGLA

 展覧会の解説文でも、高畑が“鳥獣戯画”をはじめとする絵巻物研究をおこなっていたことを紹介。展示された『平成狸合戦ぽんぽこ』のイメージボードには、江戸時代の絵師、歌川国芳が描いたような妖怪たちが見つかる。『かぐや姫の物語』の製作時のインタビューで高畑が語っているのは、水彩画による表現への挑戦、また絵画の基本要素である“線”へのこだわりについて、だ。

 高畑は、実際にアニメーション作品を制作するかたわら、美術館を巡り、『一枚の絵から 日本編』(岩波書店)という美術エッセイも出版している。驚くのは、雪舟や円山応挙、伊藤若冲などのラインナップのなかに、男鹿和雄も並んでいることだ。男鹿は、数々のスタジオジブリ作品、また高畑の遺作『かぐや姫の物語』の美術監督を務めた人物。その彼を高畑はたしかに“画家”として位置付けている。

画像: 『平成狸合戦ぽんぽこ』のイメージボード。画中には、“国芳”の文字も見られ、高畑の美術研究が反映されていることが伺える © 1994 畑事務所・Studio Ghibili・NH

『平成狸合戦ぽんぽこ』のイメージボード。画中には、“国芳”の文字も見られ、高畑の美術研究が反映されていることが伺える
© 1994 畑事務所・Studio Ghibili・NH

「一般的に、19世紀に写真が発明され、連続写真として映画ができ、アニメーションが生まれたといわれています。が、僕はそうは思いません。アニメーションが、単なる映画の傍流、オプションにすぎなかったら、つまらないでしょ? これは、僕の我田引水ですが、きっと高畑さんも、絵画の歴史の延長線上にアニメーションがあると確信していて、だから絵画研究をしていたのだと思います」と細田監督。

 そして、細田監督はそこにアニメーションの本質と可能性を見出す。「画家たちも写真が生まれてから、“絵画とは何か”、“絵で何が表現できるか”を考えながら、作品を生み出してきたはず。そういった問題意識を高畑さんも共有していたのでしょう。そして自身も、絵を動かす表現である“アニメーションとは何か”という問題に向き合いながら、作品を生み出してきたことがこの展覧会でわかります。現在、世界的に見てもCGアニメが主流で、たとえばキャラクターが着ているセーターの編み目までしっかりわかるような、リアルな絵が無意識的によしとされる風潮がありますよね。しかし、それは技術の問題に過ぎないとも言えます。アニメーションにとって、絵とはなにか。そして、アニメーションならではの表現の素晴らしさ、楽しさとはなにかーー。そういった本質的な問いを高畑さんは、惜しくも回顧展となった本展でわれわれに投げかけているんです」

『高畑勲展—日本のアニメーションに遺したもの』
会期:〜10月6日(日)
会場:東京国立近代美術館
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は〜21:00)
※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜(9月16日、9月23日は開館)、 9月17日(火)、9月24日(火)
入館料:一般 ¥1,500、大学生 ¥1,100、 高校生 ¥600
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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